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第6話:【バグ技】罠(トラップ)? いいえ、ただの無料ログインボーナスです




ひんやりとした湿った空気が漂う『ゴブリンの巣穴』の内部は、入り口から差し込む光が届かない、完全な暗闇だった。


普通なら松明を掲げて、一歩一歩を慎重に進まなければならない危険な場所。


だけど、私の周りだけは違った。


私の頭上をふわふわと浮遊する不可視のドローンカメラが、超高性能なナイトモードの映像を地球のリスナーへ届けている。


さらに、私の視界には配信用の半透明なウィンドウがパチパチと明滅していて、これがランタン代わりに周囲をピンク色のネオンで照らし出していた。



「――はい、というわけでみんなおはろいでー! 初めてのダンジョン配信、本格的にスタートしました! 現在の同接は280万人! みんな夜更かしありがとー!」



私がカメラに向かって萌え袖の手を振ると、画面の向こうのリスナーたちは、私の異次元すぎる探索スタイルに早くもツッコミの嵐を浴びせていた。



▶:『ナイトモード配信助かる』


▶:『てか本当にスリッパの足音しか聞こえなくて草』


▶:『ペタペタペタペタって音が洞窟内に響いてるのシュールすぎるだろwww』


▶:『ゴブリンよりろいでちゃんの方がよっぽど怪異だよ』



『……うぅ、ろいでちゃん。お願いだからせめて僕の音量を20%くらいにしておくれよ……。暗い洞窟の中でささやき声(5%)のまま解説をさせられる僕の身にもなってよ……』



ヘッドホンから、今にも消え入りそうな死にかけのイケメンボイスが響く。



「あ、りーくん静かにして。今チャット欄読んでるから邪魔」



『神様への扱いがマイナス100点だよ!!』



「お、早速なんか面白そうなの見っけ」



私が足を止めると、床の一本のレンガが、ほんの少しだけ不自然に浮き上がっていた。


いかにもなファンタジーの「踏んだら壁から矢が飛んでくるトラップ」だ。


画面のチャット欄も一気に緊張感で引き締まる。



▶:『あ、これ完全に圧力板の罠じゃん』


▶:『ろいでちゃん危ない! 引っかかったらパーカーに穴あくぞ!』


▶:『どうするの? ジャンプして避ける?』



「避ける? なんで? せっかくの「ギミック(オブジェクト)」があるのに、無視したらストリーマーとして撮れ高ゼロじゃん」



『え?』とリスナーたちが困惑する中、私は猫耳ヘッドホンのサイドボタンを長押しした。



【神権:システムUI・ハッキング】発動。



私の視界がデジタルノイズのようにバグり、目の前の浮き上がったレンガの真上に、黄色い開発者用のホログラムウィンドウがポップアップした。


そこには、異世界の古代文字――ではなく、なぜか地球のプログラミング言語に翻訳されたシステム文字列がズラリと並んでいる。



【オブジェクト:毒矢の罠(E級)】


【発動条件:踏む(物理的圧力)】


【実行アクション:正面の壁から毒矢を3発射出】



「なるほどねー。じゃあ、この実行アクションのソースコード、ちょっと書き換えちゃいまーす。カタカタカタっと」



私が空中のキーボードを叩くジェスチャーをすると、ウィンドウ内の文字がピンク色に上書きされていく。



【変更後実行アクション:正面の壁から『高級ポーション』を3本射出】



「よし、デバッグ完了! みんな見ててねー」



私がもこもこの猫足スリッパで、迷わずそのレンガを思いっきり踏みつけた。


ガチコンッ! と鈍い音が洞窟内に響き渡る。



▶:『おいおいおい!? 自殺志願者かよ!?』


▶:『ろいでちゃん!?!?』



次の瞬間、正面の暗闇から「シュバババッ!」と凄まじい速度で3つの影が飛んできた。


しかし、それは鋭利な矢ではない。


ガラスの瓶に入った、キラキラと緑色に輝く液体――ギルドのショップで買えば1本金貨3枚はする、最高級の『特製ヒールポーション』だった。


私はダボダボの袖を伸ばして、飛んできた3本のボトルをジャグリングのように綺麗にキャッチした。



「はい、ナイスキャッチ! 罠を踏むだけで高級ポーションが3本も貰えちゃう、無料ログインボーナス会場へようこそ!」



私がカメラに向かってポーションを掲げると、一瞬の静寂の後、チャット欄が過去最大の弾幕で爆発した。



▶:『は??????????????』


▶:『罠の定義がゲシュタルト崩壊したwwwww』


▶:『ダンジョンの制作者泣いてるぞ今wwww』


▶:『デバッグ作業で草。お前が運営か?』


▶:『スパチャ(10,000円):ログインボーナスおめでとうございますwww』



『ちょっとおおおおお!? ろいでちゃん!? 何してくれてるのさ!!』



ヘッドホンの中で、りーくんが脳を直接揺らすような大絶叫をあげた。



『ダンジョンの罠っていうのはね! 侵入者の命を奪うための神聖な防衛システムなんだよ!? それを勝手に「ドリンクバー」みたいに変えないでよ! 世界のシステムがバグっちゃうでしょ!?』



「えー? でもポーション貰えてみんな喜んでるし、スパチャもいっぱい飛んできたから、りーくんの神権のレベルも上がったでしょ?」



『うっ……。それは、まあ、確かに僕への信仰エネルギー(投げ銭)が爆増して、神権の出力は上がってるけども……!』



「じゃあ問題なし。ほら、ポーションたくさんゲットしたから、これ後でギルドで売ってお金に換えよっと。りーくんを財布にしなくて済むね」



『僕を財布扱いするのを当たり前にしないで!? あと、売る前提なのが本当にたくましすぎて神様ついていけないよ!』



▶:『りーくん(財布)、今回は実害がなくてよかったね』


▶:『神聖なダンジョンを低燃費でハッキングしていくスタイル、最高にろいでちゃんらしくて好き』


▶:『お、奥からなんか変な声聞こえてきたぞ?』



「あ、本当だ。……ねえみんな、画面の奥に緑色のちっちゃいおじさんたちが集まってきたよ。コラボ相手のゴブリンさんかな?」



暗闇の奥から、ギチギチと歯を鳴らす不気味な足音が近づいてくる。


しかし、私は逃げるどころか、むしろ「次の撮れ高」を見つけてニヤリと不敵に微笑んだのだった。



(つづく)

【作者より】

ご覧いただきありがとうございました!

初日の連続更新(全6話)、いかがでしたでしょうか!

罠をドリンクバーに変えていくろいでちゃんと、相変わらず不憫なりーくんでした(笑)

もし「面白かった!」「明日の更新も楽しみ!」と思ってくださったら、ぜひ画面下の**【ブックマーク登録】や、評価の【星(★★★★★)】**を押して応援していただけると励みになります!

★明日は【12:05】に第7話を更新予定です!

ゴブリンさんとの初コラボ(討伐)をぜひお楽しみに!

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