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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第三章 僕は毒を盛られたくない
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9.アイビーは乗っ取られる

『まったく。諸君、子守りをご苦労』


 その声が聞こえた時、僕は呆然としてしまった。

 それはクローやティオーラ姉さんにしても同じだったと思う。


「ビー様? どうしたんです?」


 クローが僕の顔を覗き込む。


『戦力外の子どもを守りながら戦うというのは、さぞかし大変なことだろう、まったく』


 その声は、僕の口から発せられているのだ。


(まただ……また身体が勝手に!!)


 カールリンネ侯爵の屋敷で起こった事と全く同じだ。

 目も、口も、身体も、全て僕の言うことを聞かない。


 僕の身体は、何者かに乗っ取られてしまったのだ。

 

(誰か助けて! クロー! 姉さん!)


 そんな焦りをよそに、僕の口は勝手にペラペラと喋り出す。


『どうだろう。ここらで私に力 試しをさせてもらえないだろうか? いつまでも守られる側でいては成長する事はできないだろう』


 クローはティオーラ姉さんと顔を見合わせている。


『まあ、見ていてくれ。私も役に立つのだから』


 そう言うと、僕の右手は左手のグローブを外して投げ捨てた。


 そこには、発芽しないまま今日まで来たヤドリ草の種がぼんやりと光っていた。


『さあ、来い。私が使ってやろう』


 僕の口がそうささやいた。


(何だ? 何をするつもりだ)


『来い、そうだ、早く、来い』


 まさか、と思った。

 声に呼応するかのように、手の甲の光が強くなる。


「この光は、発芽……?」


 クローがたじろぐように声をあげた。


(嘘だろ……今さらなんで……)


 僕の戸惑いをよそに、『その時』が訪れた。


 種に、うっすらと筋が入った。

 ドクン、と身体の血が波打つ。

 一本の線から割れ目へ。

 小さな、細長くくるまった葉先が見えた気がした。


(これが……発芽?)


 手の甲が熱い。

 光が強くなり目が痛い。

 そのうち、種に身体中の血を吸われているような感覚になった。


(僕の魔力を吸収してるってことか……)


 じんわりとした心地よさに意識が飛びそうになる。


『さあ、来い』


 その声を合図にして、一気に光が突き上げる。

 その光線を僕の手がしっかりと掴んだ。


 光が収縮し、その中に白い小さな壺のようなものがたくさん見えた。


「まさか……《鈴乱(すずらん)》?」


 シオン村の少女の、驚いた声が聞こえた。


(スズラン……?)


 二枚のククリのような形の葉。

 ゆるやかに曲がった茎の先にはいくつもの白い壺のような花が付いていて、どの花も淡く光っている。


(……これが……僕のヤドリ草――?)


『さあ、力試しだ』


 そう言うやいなや、僕の身体は駆け出し、跳んだ。


「ちょ、ちょっと待ってください! アイビー様!」


 焦った声は、クローのものだ。

 けれど僕の身体は少しも止まらない。

 向かう先は、骨の翼の女。


「うゴォッガア!」


 吠える女に向かって、僕は距離を保ったまま発芽したてのヤドリ草を振り下ろした。


 リーーン……と涼やかな音がした。


 それと同時に明かりの灯った壺から、幾つもの光が発射された。

 シュパッシュパッと軽い音と共に女が後ろにのけぞる。

 光が命中したのだ。


(そ……狙撃型のヤドリ草なのか?)


 時間を空けず、またもや僕の腕は勝手に動き、《鈴乱(すずらん)》が女に向かって攻撃を入れる。


 女は素早く横に飛んだ。

 片足に《鈴乱》の光があたり、血しぶきがあがるが、痛みを感じないのかそのまま素早く間合いを広げた。


 一連の動きに僕の意思は微塵も働いていない。

 全て、何者かに操られるがままだ。


「アイビー様、そのまま下がってください! あとはあたしらが――」


『焦るなよクロー。まったく。よく見たまえ』


 どこか余裕のある声色だった。

 指が勝手に動き、顔の前に垂れた髪を一房、耳にかけた。

 口の端が片側だけ上がっていくのを感じる。


(僕は……笑っているのか? こんな状況で?)


『そら、もう効いてきた』


 見ると、女の身体が小刻みに震え出している。


(今度は何だ!? 何が起こっているんだ!?)


 女はそのまま前のめりに倒れ、痙攣したまま何度も嘔吐している。


『勝負あったな』


「アイビー……これは……」


 ティオーラ姉さんが驚愕の表情のまま、僕を見つめる。


『《鈴乱(すずらん)》。遠距離からの狙撃が可能で、攻撃と共に奏でられる音色は鈴のように美しい。しかし、その毒性は強く、葉・幹・根・花全てに毒を持つヤドリ草だ。アンデッドだろうが何だろうが関係ない。ヤドリ獣ごと狂わせるほどの猛毒さ』


 僕の口から飛び出す声は、どこか皮肉めいた口調でそう言った。


『これを息子のヤドリ草として選ぶとは、さすがあの人だ。ぴったりだよ』


 僕を乗っ取った何者かは『まったく』と言ってわざとらしくため息をついた。



『毒とは、弱き者、小さき者が生き延びるために使うものだからな』


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