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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第三章 僕は毒を盛られたくない
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4.スミは伝説を語る

 吟遊詩人の少女達にせがまれて、あたしは渋々、村に伝わるアキレアの伝説を話し始めた。


「その昔、シオン村に勇者アキレアがやってきました。 


 村にはある兄妹がいました。

 兄の方は剣の道にたけていましたが、妹は痩せこけ、寝床から起き上がる事もままなりませんでした。


 彼女は恐ろしい呪いに苦しんでいたのです。


 ぐったりとした妹の様子を見た勇者は『いつからだ?』と短く尋ねました。


『二年前から、徐々に身体が弱ってきて……』と妹は弱々しく答えました。


 勇者は兄に告げました。


『妹の呪いはすぐには解けぬ。お前は剣の訓練に集中しろ。妹の看病は他の者に任せ、近づいてはならん』


 兄は戸惑いました。


『それはできません。昔から一緒に剣の訓練をした大切な妹なんです』


 するとアキレアは、兄に一粒の種を渡しました。


『これは願いを叶えると言われているヤドリ草だ。名前を《悲願花(ひがんばな)》と言う』


 兄はそっとその種を受け取った。


『このヤドリ草は、その刀身に血を吸わせる事で、主人の願いを叶えると言われている。このヤドリ草と共に修行を重ね、刃に自分を映し、お前の真の願いが何であるのか、自分の心に問いただすのだ』


 勇者の言葉に従い、兄はヤドリ草を腕に植え付けました。


 するとその種は三日もしないうちに発芽しました。

悲願花(ひがんばな)》の薄緑の茎はレイピアのように細くまっすぐと通った刀身となり、火花が飛び散るような赤い花が、剣の柄の部分を禍々しく飾りました。


 兄はその姿を眺めながら、妹のことを思いました。


 そして夜が明けた時、シオンの村人達は驚きました。


 血で染まった《悲願花(ひがんばな)》の傍で兄が倒れていたのです。


 おそらく彼は呪いに苦しむ妹を救おうと、自分の胸を貫き、血をささげたのでしょう。


 兄の亡くなった後、ヤドリ草の力によって、妹はみるみるうちに回復しました。

 呪いに打ち勝ったのです。

 アキレアの言った通り《悲願花(ひがんばな)》は宿主の血を吸い、願いを叶えたのでした」 



 そこまで語ると、あたしは「はい、おしまい」と手を叩いた。


「ほぉーう。願いを叶えるヤドリ草ね。さすが勇者って感じ」


 トトが腕を組んで、感心したように頷く。

 そして伸びをしながら言った。


「あんた、吟遊詩人でもないのによくこんなスラスラと話せるね」

「まぁ、子供の頃から嫌って程聞かされるからね」


 あたしは、ため息をついた。


「こんな小さな村だとさ、娯楽も少ないしさ。勇者が来た村なんだっていう事が支えっていうか、誇りっていうか――」

「ところでスミ、この村にはお屋敷はありますかっ?」


 突然、モモがそんな事を尋ねる。


「屋敷ぃ? ないない。あるわけないよ。村長の家だって、そんな立派なもんじゃないし。その辺の家と変わらないよ」

「そうでしたか……」


 そう言うと、モモは少し考えるようなそぶりを見せた。


「……え? なに? なんなの?」


 すると、今までずっと無言だった三つ編みのココが口を開いた。


「さっき『お屋敷に行く』って言ってた」

「……え?」


 ボソリと言われた言葉に、顔が引きつる。

 モモも「そうですそうですっ」と頷く。


「スミが先程『お屋敷に行く前に死ぬわけには行かない』っておっしゃってましたよねっ? お屋敷ってどこの事です?」


(しまった)


 思わず顔をしかめる。

 命が助かった安心感から、口を滑らせてしまった。

 なんとか誤魔化したい所だけど、この三人が村に戻って「お屋敷ってどこですか〜?」なんてベラベラ喋られてはかなわない。


 チラリとモモの顔を見ると、興味津々と言った表情で、こちらを見つめている。


 こうなってはしょうがない。


 あたしは辺りを見まわし「絶対に誰にも言わない事」と前置きをしてから、自分が貴族の隠し子である事を打ち明けた。


 初めて会った人に話すような内容ではないけれど、命の恩人だし、何よりあたし自身が誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。


