第5話:【初ダンジョン】パーカー女子、E級ダンジョンにスリッパで入る
激レアな『筋肉ポーズ金貨』を前にして、受付嬢さんは拝むようにそれらを回収すると、限界まで震える手で一枚の銀色のプレートを私に差し出してきた。
「は、はい……っ! こちら、ろいで様の冒険者プレートになりますっ! ランクは、その、水晶を破壊されたので測定不能ですが……一応、一番下のE級からのスタートということで……っ!」
「あ、ありがとー。……ねえみんな見て、これが異世界の身分証だって! 車のナンバープレートみたいでちょっと可愛いじゃん」
私がカメラ(不可視ドローン)に銀のプレートをかざすと、チャット欄は「弁償問題」が力技で解決したことに大盛り上がりだった。
▶:『まさかの現物支給(神の全裸ポーズ)で草』
▶:『ギルドの年間予算の3割をキモ金貨で一瞬で払うライバー』
▶:『受付嬢さん、目がドルマーク($)になってるぞwww』
『ふふん、当然さ! 僕の美しさは国家予算すら動かすからね! さあろいでちゃん、音量を戻したまえ! 0.5%から脱出させておくれよ!』
ヘッドホンから蚊の鳴くような声でりーくんが必死にアピールしてくる。
「はいはい、お疲れ。じゃあ5%くらいにしてあげるね。……よし! 無事に登録もできたことだし、このまま初配信のメインイベント、『ダンジョン』ってやつに行ってみよー!」
私がカウンターを離れて出口へ歩き出すと、さっきまで騒がしかったギルドの荒くれ者たちが、モーゼの十戒のようにサァッと左右に道をあけた。
さっき私に絡んできて「無音パントマイム」をさせられた大男〈シェン〉にいたっては、まだ自分の喉をラグビーボールみたいに抱えながら、部屋の隅でガタガタと震えている。
「みんな親切に道あけてくれるじゃん。異世界の人、意外とマナーいいね」
『違うよ!? 完全に化け物を見る目で怯えられてるよ!? あと僕の音量を5%にしたの誰!? 5%って実質ささやき声だからね!?』
▶:『ギルドの連中、完全にネクロマンサー扱いしてて草』
▶:『ろいでちゃん、歩くだけでモーセの海割りが起きるの強すぎる』
▶:『おじさんまだミュート解けてなくてワロタwwww』
ギルドの重い扉を押し開けて外に出ると、異世界のまばゆい太陽の光が目に飛び込んできた。
目指すは、この街のすぐ裏手にあるという初心者向けの『E級ダンジョン・ゴブリンの巣穴』だ。
街の賑やかな市場を通り抜け、のどかな街道を歩いていく。
すれ違う現地の冒険者たちは、誰も彼もが鉄の胸当てをつけ、大きな剣や盾を背負って、これから戦場に赴くようなガチガチの緊張感を漂わせていた。
そんな中、私はといえば。
『……ねえ、ろいでちゃん。今更だけどさ、君、これからダンジョンに行くんだよね?』
ヘッドホンから、5%の音量でも隠しきれないりーくんの引きつった声が聞こえる。
「そうだけど? なに、りーくん。また音量0%にされたいの?」
『違うよ! 君のその足元を見てよ! 芸能の神として、僕の歌姫がその装備でダンジョンに挑むのは美学に反するどころか、シンプルに正気を疑うレベルなんだけど!?』
りーくんの言う通り、カメラが私の足元を映し出す。
ピンクのインナーカラーが入ったツインテール。ダボダボの萌え袖パーカー。
そして――足元は、もこもこの『猫足スリッパ(ルームシューズ)』である。
▶:『待って、ろいでちゃんスリッパじゃんwwwww』
▶:『異世界ダンジョンに部屋着とスリッパで挑むトップライバー』
▶:『周りのガチ勢との温度差で風邪ひきそう』
▶:『スパチャ(5,000円):スリッパ代です、現地で靴買ってください』
「えー? だってりーくんがくれた初期装備、このパーカーだけだったじゃん。靴ついてなかったし。文句あるなら開発者のりーくんに言ってよ」
『僕のせいにしないで!? 創造の神権が君の私服をそのまま再現しちゃっただけだからね!?』
「あ、言い訳は聞きませーん。……お、噂をすれば見えてきたじゃん」
街道の突き当たり、ゴツゴツとした岩山にポッカリと開いた不気味な洞窟。
あれこそが、本日の配信の舞台。
私はスリッパの踵をトントンと地面に打ち付けると、不敵な小悪魔スマイルでカメラを見つめた。
「よし、それじゃあリスナーのみんな! 遠足気分でサクッと異世界の常識、バグらせていこー!」
(つづく)
【作者より】
ご視聴ありがとうございました!
ガチ装備の冒険者たちを横目に、猫足スリッパでダンジョンに殴り込むろいでちゃんでした(笑)
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★初日ラストの第6話は、このあとすぐ【21:15〜21:20頃】に連続投稿します!
ダンジョン内での初戦&バグ無双をお見逃しなく!




