第32話:【地上帰還】学園グラウンドで「死のデスデス大運動会」を開催してみた件
「はぁ……はぁ……やっと……やっとあの地獄のネオンクラブから地上に戻ってこれた……!」
地下迷宮の巨大エレベーターから這うようにして学園のメイングラウンドへ投げ出された不憫な神様(※一応彼は表現と芸能の神様です)ことリデーレ(りーくん)は、乾いたアスファルトの地面にへたり込み、超派手な髪の毛を振り乱しながら大粒の涙を流していた。
地下深層で伝説の魔神ルシファーを社畜編集マンに仕立て上げ、タコ足魔王のイカ焼きを腹いっぱい食わされた数時間の配信は、もはやリデーレの精神的HPを完全にゼロまで削り取っていた。
▶:『おかえり、りーくん! 生還おめでとう!』
▶:『地下の魔神編集マンの切り抜き動画、もうトレンドの急上昇1位に乗ってるぞwww』
▶:『ルシファー様の「徹夜でサムネ作ってます」のコメントでクソワロタ』
スマホのチャット欄には、地下配信の余韻に浸る数千万人(チャンネル登録者数はついに3300万人を突破)の野次馬たちのコメントが、途切れることなく流れ落ちている。
ろいでは、ダボダボの萌え袖パーカーのポケットに両手を突っ込み、足元の198円のビニールスリッパを「キュッ、キュッ」と鳴らしながら、青空の下に広がる広大なグラウンドを見渡した。
「んー、地下も楽しかったけど、やっぱり地上はお日様が出てて気持ちいいだよね」
「君の中で地下の基準がどうなってんの! あそこは海獣王がヘッドホンしてEDM流して社畜させられてる狂気の空間だったんだぞ!」
「大丈夫。地上も今から最高にハッピーなアトラクションにアップデートしとくから」
「嫌な予感しかしないから今すぐそのスマホを海の底に投げ捨ててくれ!!」
リデーレの必死の懇願を完全に無視し、ろいではスマホの画面を軽やかにスワイプした。
空中にポップアップした【神権バグUI】を小気味よくタップする。
瞬間――。
学園の平和な(はずの)グラウンド全体が、禍々しいデジタルノイズのピンク色の光に包まれ、一瞬で別の空間へと書き換えられた。
【神権:神回】を発動。
私の視界が激しいデータグリッチとともに、学園のグラウンドを「全校生徒強制参加型の狂気のエクストリーム大運動会会場」へとリライトしていく。
【オブジェクト:学園グラウンド(通常時)】
【実行アクション:体育の授業や部活動を行うための平和な広場】
【変更後実行アクション:「一歩間違えれば即死する、バラエティ番組のガチ罰ゲーム付きデスデス大運動会(観客のスパチャで難易度変動)」に強制変換】
轟音とともに、グラウンドの周囲に巨大な観覧席が出現し、なぜか上空には「世界配信中・デスデス大運動会」と書かれたド派手な電光掲示板がバグった文字でチカチカと点滅し始めた。
そして、先ほどまで教室にいたはずの全校生徒たちが、なぜか全員おそろいの「蛍光ピンクのサポーター」と「命綱なしのバンジージャンプハーネス」を装着させられた状態で、グラウンドの中心にポツンと立たされている。
「なっ……なんだこれ……!? 私たちはさっきまで教室で現代文の授業を受けていたはずじゃ……!」
「体中に謎の爆弾付きタイマーが装着されているぞ……!? なんだこれ、動いたら爆発するのか……!?」
生徒たちがパニックに陥る中、生徒会会長のセレスティアと、魔界生徒会長候補のゼノスの二人が、なぜか審判のゼブラ柄のシャツに身を包み、メガホンを手にしてキリッとした表情で進み出てきた。
「全校生徒の皆様! お静まりください! 本日は、ろいで様主催による『第1回・全校生徒生き残りデスデス大運動会』を開催いたしますわ!」
「ルールは簡単! ろいで様が気まぐれで発動する理不尽な障害物競走や玉入れをクリアし、最後まで生き残った者だけが単位を認定されます! なお、途中でリタイアした者の単位は『マイナス無限大』となり、魂がチャンネルのサーバーに吸い上げられます!」
「完全にブラック企業の新人研修を超えたデスゲームじゃないか!! なんで生徒をモルモット扱いしてんの!!」
リデーレが絶叫してツッコミを入れるが、セレスティアとゼノスは「ろいで様のためなら、全校生徒の命など軽微な犠牲に過ぎません!」と満面の笑みで親指を立てた。
狂信者としてのステータスがもはやカンストしている。
当のろいでは、特等席のソファにふんぞりかえり、アイスクリームのスプーンをくわえながらマイクに向かって言った。
「えー、それじゃあ第一種目、『障害物ネットフリックス耐久レース』始めまーす。スタートの合図とともに、上空から大量の人食いワニと、未解決のバグコードの束が降ってくるから、みんな華麗に避けてね」
「避けれるわけないでしょ!! ワニとバグコードの二大最悪タッグを上空から降らすなよ!!」
