第37話:【番外編・前半】「一方その頃……」神を討ち滅ぼす初代学長の魔神ルシファー、ろいでちゃんの過酷な「神回編集作業(動画編集)」で完全社畜化していた件
「――フハハハハ! 愚かな人間どもめ! この『絶望の魔神』たる我が、いつまでもこのような不条理に甘んじていると思うなよ……! 次の配信こそ、あの娘の隙を突き、この世界を再び混沌の坩堝へと叩き落として――」
暗闇に包まれた狭い地下部屋で、禍々しい紫色のオーラを撒き散らしながら高らかに高笑いを上げていたのは、神魔統合学園の初代学園長にして、かつて世界を破滅寸前まで追い詰めた伝説の神「絶望の魔神ルシファー」であった。
……しかし、彼が今鎮座しているのは魔王の玉座ではない。
近所で買ったと思われる安物のオフィスチェアの上である。
そして彼の前には、ネオンピンクに眩しく光り輝くトリプルモニターのハイエンドゲーミングPCと、作業用に大量に置かれた栄養ドリンクやエナジードリンクの空き缶が山のように積まれていた。
カチカチカチカチッ! カチカチッ!!
「……くっ! なんだこの『テロップのキーフレーム打ち』は!? なぜカット数が1分間に300回もあるのだ!? 視聴者の脳汁を出させるためのノイズエフェクト挿入タイミングがシビアすぎるだろうがぁぁぁッ!!」
凄まじい眼光でモニターを睨みつけながら、ルシファーの「神の指先」が光速でマウスとキーボードを叩き叩き叩きまくっていた。
かつて世界を滅ぼそうとした最強の魔神は今――『ろいでch』の専属「社畜」動画編集スタッフとして、死に物狂いで締め切りと戦っていたのだった。
事の始まりは数日前。
ろいでに一瞬で返り討ちにされ、神権バグUIによって「編集ソフトの奴隷契約」を結ばされたルシファー。
最初のうちは「誰がこのような動画編集など……!」と反抗していたものの、ろいでが適当に渡した「ポテトチップス(コンソメ味)」と「動画がバズった時の高揚感」に毒され、今や立派な「自発的社畜」へと成り下がっていた。
ピッ。
ルシファーが作業している地下編集室のモニター脇にあるインターホンから、ぽわんとした可愛らしい声が響いた。
『あ、ルシファーさん? 前回のデス運動会とスパチャ大津波プールの切り抜き動画、まだできあがらない? 次の肝試し動画のプレミア公開に間に合わないんだけど……』
「ひっ……!? ろ、ろいで様ッ!?」
インターホンの声を聞いた瞬間、世界を統べるはずの魔神の背筋がピシッと伸びた。
「も、申し訳ございませんろいで様! ただいま『大気圏再突入するリデーレの悲鳴』にド派手な集中線と爆発SEを100個ほど重ね掛けする作業に手間取っておりまして……! あと5分! あと5分で第1稿をアップロードいたします!!」
『んー、分かったー。編集終わったらポテチの新しい味持っていくねー。あ、カット編集はテンポ良くね』
プツン。
「ハァ……ハァ……! クソッ、カットテンポの指示がプロの動画ディレクターのそれなのだよ……!」
ルシファーはダラダラと冷や汗を流しながら、目にも留まらぬ速度でタイムライン上の不要な「間」をカット(SE:斬撃音)していく。
「ええい! このリデーレという表現と芸能の神が絶叫しているシーン、尺が長すぎる! 0.5秒に短縮して爆音の『デデン!』というSEを差し込む! これで視聴者の維持率は跳ね上がるはずだ……ッ!!」
かつて邪悪な魔力を練り上げていたルシファーの頭脳は、今や「いかにして視聴者の離脱を防ぎ、サムネイルのクリック率(CTR)を叩き出すか」というマーケティング脳に完全に支配されていた。
そこへ、部屋のドアがガチャリと開いた。
「ルシファー殿! ろいで様から差し入れの『超激辛ポテトチップス』と『ストロング系炭酸水』をお届けに来てやったぞ!」
「ルシファー殿、調子はいかがかしら? ろいで様のチャンネル登録者数はすでに4,800万人を突破……次の動画の出来次第で5,000万人の大台が見えておりますわ!」
現れたのは、モデレーターのふたり――ゼノスとセレスティアだった。
「ゼノス……セレスティア……! お前たち、なぜそんな晴れやかな顔をしているのだ!? 我らは本来、神と悪魔の頂点に立つ存在なのだぞ!? なぜこのような動画配信者の裏方仕事でドヤ顔をしている!!」
ルシファーが血吐く思いで叫ぶと、ゼノスはフッと鼻で笑い、セレスティアは優雅に扇子をパチンと閉じた。
「何を言うかと思えばルシファー殿。ろいで様の『神回』を世界中に拡散し、人類に真の導きを与えること以上に高尚な仕事がこの世に存在するとでも?」
「ククク……そうだぞルシファー殿。貴殿が打ち込むその字幕ひとつひとつが、ろいで様の威光を強めているのだ。感謝するがいい、ろいで様の『専属編集者』という最高の地位を与えられたことをな!」
「貴様らぁぁぁ!! 完全に洗脳完了しているではないかぁぁぁーーッ!!」
ルシファーのツッコミが暗い編集室に空しく響き渡る。
しかし、そう言っているルシファー自身も、サムネイル画像の作成画面で「【朗報】神様、宇宙から地上へ激突して無事死亡www【神回】」という文字を、ネオンピンクのフォントで一番目立つように装飾している最中であった。
「くそっ……! 我の『絶望の魔力』が、なぜか『魅力的で煽り性能の高いサムネイルフォント作成』に最適化されている……!? なぜだ……なぜ我の指が勝手にフォントのグラデーションを調整しているのだぁぁぁッ!?」
「ふふふ、良い仕事ですわルシファー殿。その調子でサムネイルのCTRを15%以上に引き上げてくださいませ」
「よし、俺は次の肝試し&恐怖の枕投げバトルの撮影素材(4K画質・100ギガバイト)を置いておくぞ。朝までにフルテロップで仕上げておけよ!」
ドサッとデスクの上に置かれる、膨大なテラバイト級の外付けSSD。
「朝までに100ギガバイトのフルテロップ編集ぅぅぅ!? 殺す気かぁぁぁーーッ!! いや我は不滅の魔体だから死なないけども!! 精神が死ぬのだよ!!」
魔神ルシファーの血の叫びも虚しく、ゼノスとセレスティアは「ろいで様のお夜食を作ってまいりますわ」「俺はスパチャのモデレーション(荒らし削除)に戻る」と言い残し、爽やかに去っていった。
「――チクショウめぇぇぇーーッ!! 覚えていろよろいでぇぇぇ!!」
ルシファーは叫びながらも、手元は一瞬たりとも休ませることなく、爆速でショートカットキーを叩き続けていた。
「Ctrl+S(保存)! Ctrl+Z(元に戻す)! タイムラインにBGMを配置! 効果音『ドカーン!』を同期! ぐあああああ! 締め切りまであと3分だぁぁぁーーッ!!」
神を討つはずだった絶望の魔神ルシファーの、血と汗とポテトチップスに塗れた「過酷すぎる社畜編集作業」は、後半戦へと続いていく――。
(【番外編・後半】へ続く)
本日、【21:00〜】33話〜38話を連続公開します!
【このあとすぐ】38話を【21:55】頃に投稿します!
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モチベが急降下して常に涙目です……




