表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第二章 僕は鏡を覗きたくない
PR
13/67

1.アイビーは屋敷を訪れる

この章からは、別の投稿作品『異世界を渡る吟遊詩人は怪談が専門です。』を下敷きに、大幅に改稿したエピソードとなります。


 僕らの訪れた屋敷は、湖のほとりにあった。

 政治的にも財源的にも力を持つカールリンネ侯爵家。

 その屋敷の小部屋で、僕とクロー、そしてティオーラ姉さんは、ぼんやりと窓からの景色を眺めていた。

 湖が鏡のように輝き、水面に屋敷の影が黒々と映っている。


 侯爵家の屋敷といえば、さぞかし華々しい場所なんだろうと身構えていたけれど、こうしていざ訪れてみると、随分と印象が違った。

 例えるなら閉ざされたお城のような、どこかジメついた閉塞感がある。


「あながち間違ってないですよ、ビー様」とクローが肩をすくめる。


「ほら、そこの扉。侯爵家の家紋が彫られてますよね?」

「ああ……これはお花かな?」

「それ《朽無(くちなし)》の花ですよ」

「クチナシ?」


 するとティオーラ姉さんが「ここの庭にたくさん咲いてましたねぇ」と顔をしかめる。


「あの甘ったるい香り、苦手なんですよぅ。鼻が効かなくなりそうですぅ」


 思い返してみると、屋敷の庭に咲き乱れていた白い花々は、扉に彫られた家紋とよく似ている。


「もともと『朽ちる事の無い花』から来て《朽無(くちなし)》なんて呼ばれてる花ですぅ。栄華を極める侯爵家の家紋にはぴったりってわけですぅ」

「ビー様、『ガーデニアのクチナシは、無駄口ナシの出口ナシ』って知りません?」


 クローの言葉に「なにそれ」と僕は首を傾げる。


「侯爵家の秘密主義を揶揄してるんですよ」


 そう言いながらクローは口の端をクイッと上げた。


「カールリンネ領を治めているガーデニア家ってのは、代々、女性が当主を継いでるんですがね、徹底した秘密主義なんですよ」

「使用人達も口が固くて、絶対に屋敷内の事は外に漏らさない。まさに『クチナシ』ってわけですよぅ」

「扉の全てに、この家紋が彫られてるらしいですよ。まるで見張られてるみたいですな。扉内にあるものは全てガーデニアの物であり、人も財産も情報も、扉から外に出すことは許されない。そんな所でしょう」


 二人の言葉に僕は頷いた。


「なるほど……それで、フラン姉さんがここにいるって言うのは本当なの?」

「もちろんですよぅ」


 ティオーラ姉さんは肩に乗せた《天眼鼠》を指先で優しく撫で、「この子達の眼に間違いはないですぅ」と言った。


 フラン=デンタータ。

 僕の十九人の姉さんの内の一人だ。


 姉さんの 《天眼鼠》達が、フラン姉さんがここにいると突き止めてくれた。


 なんとか面会の約束をこぎつけ、屋敷を訪ねた僕らは、無表情な使用人に案内され、フラン姉さんがやってくるのをこうして待っているのだ。


「……あれ? でも、フラン姉さんがここで雇われているんだったら、僕もアキレアの子供だってバレるよね? 変装の必要はないんじゃ――」


「いえ」とクローが首を振った。


「一筋縄では行かないのが貴族ってもんです。出来るだけ手の内は見せない方がいいかと」

「どんな風に利用されちゃうかわからないですぅ。私達はフランに会いに来た姉妹、という設定でいきましょぅ。とにかくアイビーが『跡継ぎ』って事は隠した方がいいですぅ」


 ティオーラ姉さんもそう頷く。


「緊張するなぁ。フラン姉さんってどんな人だろう」

「せっかく私の《証》を渡したんですよぅ。アイビーは胸を張って、ドーンと構えてれば良いんですよぅ」

「そんな簡単に言わないでよ……」


 僕は思わず胸元の《証》を握る。


 それはティオーラ姉さんから受け取った、石の欠片に紐を通しただけの無骨なペンダントだ。

 日の光にかざすと金色に輝く。   


「その石は、私たちが黄金の勇者アキレアの子どもである証なんですぅ。姉から認められた証拠として、十九人分集めてくださいよぅ」


(あと十八人分か……僕はいつになったら家に帰れるんだろう)


 バッチオークの屋敷に想いを馳せていると、ティオーラ姉さんが天を仰ぎながら小さくうめき声をあげた。


「それにしても、こんだけ待たされると喉が渇きますぅ」

「そこにお水があるけど」


 僕は使用人が持ってきてくれた水差しを指さす。

 けれど姉さんは「水じゃ癒せない渇きがあるんですぅ」と首を振った。


 僕は大きくため息をついた。


「こんな所でお酒が飲めるわけないだろ」

「ええ?」

「ええ? じゃないよ。心外だ、みたいな顔しないでよ」


 僕は「クローからもなんとか言ってよ」と護衛に助けを求める。


 するとクローは「確かに、そろそろ待っているのにも疲れましたな」と言ってやけに大きな声で扉の方に向かって声をかけた。


「そんなわけなんで、()()()()()()()()()()()()()()、どうぞ中へお入り下さい」


 いきなり何を言いだすのかとびっくりしていると、遠慮がちなノックの音がした。


 恐る恐る「どうぞ……」と返事をすると、ゆっくりと扉が開き一人の女性が入って来た。


「申し訳ございません。入るタイミングを逃してしまい……立ち聞きするつもりはなかったのですが……」


 どうやらその女性は、ずっと扉の外にいたらしい。


(全く気配を感じなかった……さすがクローだな)


「初めまして。フランです。私のような者のためにわざわざお越し頂いて、申し訳ございません」


 そう言って、僕の姉――フラン=デンタータは深々と頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