11.ミャーマは助言する
「そんなわけで、ティオーラ姉さんと一緒に旅をする事になったんです」
僕の言葉に、《鏡草》の中のミャーマが『良かったわぁ』と手を叩く。
『なにはともあれ、一人目のお姉様と会えて良かったね、ビーちゃん』
僕の目の前にある《鏡草》は、ミャーマから受け取った包みに入っていたものだ。
この《鏡草》と言うのは、葉が対になっているのだけれど、今は片方の葉を僕が持ち、もう片方をミャーマが持っている。
この《鏡草》の葉は、両手のひらを合わせたぐらいのサイズで、内側が少し丸まってお皿のようになっている。
そこに水を張り自分の姿を映すと、もう一方の《鏡草》に声や姿が伝わり、連絡を取り合う事が出来るのだ。
葉の上に溜まった水が落ちるまでの間、離れている相手とこうして会話ができる。
僕の方の《鏡草》にはミャーマの姿が、ミャーマの《鏡草》には僕の姿が映っているはずだ。
(それにしてもミャーマ様、こんな高価なものを僕に渡して大丈夫だったのかな)
《鏡草》に張られた水面の上で、ミャーマが神妙そうに頷く。
『ビーちゃんがあのアキレアの息子だったとはね。それで次はどこへ行くの?』
僕は自分の出自の事をミャーマに打ち明けていた。
(ティオーラ姉さんの知り合いみたいだし、彼なら信頼できそうだ)
「えっとね、ティオーラ姉さんの話だと、カールリンネ侯爵の家に、別の姉さんがいるらしくて……」
『あら、カールリンネ? 最近お屋敷に呼ばれて行ったわね』
「ミャーマ様が?」
侯爵家ともなれば、人気の吟遊詩人や楽団を屋敷に招く事も多いはずだ。
ミャーマ達も、それで呼ばれたのだろう。
『ええ。そこで「呪い鏡の物語」を披露してきたのよ』
「呪いの鏡……ですか?」
『あら、聞きたいかしら?』
なんとも物騒な言葉に、僕は思わず聞き返す。
ミャーマは少しかしこまったように声を整えてから、その物語を語ってくれた。
『昔、ある所に美しい女王がおりました。
女王は鏡に向かってこう言いました。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
すると鏡は「それはあなたの娘でございます」と答えました。
「あなたの娘が生きている限り、あなたの美しさは霞むばかりでしょう」
鏡に唆された女王は、娘を殺そうと刺客をさしむけました。
けれど、悪巧みは全て失敗。
追い詰められた女王は鏡に詰め寄りました。
「鏡よ鏡、今まであなたの言う通りにして来たけれど、何も上手く行かないじゃない。どう責を追うつもりなの」
すると鏡から手が伸びてきて、女王は鏡に引きずり込まれてしまいました。
慌てて鏡から出ようとしても、鏡面に阻まれて出られません。
鏡の外の世界では、女王そっくりの偽者が、にっこり笑って言いました。
「あなたの代わりに、これからは私が女王になって差し上げましょう」
女王は必死に鏡面を叩きました。
偽物の女王は言いました。
「もうここからは出られませんよ。私が取って代わったのだから」
そうして偽物は「今まで悪い鏡に操られておりました。これからは心を入れ替えます」と言って、娘に取り入りました。
それからは家族仲良く暮らしましたとさ。
けれど鏡の中では今も、本物の女王が誰にも気がついてもらえず、成り代わった偽物をじっと見つめているのでした』
語り終えたミャーマに、僕は思わず「そんな気味の悪い話、喜んでもらえたんですか?」と聞いてしまった。
『結構喜ばれたけどね。そんなことより、ビーちゃん。気をつけてね』
「何がですか?」
『カールリンネの屋敷の事よ。あそこ、なんだか隠し事が多そう……むいむいだったわ』
「むいむい?」
『うん……なにもないと良いんだけど』
ミャーマの話を聞いているうちに、葉の上に溜まった水がかなり減ってきている。
「うん、ありがとうございます。ミャーマ様も、お料理頑張って上達してくださいね」
『任せてちょうだい』
葉の上にわずかな水滴を残して、水は全て下に落ちた。
足元の水たまりをぼんやりと見つめ、僕はミャーマに言われた事と思い返していた。
次の章からは、別の投稿作品『異世界を渡る吟遊詩人は怪談が専門です。』を下敷きに、大幅に改稿したエピソードとなります。