▶:『キタ━━━━(゜ල්゜)━━━━!!』
▶:『デスゲームキターーー! 待ってました!』
▶:『りーくん、今回は何秒でワニに噛まれる? 予想は3秒』
▶:『生徒たち、ちゃんと走って逃げろよー!』
スマホのチャット欄は、このあまりにも理不尽でアトラクション感あふれる運動会の開催に、お祭り騒ぎのコメントと膨大なスパチャの嵐で埋め尽くされていた。
ピピピッ――! と、バグった電子音のピストルが鳴り響く。
瞬間、上空の裂け目から、牙を剥き出しにした巨大な人食いワニの群れと、青白く光る禍々しいエラーコードの塊が、雨あられのようにグラウンドへ降り注いだ。
「ギャアアアアアアッ! ワニが降ってきたぁぁぁ――ッ!!」
「逃げろ! 踏み潰されるぞ!!」
全校生徒が一斉にキャーキャーと悲鳴を上げながらグラウンドを縦横無尽に逃げ惑う。
しかし、ただ逃げるだけでは終わらない。ろいでがさらにスマホをタップすると、生徒たちの足元に次々と新たな【神権バグトラップ】が展開された。
【神権バグ発動:地面がランダムで「つるつるの氷の床」&「激辛マグマ床」に切り替わります】
「うわっ、足元が滑るぅ! 熱っ! マグマ床トラップえぐいてぇ――ッ!!」
生徒たちが氷の上で華麗にスリップしながらマグマ床に突っ込み、綺麗にすっころんでいく姿が、高画質のドローンカメラによって世界中に生配信されている。
▶:『生徒たちのリアクション芸がプロの芸人超えてて草』
▶:『りーくん、あそこの端っこでワニに追いかけられてるモブ生徒を助けてあげて』
▶:『いや、ろいでちゃん自身も今、別のワニにパーカーの裾を噛まれてない?』
視聴者のコメント通り、ろいでが座っているソファの足元にも、なぜか一匹の人食いワニが忍び寄り、ダボダボの萌え袖パーカーの裾を「ガウガウ」と引っ張っていた。
「んー、このワニ、ちょっとしつこいね」
ろいでちゃんは面倒くさそうに振り返ると、パーカーのポケットから198円の特売チョコレートを取り出し、ワニの口にポイッと放り込んだ。
瞬間、ワニの目がハートマークのデジタルエフェクトに変わり、「甘くて美味しい……これもう一生ろいで様についていきますわ……」と、完全に飼い犬ならぬ「飼いワニ」と化して足元でおとなしくお座りした。
「ワニまで秒で骨抜きにされてる……っ!」
「さすがろいで様、野生の猛獣を手懐ける手際も完璧ですわ!」
「ちょ!ろいでちゃん! 助けてよ!僕今、ワニじゃなくて上空から降ってきたエラーコードの塊に追いかけられて死にそうなんだよ! 誰か助けて!!」
リデーレが頭上に巨大な赤色のエラーコード(文字化けしたバグの塊)を背負いながら、グラウンドを必死の形相でダッシュしている。
その姿を見たチャット欄の盛り上がりは最高潮に達し、画面の向こう側の視聴者たちは「りーくん頑張れ!」「負けるな不憫神!」と、もはやどちらがメインパーソナリティか分からないほどの黄色い声援(と莫大なスパチャ)を送り続けていた。
「ふふ、りーくん、結構足速いじゃん。じゃあ、次の種目『大縄跳び・デスブラスト地獄編』に移行しまーす!」
ろいでが楽しそうに笑いながら、スマホを大きく振りかざした。
グラウンドの中央に、数万ボルトの電流を纏った巨大な光の縄が出現し、恐ろしい速度でブォン、ブォンと空気を切り裂きながら回転し始める。
「大縄跳びだと……!? あんなのタイミング合わなかったら全身の毛穴から電撃が吹き飛ぶぞ!!」
「全校生徒の皆さん、手をつないで一斉にジャンプしますわよーー!! せーのっ!」
ゼノスとセレスティアの掛け声に合わせて、パニック状態の全校生徒たちが数万ボルトの電気縄へと強制的に突っ込まされていく。
▶:『うおおおおお! 青春の幕開けだぁぁぁ!』
▶:『チャンネル登録者数3,500万人突破キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』
▶:『学園運動会の歴史に新たな伝説が刻まれた瞬間だな!』
電撃と爆音、そして全校生徒の絶叫が交錯するカオスなグラウンドの上空で、ろいでは優雅にタピオカミルクティーをストローで吸いながら、笑顔でカメラに向かって手を振った。
「えー、そんなわけで、今日のデスデス大運動会も大盛況のまま終了です! みんな、単位と命の残量に気をつけてねー。それじゃ、おつろいでー!」
世界中のネット民の熱狂と、リデーレの「助けてくれーーっ!」という断末魔の叫びを背に、学園グラウンドの空に盛大に打ち上げられたエラー花火が、今日の配信を鮮やかに締めくくったのだった。
(つづく)
21話〜32話のご視聴ありがとうございました!
次回今日の【21:00】に33話を投稿します!
ぜひ見てください!




