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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第三章 僕は毒を盛られたくない
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7.アイビー達は登場する

「怪しい奴らの姿を追って、正解でしたよぅ」


 ローブをまとった女性がそう言った。


「私のヤドリ獣は、全てお見通しですからねぇ」


 滑らかな銀糸のような長い髪に、闇夜に浮かぶ白い肌。

 この状況をどこか楽しんでいるかのように、琥珀の瞳が笑っている。


「で、どうします? ビー様。どのくらいで始末できるか賭けますか?」


 二歩、三歩と前に出て構えたのは、鳶色の髪の女性だ。

 赤みを帯びた瞳を細めてごろつき達を見下ろしている。

 皮の鎧を身につけ、少女を庇うように立つ姿は、貴族に雇われた護衛そのものだった。


(ああ……本物の護衛というのは、こんなにも気迫があるんだ……)


 盗品の服と上辺の演技に騙されて、ゴロツキの男を貴族の護衛だと信じてしまった自分が恥ずかしかった。


 薄笑いの彼女が放つ殺気に気圧されたようにして、ゴロツキ達は各々の獲物を構えた。

 お互い目配せし合って、逃げるべきか闘うべきか逡巡している様子だ。


「あなた達……まさか……」


 かすれた声がしてそちらを見ると、キョウ姉ちゃんが呆然としている。


(……? 姉ちゃん?)


「おい、急に出て来てお前ら何者だ!」


 太った男が威嚇するように大声で怒鳴る。

 すると金髪の少女がビシッ姿勢を正した。


「姉さんを探して旅をしてます! ビーと申します!」


 場にそぐわない礼儀正しさに、ゴロツキ達は思わず黙り込む。


 続けて銀髪の女性がお辞儀をした。


「人生ほろ酔い中、ティオーラですぅ!」


 彼女はそう言うと、前方にいる護衛の女性をじっと見つめた。

 金髪の少女がトテトテと近づき、「ほら、クローの番」とささやいている。


「自己紹介、して?」

「いやです。無理です。やりません。二人共こんな時に勘弁してください」

「クローもかっこよく名乗りましょうよぅ。あ、私が台詞考えてあげますよぅ。『博打は打っても下手は打たない、クローだ!』とかどうですぅ? かっこよ――」

「よくない」


 そう言い捨てたクローという女性は、半笑いのままゴロツキをにらみつけた。


「……というわけで、あたしらが相手だ」


 そう言うが早いか、巨漢の男に切り掛かった。

 手のひらが緑色に輝き、ヤドリ草が勢いよく突き出る。

 鈍く光るのは灰褐色の茎だ。

 緑色の葉が舞い落ちる。


(あれは……《太刀花(たちばな)》! あんな風に使いこなせる人がいるなんて……)


太刀花(たちばな)》はその威力こそ桁違いなものも、扱いの難しいヤドリ草だ。

 うねる刀身や無数の棘で自分を傷つける事なく操る彼女は、よほどの使い手なのだろう。


「な……くそっ!」


 慌てた巨漢の男は持っていたダガーでなんとか受ける。

 力任せに押し返そうとするが、剣士はそれを刀身で受けて横に流した。


 急いで応戦しようと痩身の女が剣士の背中から飛び掛かるが、難なく防がれ、逆にナイフを弾き飛ばされた。


「くっ……弱い奴からやっちまえ!」


 両の手にナイフを持った赤茶髪の男が、金髪の少女に飛びかかろうとする。


 人質にでも取るつもりだったのだろう。

 しかしそれをローブの女性が許さなかった。

 彼女の両腕から白い影が飛び出し、男の顔へと飛び掛かる。

 男はたまらず悲鳴を上げた。


「あれは……《天眼鼠》? あんなにたくさんのヤドリ獣を一人で……」


 男は両手のナイフを振り回すが、小さな《天眼鼠》には当たらない。

 すると、男の顔をかすめるようにして、細身の小刀のような物が数本地面に突き刺さった。


「あ、外しましたぁ」

「ティオーラ姉さん、それは?」

「私のヤドリ草《酔閃(すいせん)》ですぅ」


 彼女はそう言って、深緑色の葉を針のように赤茶髪の男に投げつける。

 男はたまらず地面を転がりながら避ける。


「うーん、《天眼鼠》と《酔閃(すいせん)》、どっちとも使おうとすると上手くコントロール出来ないんですよねぇ」

「ティオーラ姉さん、そんなヤドリ草持ってるなんて、聞いてませんよ!」


 金髪の少女が驚いた様子でティオーラと名乗った女性を見つめる。

 あの数のヤドリ獣を操り、さらに別のヤドリ草を植え付けていたとなると、使う《糸》にお金が相当かかったはずだ。


「一応、切り札の一つなんで、隠してましたよぅ」

「なんで僕にも隠すんですか!」

「隠し酒って格別じゃないですかぁ。切れ味が増す気がするんですよぅ」

「姉さん、意味がわからないです」

「それはあなたが、まだお酒を飲んだことがないせいですぅ」

「絶対違います」


(……僕?)