 少女達は黙って話を聞いていたが、あたしが話し終えると、複雑そうな顔をした。


「こう言っちゃなんだけどさ、胡散臭くない? そんな事を突然言われて、あんた、それを信じるの?」


 賭け事の好きな伯爵家の護衛なんているかぁ?、とトトは首をひねる。


「まあまあトト。素敵じゃないですかっ。そういう『姉妹の物語』って人気の演目ですよねっ」

「まあねー」

「……? 人気の演目って、どういう事?」


 思わず尋ねると、トトが頭をかきながら「うちら吟遊詩人が人前で披露する演目の事だよ」言った。


「姉妹のうち片方だけ家族から冷遇されてるんだけど、実はその家族は血が繋がってませんでした、主人公は自分を認めてくれる本当の居場所を見つけてハッピーエンド――みたいな物語がさ、最近は客ウケがいいんだよね」

「最近……というより、昔から兄弟や姉妹モノって人気だったみたいですよ。古典と言えば古典ですっ」


 モモの言葉に、ココも無言で頷いている。


「そりゃさ、嘘みたいな話だと思うよ。あたしが実は伯爵の娘だなんて」


 確かに、まるで吟遊詩人の奏でる物語のような話だ。


『実は貴族の娘でした』『実は勇者の末裔でした』なんて、よく聞くストーリーだ。


 だけど、あたしの胸にストンと収まる。


「ずっと思ってたの。キョウみたいになりなさいって言う事で、村の大人たちは、あたしに毒を盛っている。それはね、あたしを村に縛り付けるための毒なんだ。よそへ出て行かないように、お姉ちゃんみたいに村の役に立つ人になりなさいって、あたしをここに閉じ込める毒」


 死ぬことはない。

 けれど、動けなくなる。

 そんな麻痺毒だ。


 あたしの本当の家族は別にいたんだ。

 どんな理由があったかわからないけれど、ちゃんとあたしを迎えに来てくれた。

 早く、あたしはあたしの家族に会いたい。

 初めて会う弟に会いたい。


 家族って、そういうものだと思う。


「だからさ、魔獣に襲われて死ぬわけにはいかなかったんだ。本当、助けてくれてありがとうね」


 あたしの言葉に、吟遊詩人達は曖昧に頷いた。


 ココが、ポツリと言った。


「さっきの《角岩蛇》……()()()()()()()()()()()()……」

「え? それってどういう意味?」


 あたしがそう尋ねた時だ。


「おおぉい! モモ、トト、ココ!」


 遠くで彼女達を呼ぶ声がした。


「あ、ミャーマ様だ!」


 三人の少女が一斉に跳ね起きる。


「ミャーマ様! こっちです!」

「スミ、ごめんなさいっ。私たちもう行くねっ!」

「あ……うん。ありがとう」


 駆け出した三人を背中を見送るっていると、かしましい会話が聞こえてくる。


「ちょっとぉみんな聞いて! 珍しいスパイスを売ってもらえそうなの」

「良かったですね、ミャーマ様! これで故郷の味に一歩近づくかもしれませんねっ!」

「ミャーマ様、諦めたらどうですか? 前に作ってもらったのは、なんつーか、個性的な味すぎてちょっと――」

「まずかった……」

「いや、それはね、スパイスの調合がうまくいかなかったからなの! 材料さえあれば、誰でも絶対美味しく作れるはずなんだから!」


 向こうは随分と盛り上がっている様子だ。

 ぼんやりと見つめていると、モモがくるりとこちらを振り返り、走って戻ってきた。


「スミ、私たち、多分今日中にここを発つことになりそうですっ」

「そうなの? 一晩くらい、泊まっていけばいいのに……」

「うん……そうしたいところですが、次の街での公演があるんですっ」


 モモは、あたしの手を両手で握りしめた。


「スミ、どうかお気をつけて」


 真剣な様子に、あたしは思わずたじろいだ。


 モモはあたしの手を離すと「それじゃあ、どーもですっ!」と元気よくかけて行った。

 途中で振り返り手を振ってくる。

 つられたようにあたしも小さく手を振りかえした。


 急に静けさが戻り、あたしはため息をついた。

 一度にいろんな事が起こって、頭がついていかない。


(せっかく助かったんだ。チャンスを逃さないように、今夜の計画をたてなくちゃ)


 あたしは腰を上げて、村へ戻る事にした。

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