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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第二章 僕は鏡を覗きたくない
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5.フランは身を隠す

「結局、泊まることになっちゃったよ……」


 ため息をつく僕に、クローは呆れるように笑った。


「ビー様がちゃんと断らないからですよ」

「あの空気で断るのは無理じゃない?」

「お酒って出ると思いますぅ?」

「ティオーラ姉さんは黙ってて」


 なるべく冷たく聞こえるように言った台詞も、ティオーラ姉さんには響いていないようだった。


 ライラが僕らに用意した客間は、豪華すぎて居心地が悪かった。

 待遇と引き換えに『役に立て』と言われているようで、正直今にも逃げ出したい。


 すると、ほどなくして部屋の扉がノックされた。

 入ってきたのは、先ほどまで一緒にいたマリィとリリィだった。


「あれ、どうされましたか?」

「ちょっとお邪魔してもよろしいかしら」


 そう言って、マリィは可愛らしく首を傾ける。

 仕方なく部屋へ招くと、彼女は椅子を動かしたりベッドの下を覗き込んだりと何やら挙動不審だ。

 その横で、リリィは首を伸ばして部屋をゆっくりと見回している。


「あの……マリィ様?」

「わたくし、フランとかくれんぼをしていたのよ」

「かくれんぼ?」

「わたくしが鬼で、フランが隠れる役なの。この部屋にいるかと思って、探しに来たの」


 かくれんぼ――か。

 マリィの幼い行動に、どう接したら良いのか戸惑ってしまう。


「フラン姉さんは、ここにはいないと思いますよ。他を探した方が――」

「ううん、ちゃんといるわよ」


 マリィはそうきっぱりと言った。

 そして戸棚の前に来た途端「フフ」と笑って言った。


「フラン、みーつけた」


(いやいや、まさかそんな所に――)


「――よくわかりましたね、マリィ様」


 戸棚の扉が開いて、フラン姉さんがヌッと出て来た。


(……嘘だろ)


「ちょ、ちょっと、待って下さい。姉さん、どうしてそんな所に――」

「フランは隠れるのが上手なのよ」

「いや、上手って――」

「マリィ様も、見つけるのがお上手になりましたね」

「うふふ。ありがとう」

「ね……ねえさん? あの、いつからそこに?」

「ごめんなさい、隠れるのにちょうど良くて」


 そう言う問題か?


「じゃあ、今度はわたくしが隠れるわ。フランが探しに来てね」


 そう言うと、マリィはリリィと連れ立って出ていってしまった。


「フラン姉さん……? 一体いつから?」

「あの……実は私、マリィ様の遊び相手としてぴったりのヤドリ草を持っていて……」


 そう言うと姉さんは、まるで頭痛を抑えるようなポーズで、耳の後ろに手をやる。

 彼女の手が淡い緑色に光った。

 そこから勢いよく茎が伸び、大きな葉が広がる。


「これが私のヤドリ草《隠実(かくれみの)》です」

「カクレミノ?」

「この葉にくるまる事によって、姿を隠すことが出来るのです」


 姉さんは葉をむしり取って、体に巻きつけた。

 すると、姉さんの身体が急に見えなくなる。


「ね…姉さん?」


 突然透明になったわけではない。

 けれど、姉さんの姿は見えなくなった。


「このヤドリ草は、くるまる事で目立たなくなるんです。周りに溶け込む――究極的に地味になる、とでも言いましょうか」


 姉さんの声だけが耳に届く。

 僕の目は姉さんの姿を捉える事が出来ない。

 確かにそこにいるはずなのに、姉さんの存在はぼやけてしまい、僕には認知する事が出来ないのだ。


「この《隠実(かくれみの)》は鳥に果実を食べれないよう、熟れる前の果実を隠すためにこう言った特性を持つようになったと言われています。果実が熟しきると、その頃には葉も枯れ落ちているので、あらわになった果実をあえて鳥に食べさせ、種子分布をさせるそうですよ」

「なるほど……だから身体が隠せるのですね」


 虫の中にも、擬態するものがいる。

 木の葉のような模様で、周りに溶け込むのだ。

 身を隠す事で生き残る者達。

 それが彼らの生存戦略。


「葉が枯れるまでのわずかな間ですが、大人二人分くらいまでは」


 そう言って、姉さんは《隠実(かくれみの)》を剥がして姿を見せる。


「かくれんぼにぴったりです」


(た……宝の持ち腐れすぎる……)


 かなりすごいヤドリ草だと思うけど、屋敷内の地位が低ければ、遊び道具程度にしかならないのだろう。


 そもそも関心を持たれていないのだから、フラン姉さんがどんなヤドリ草を持っているのかも知られていないのかもしれない。


「私は地味な人間です。屋敷の中で誰も気にしておりません。皆、私など見えていないのです」


 なるべく息を潜めて身を隠し、見つかって攻撃されそうになった時は、父親の威光を盾に、また隠れる。

 それがフラン姉さんの、ここでの生存戦略なのだろう。


 フラン姉さんは「そろそろ行きますね」と扉に手をかけた。


「マリィ様が、私が探しに来るのを待っているでしょうし。アイビー、また後で」

「あ、はい。では、後ほど……」


 扉が閉まると、部屋の中に沈黙が訪れた。


(本当は早くフラン姉さんに、僕を後継者だと認めてもらわなきゃいけないんだけどな)


 クローが「暇つぶしに、フラン様がどのくらいでマリィ様を見つけるか、賭けてみますか?」とヘラヘラ笑う。


「子供の遊びを汚さないで」

「子供って言ったって、ね」


 クローは肩をすくめて見せた。


(夜になったら『呪いの鏡』を見せてあげるってライラが言ってたけど……)


 まさか本気じゃないだろう。


「いいように扱われて、お家騒動の駒にされちまったらたまったもんじゃないですな」

「流されちゃだめですよぅ。万が一ライラ様から『当主の部屋に忍び込め』なんて言われても、絶対断って下さいよぅ」


 クローとティオーラ姉さんに釘を刺されて「わかってるよ」とため息をつく。


「なんとかフラン姉さんに、僕の事を後継者だと認めてもらって、こんな屋敷なるべく早く出て行かないと」


 豪華な窓枠が、外の景色を切り取っている。

 縁に《朽無(くちなし)》の装飾が施されていて、まるでその風景ですらカールリンネのものだとでもいうようだった。


 月が雲に隠れた。


 窓から見える湖は闇に染まり、昼間は水面に映っていた屋敷の姿がかき消えた。


 後に僕は大きく後悔する事になる。

 なるべく早く出て行こうなどと、悠長な事を言ってる場合じゃなかった。

 死はいつだってすぐ近くに隠れ潜んでいるのだ。



 それは翌朝の事。

 次女ライラの遺体が湖で見つかった。

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