 二人の会話の中で、少女の言葉遣いに違和感を覚えたものの、ゆっくり考えている時間はなかった。


「スミ……これを」


 気がつくと、あたしの横にキョウ姉ちゃんが来ていた。


「解毒剤よ。早く飲んで」


 差し出された丸薬を急いで飲み込む。

 その時、痩せた女が大きく動いた。

 先ほど弾き飛ばされたナイフを拾い、後ろからキョウ姉ちゃんに切りかかったのだ。


「姉ちゃんっ――!」


 悲鳴のような声が出た。

 けれど次の瞬間――。


 キィィン――と音をたてて、女の攻撃が弾かれる。


「姉ちゃん……それは……」


 キョウ姉ちゃんは、両の手で、光る刃を構えていた。


「言ったでしょう。別のヤドリ草も植え付けているって。これがもう一つのヤドリ――《凶竹刀(きょうちくとう)》よ』


 二人は再び切り結ぶが、獲物の大きさからしてキョウ姉ちゃんが優勢だった。

 相手を見据えながら、姉ちゃんがポツリと声を漏らす。


()()()私だって役に立つのよ」


(……今度は? 何の事だろう)


 その間に、剣士の女性はごろつき達を追い詰めていき、とうとう巨漢の男を切り倒した。


 赤茶髪の男に、クローとティオーラの二人が相対する。


「聞いてたよ、あんたも賭け事が好きなんだって?」


 唇の端を釣り上げたような笑顔を浮かべて剣士は低く言った。


「あんたと私、どっちが勝負強いかな」

「うるせえ! 《角岩蛇》! やっちまえ!」


 オレンジの眼球がぎょろりと開かれ、《角岩蛇》が剣士に飛びかかる。


 しかし剣士は身を翻して攻撃をかわし、そのまま《太刀花(たちばな)》を唸らせた。

 横腹に剣撃を受け、ヤドリ獣は苦しそうに吠える。

 力の差は歴然だった。

 ヤドリ獣はもがくように尻尾を地面に打ち付けている。


「本当の勝負師ってのは、追い詰められた時こそ真価を発揮するモンだよ」


太刀花(たちばな)》をくるりと回転させ、クローは目を細める。


「引き際がわからん奴に、賭け事はまだ早いな」


 キョウ姉ちゃんの攻撃をなんとか避けた女が、赤茶髪の男のそばに転がるようにして駆け寄った。


「こんなの聞いてないわよ! どうすんの!」

「しょうがねぇ……おいお前、この前盗んだヤドリ獣の卵、植え付けただろ? そいつを早く出せ!」

「は? まだ孵化してないわよ!」

「くそっ使えねぇな!」


 ごろつき達は何やら内輪揉めをしている。


 圧倒的だった。

 金髪の少女と共に現れた二人とキョウ姉ちゃんは、ごろつき三人と《角岩蛇》をわずかな時間で打ち倒そうとしている。


「ああもう、逃げるわよ! あんた――」


 痩せた女が、そう相棒に言いかけた時だ。

 ガクン、と彼女は膝をついた。

 力が入らないのか、もがくようにして手が宙をかく。

 女はかすれた声を絞り出した。


「……あんた……何した?」


 青ざめた顔で痙攣する女は、相棒を見上げる。

 赤茶髪の男は薄く笑った。


「この前見つけた掘り出しもんさ。こいつでお前のヤドリ獣を強制的に孵化させる。逃げる時間くらい稼げるだろ」


 痩身の女は、震える手で自分の腕から何かを引き抜く。

 よく見ればそれは先端に針のついた緑色の小瓶だった。

 毒か何かを打たれたのだろうか。


 痩身の女の様子はみるみる変化し――。


「……う……うぅ……ウが……ウガァぁアア」


 大きく獣のように吠えた女は、次の瞬間、全身を赤い光に包まれた。

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