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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第三章 僕は毒を盛られたくない
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3.スミは襲われる

 あまりのことに悲鳴も出なかった。

《角岩蛇》の息が顔にかかる。


(あたしはここで終わるんだ)


 もう駄目だと目をつぶった瞬間だった。


 ドゴォっと音がして、身体が軽くなった。


 恐る恐る目を開けると、目の前に派手な格好をした女の子がいた。


 年はあたし同じぐらいだろうか。

 身体にフィットした赤い衣服。

 短くヒラヒラとしたスカートに、赤いロングブーツ。

 髪の毛は二つにお団子結びをしている。

 動くたびに足に結ばれた鈴がチリチリと音をたてる。


 どう考えても戦闘に向かない格好だけど、あたしは彼女に助けてもらったようだ。


「でええぇい!」


 たくましい掛け声と共に少女が振り回しているのは……小型の斧?


(そうか……《捕斧木(ほおのき)》か!)


 大型の葉が鋭く尖り、斧の形をしているヤドリ草だ。

 見た目から察する年齢を考えると、発芽して一、二年ぐらいだろうに、見事に使いこなしている。


(さっき『動かないで』と警告してくれたのはこの子か……)


 威嚇する《角岩蛇》に、間合いを詰めさせないように素早く斧を振り回す少女。 


 お互い引くに引けない、そんな時だった。


「おいおいおいおいおーい! 先に行くなって言ったでしょーがー!」


 ガサガサと草むらをかき分けて、二人の女の子が現れた。

 最初のお団子の少女と同じぐらいの年頃だろうか。

 一人はショートカット、もう一人は三つ編みを二本垂らしている。


「モモってば、すーぐ突っ走るんだから」


 後から現れた二人もすでにヤドリ草を構えている。


 ショートカットの少女が手に持っているのは、大きな扇のようだ。

 おそらく彼女のヤドリ草は《鉄扇(クレマチス)》。


 そして、もう一人の三つ編みの少女は――。


 思考が追いつく前に、三つ編みの少女から、砲撃が放たれた。


 ボゴオオォンッ――!


《岩蛇》の真横の地面に当たり、土埃を立てる。


(あれは――《砲閃花(ほうせんか)》!)


 少女は手のひらを《角岩蛇》に向けている。

 白く小さな手のひらに鮮やかな赤い花が咲き、そこからは砲撃後の煙が立ち上っていた。


(まだ小さいからあの程度の威力だけど……成長したらとんでもない破壊力になるはず)


 熟練のヤドリ使いの《砲閃花(ほうせんか)》の砲撃力は、山がえぐれる程だと言う。


 初めは刃向かおうとしていた《角岩蛇》も、これは勝てないと判断したのか、威嚇音を鳴らしながら退散した。


 その様子を見送ると、女の子達はくるりと振り返り、こちらを見て微笑んだ。


「大丈夫ですかっ?」


 あたしはあっけに取られながら、コクコクと無言で首を振ることしか出来なかった。


「あの……あなた達って、ミャーマ様の一座の人?」


 恐る恐る訊ねると「そーだよ」と即答された。


「私はトト。そこの斧使いお団子頭がモモで、こっちの砲撃ボコボコ娘はココ」


 後から来た《鉄扇(クレマチス)》使いのショートヘアの少女がそう紹介をする。

 閉じられた扇はいつのまにか蕾の姿に戻っている。

 彼女の右手に絡まった蔓は優しい緑色に光り、シュルシュルと手首の瘤に収まった。


「なんか……随分と魔獣との戦いに手慣れてるのね……」


 あたしの言葉にモモと呼ばれた少女が「よく言われますっ」と笑った。

 あたしを助けてくれた子だ。


「職業柄、各地を旅してるんで、そこそこ戦えるように訓練してるんですっ!《捕斧木(ほおのき)》って使い勝手が最高なんですっ! ねー、トト?」

「そうだなーあんたのは、振ってよし、投げてよし、戦闘にも生活にも使える最高の相棒だよなー……ってそうじゃなくて!」


 トトと名乗った少女が、モモの頭をペチペチと叩く。


「魔獣を見つけても、一人で行かない約束だろうが! なーんであーやって後先考えず突っ込んじゃうかなー? ミャーマ様にも言われてるでしょうがっ!」


 怒鳴られているというのに笑みを絶やさないモモは、うんうんと頷いた。


「こうして心配されると、愛されてるなぁって実感できますねっ」

「愛を感じるために命を懸けるな!」


 ギャンギャンと吠えるトトの横で、三つ編みの少女は無表情のまま動かない。

 確かココ、と言っただろうか。

 彼女の《砲閃花(ほうせんか)》も、今は手のひらの瘤にその姿を戻している。


 あたしの視線を感じたのか、こちらをチラリと見た後、コクリと無言で頷いた。


(いや……頷かれても……)


 さっきまで死にかけていたというのに、彼女達の姉妹のような賑やかな様子を見ていたら、なんだか気が抜けてしまった。


 へたり込んだまま、彼女達を眺めていると、ふとモモの右の手首から出血しているのに気がついた。


「ちょっと! そこ噛まれているじゃない! 早く手当て……毒消しの方がいいのかな?」


 しかし怪我をしてる当人は、まあまあとのんびりした様子だ。


「落ち着いて下さい。《角岩蛇》に毒はありませんよっ。この程度でしたら、すぐに血も止まります」

「あの、じゃあせめて手当てさせてよ」


 あたしはそう言うと、右腕をまくり《黄泉木(よもぎ)》を発動させる。


「わあ、回復術使えるんだ」

「この村に住んでたら、誰だって使えるよ」


 あたしはそっけなく答える。


 ここシオンは癒しの村と呼ばれ、回復術士が多く暮らしている。

 貴重なヤドリ草が沢山あり、新種の開発も進められているからこそ優秀な回復術士が多いのだろう。


 回復術をかけていると、横からトトが「あんた、危ないとこだったね」と言った。


「《角岩蛇》は大きい割に動きも素早いし、顎の力も強い。噛みつかれたらひとたまりもないよ」

「たまたま私たち、村を探検しようってウロウロしてる所でしたからねっ! 九死に一生ですねっ!」


 もし彼女達がやってこなければ、あたしはあのまま死ぬところだったのだ。


「……お屋敷に行く前に死ぬわけにはいかない……」


 思わずそう呟いた。

 本当に助かって良かった。


 治療を受けながら、モモが口を開く。


「大きく力の強い者は、毒を持たない事が多いんです。毒を持つのは、小さくか弱い者……相手を動けなくさせないと生き残れないような者です。こういう場所は毒を持つ魔獣も出るので一人でいるのは危ないですよっ」

「そうだね……あの、あたしスミって言うの。助けくれてありがとう」


 モモの傷も塞がったようだった。

「こちらこそありがとうございますっ」と微笑んだ彼女は、「ところで」と言葉を続けた。


「ここって、勇者アキレアが訪れた村なんですよねっ? 良かったら、詳しく教えてもらえませんか?」

「え? 詳しく?」

「私たち、吟遊詩人として各地を周っているんですが、アキレアにまつわる伝説は、一つでも多く知りたいなーって思いましてっ!」

「えーっと……教えるのは構わないけど……」


(正直めんどくさい……)


 けれど、彼女たちは命の恩人だ。

 頼み事を断るわけにはいかないだろう。


「わかった、じゃあ話してあげる」


 こうしてあたしは、派手な格好をした吟遊詩人の少女達に、村に伝わる勇者の物語を話す羽目になったのだった。

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