第8話:【神回演出】暗黒騎士の即死呪文を「広告スキップ」してみた
ゴゴゴゴゴ……と、洞窟の壁が激しく軋みをあげる。
漆黒の鎧を纏ったSSS級の隠しボス、暗黒騎士が巨大な大剣を天にかざすと、その刃の先に、光すらも吸い込むような禍々しい暗黒の球体が形成されていった。
それは、かつて数々の都市を一夜にして滅ぼしたとされる伝説の超上位古代魔法――『終焉の冥動夜』。
まともに喰らえば、魂ごと消滅して二度と蘇生できないと言われる絶対不可避の即死呪文だ。
漆黒の衝撃波が波紋のように広がり、ドローンカメラの映像が激しく乱れる。
チャット欄は完全にパニックに陥っていた。
▶:『アカンアカンアカン!!! マジで死ぬってこれ!!!』
▶:『ボスが放ってる黒い球体、画面越しでもヤバいのが伝わる』
▶:『ろいでちゃん、お願いだから今すぐ逃げてぇぇぇ!!!』
▶:『スパチャ(50,000円):これ使って今すぐ街にワープして逃げてえええ!!!』
「みんな、落ち着いて。ストリーマーっていうのはね、大ピンチの時こそ最高の笑顔を見せなきゃいけないんだよ?」
私はダボダボのパーカーの袖をまくり上げると、目の前で発動しかけている世界の終わりみたいな光景に向かって、冷ややかな視線を向けた。
暗黒騎士の頭部で揺らめく青白い炎が激しく燃え上がり、いよいよ魔法が解き放たれようとした、その瞬間。
「りーくん、あの黒い球体の前に、いつもの『アレ』を設置して」
『アレって……まさか、ろいでちゃん、君はあの神聖な超魔法に対して、またそんなバカげたハッキングを仕掛けるつもりなのかい!?』
「いいから早く。カメラの画角に合わせて、一番邪魔な位置にドカンと置いて」
『もう、どうなっても知らないからね! 【神権:システムUI・オブジェクト強制挿入】ッ!!!』
りーくんが半泣きで神権を発動した直後。
暗黒騎士が放とうとした漆黒の球体の真ん前に、突如として、巨大なネオンピンクの半透明な四角い看板が、空間を書き換えるようにポップアップした。
そこには、太字で大きくこう書かれていた。
【動画広告:あと5秒でスキップできます】
▶:『は??????????????』
▶:『嘘だろおいwwwwwwwwww』
▶:『伝説の即死魔法の前に広告が入ったぞwwwww』
▶:『世界を滅ぼす魔法をただの動画コンテンツ扱いするなwwww』
暗黒騎士が「ぬお……!?」と、困惑したように呪文の詠唱をピタッと止めた。
肉体のない鎧のモンスターのはずなのに、目の前の巨大なホログラム看板に完全に視界を遮られ、大剣を構えたままフリーズしている。
「あ、この演出ちょっと長いんで、広告スキップしまーす。カチッと」
カウントダウンがゼロになった瞬間、私が空中で「スキップボタン」を押すジェスチャーをすると、画面に【広告をスキップ】という文字が浮かび上がった。
【神権:荒らしBAN・コンテンツデリート】発動。
――パリンッ!!!
凄まじいデジタルガラスの割れる音と共に、広告の看板ごと、暗黒騎士が何分もかけて魔力を練り上げていた巨大な暗黒の球体が、まるで最初から存在していなかったかのように綺麗さっぱり消滅した。
後に残されたのは、ただ大剣を掲げたポーズのまま、完全に虚を突かれてマヌケに固まっている暗黒騎士だけだった。
▶:『即死魔法が広告スキップされてて草』
▶:『世界の理を完全にバグらせていくスタイル』
▶:『ボスが「え? 俺の魔法どこ行った?」って顔しててワロタwww』
▶:『同接500万人突破キターーーー!!!』
「よーし、みんな! 同接500万人突破ありがとーーー! これが今日の配信の、最高の『神回演出』だよ!!」
私の叫びと同時に、スマホのカウンターが500万の大台を突破し、信じられないほどの信仰エネルギーが私の全身に満ち溢れた。
もはや、足元の猫足スリッパが、私の溢れ出るネオンピンクの魔力で地面から数センチ浮き上がっているレベルだ。
「お返しに、私からの特別なファンサ、プレゼントしちゃうね」
私は指先を暗黒騎士に向けると、不敵にニヤリと微笑んだ。
「神権レベルアップ特典。【神回・連射モード】。みんな、高評価とチャンネル登録、よろしくね――ッ!!」
私がパチンと指を鳴らした瞬間、私の背後の空間がバグるようにネオンピンクに染まり、数千、数万という数の「高評価ボタン(いいねマーク)」の形をした光の弾丸が具現化した。
「いっけぇーーー!!」
ドバババババババババババババッ!!!
それは、もはや魔法というよりは、現代兵器のガトリング砲のような圧倒的な物量だった。
500万人の熱狂が弾丸となり、暗黒騎士の巨躯へと容赦なく降り注ぐ。
暗黒騎士は防御する暇すらなく、数万発の光の弾丸に蜂の巣にされ、「グ、ガガガ……ッ!?」と絶望的な悲鳴をあげながら、一瞬でデジタルノイズのように粉々に分解され、光の粒子となって消滅していった。
静まり返るダンジョンの最深部。
私は浮遊するカメラに向かって、萌え袖の手でピースサインを作ってみせた。
「はい、というわけでSSS級隠しボス、これにて一発BANでーす! 遠足終了、お疲れ様でした!」
一瞬の静寂の後、画面のスクロール速度が物理的にバグるほどの、過去最大のスパチャと大絶賛のコメントの嵐が吹き荒れたのだった。
(つづく)
8話、9話、10話一挙投稿しました!
次回、明日の【12:00】頃に3話連続投稿します!




