第9話:【大バズり】国家非常事態宣言。ただし当人は配信でカップ麺食べてる
街のすぐ裏手にある、初心者向けの平穏な場所だったはずの『ゴブリンの巣穴』。その入り口の前に、今や尋常ではない緊迫感が漂っていた。
「おい、これは一体どういうことだ……! 説明しろ!!」
大地を揺るがすような怒号をあげたのは、この街の冒険者ギルドを統括するギルドマスター、ガラムだった。
数々の死線を潜り抜けてきた大ベテランの顔が、今は見たこともないほど真っ青に引きつっている。
彼の視線の先――そこには、つい一時間前まで確かに存在していたはずの洞窟の入り口が、まるで世界のデータから消去されたかのように、完全にただの滑らかな岩肌へと変貌していた。
「わ、分かりません……! 水晶を爆破した不審な少女が中に入っていった後、最深部から見たこともない規模の魔力の奔流が観測されまして……。直後、ダンジョンそのものの反応が完全に消失したのです……!」
「馬鹿な……! ダンジョンが消滅しただと!? そんなこと、一国の神話級魔術師が総出で挑んでも不可能なはずだぞ!!」
ガラムはガタガタと震える受付嬢の報告を聞き、天を仰いだ。
初心者ダンジョンの底に、かつて世界を滅ぼしかけたSSS級の隠しボスが封印されていることは、国家の最重要機密としてギルド上層部だけが知っていた。
その封印が解かれただけでなく、ダンジョンごと何者かに「消し去られた」のだ。
「国の終わりだ……。今すぐ王都へ伝令を飛ばせ! 『特級災害』、いや、それ以上の『国家非常事態』を宣言する! 国の最高エリート魔術師団を今すぐここに招集しろ!!」
異世界の中心がひっくり返るほどの大パニック。
ギルドマスターたちが血眼になって謎の「世界を滅ぼす災厄の魔女」を追おうと、国家レベルの調査団を結成していた、まさにその頃。
当の「災厄の魔女」はといえば――。
「――ん、やっぱり異世界で食べるカップ麺のシーフード味は五臓六腑に染みるねぇ」
岩山のてっぺんで、私はもこもこの猫足スリッパをパタパタさせながら、お湯を入れて三分待ったカップ麺をズズズッとすすっていた。
私の周りには、さっきダンジョンの罠をハッキングして手に入れた高級ポーションのボトルが、まるで飲み干したラムネのビンのように転がっている。
▶:『ダンジョン消し飛ばした直後にカップ麺食うライバー、世界でろいでちゃんだけ説』
▶:『高級ポーションを箸置きにするなwww』
▶:『てかそのカップ麺どこから出したの!?』
▶:『同接550万人維持してて草。完全に世界の中心だわ』
「これ? さっきりーくんがレベルアップしたから、特典の【神権:コンビニ通販】で買ってみた。異世界の食べ物、まだちょっと食べるの怖いからね」
『ひどいよろいでちゃん!! 表現の神たる僕の神聖な創造の力を、ただの『深夜のコンビニ夜食のデリバリー』代わりに使うなんて!! 芸能の神としての僕のプライドはどこへ行っちゃったのさ!!』
ヘッドホンから、20%の音量でりーくんがわめき散らしている。
しかし、神権のレベルが上がったおかげで、りーくんのイケメンボイスは無駄に音質が良くなっており、まるで立体音響のように私の耳を癒やしてくれていた。うるさいけど。
「いいじゃん、ちゃんと代金(リスナーの熱狂エネルギー)は払ってるんだから。ほら、りーくんも食べる? スープ一口あげるよ」
『食べる!?創造の神である僕にそんな俗な食べ物が通用するわけ……う、美味い!? 何これ、海のエキスが濃縮されてミルクと絡み合って、まさに味の協奏曲〈オーケストラ〉だよ!!』
「あ、私の分が減るからもうダメ。はいミュートね。カチッ」
『ちょっ、味の余韻に浸らせてよぉぉぉ!!』
▶:『神様、カップ麺の美味さに敗北してて草』
▶:『りーくんまじでチョロいなwww』
▶:『てかろいでちゃん、下の方めちゃくちゃ騒がしくない?』
リスナーのコメントに指摘されて、私はカップ麺の容器を置いた。
岩山の上から街の方角を見下ろすと、何やらきらびやかな銀色の鎧を着た、いかにも「私たちはエリートです」というオーラを隠しきれていない集団が、もの凄い血相を変えてこちらに向かって走ってくるのが見えた。
その数、およそ五十人。誰もが物々しい杖や剣を握りしめている。
「ん? なんか下の方で、コスプレ集団みたいな人たちがこっちに向かって大行進してきてるんだけど。何かのパレードかな?」
『違うよ!! あれ、この国の王宮直属のエリート魔術師団だよ!! 完全におへそを曲げた国の上層部が、君を国家転覆の容疑者として捕まえにきたんだよ!!』
強制的にミュートを破って出てきたりーくんが、本日何度目か分からない大絶張をあげる。
「へー、エリート魔術師団ねぇ」
私はカメラのレンズを、徐々に近づいてくる彼らの方へと向けた。
普通なら恐怖で足がすくむような国家の軍隊。
けれど、トップストリーマーである私の脳内に浮かんだのは、ただ一つの感情だけだった。
「みんな、朗報だよ! 次の配信の撮れ高、向こうから勝手に歩いてきてくれたじゃん! 新しい『コラボ相手』の登場でーす!」
▶:『コラボ相手の規模が国家予算レベルなんだわwww』
▶:『よし、エリートたちもまとめてBANしちゃおうぜ!』
▶:『ろいでちゃんのドSスマイル来ました!!』
カップ麺のスープを綺麗に飲み干し、私はゆっくりと立ち上がった。
同接550万人の大歓声を背負ったパーカー女子の前に、いよいよ国家最強の戦力たちが乱入してこようとしていた。
(つづく)
8話、9話、10話一挙投稿しました!
次回、明日の【12:00】頃に3話連続投稿します!




