第26話:【魔王の息子降臨】パリピ教室にやってきたイキり悪魔・ゼノス、秒で狂信者になる
「――ふん。学園が何やら騒がしいと思えば、下劣な人間風情が調子に乗りやがって」
重低音のEDMミュージックと、ネオンピンクの光の弾丸が飛び交うカオスな教室の入り口。
そこに立っていたのは、漆黒のコートを優雅に翻し、頭からねじれた二本の黒角を生やした、いかにも「魔界の貴族」のような美しい青年――悪魔ゼノスであった。
彼は今年度の魔界からの首席留学生にして、次期魔界生徒会長の最有力候補。
学内の悪魔生徒たちからは「ゼノス様」と崇められ、その圧倒的な魔力と冷酷な美貌で恐れられているエリート中のエリートである。
しかし、そんな彼の登場を阻むように、教室全体はろいでの【神権バグ】によって完全に「野外フェスのクラブステージ」へと改造されていた。
ゼノスの足元にも容赦なくネオンピンクのグリッド線が走り、頭上では「自動追撃バグ魔法」の光の弾丸が、ピコピコと可愛い電子音を鳴らしながらクルクルと回っている。
▶:『あ、イキり悪魔くん登場だー!』
▶:『入場シーンなのにBGMが爆音EDMで草』
▶:『魔王(公式):おいゼノス。我が新王に無礼を働くのではない!我が息子とて許さんぞ!』
▶:『ゼノスくん、髪型が気合入りすぎてて面白い』
▶:『ろいでちゃん、新しいおもちゃの予感』
スマホのチャット欄は、新たなモルモットの到来に大歓声を上げていた。同接数はすさまじい勢いで伸び続け、すでに3,400万人を突破している。
ゼノスは、教壇の上でポテトチップスをむしゃむしゃと食べるろいでと、その横でマントのクリップを鳴らしながらぐったりしている不憫な神様(※一応彼は表現と芸能の神様です)リデーレを、冷ややかな三白眼で睨みつけた。
「貴様だな、昨日からこの学園の秩序をズタズタにし、我が父である魔王を誑かしたという噂の異物とは。――ハッ、笑わせるな! 愚民どもを扇動しているだけのペテン師が、魔王の息子であるこの私に通じると思うなよ!」
ゼノスはふんと鼻を鳴らし、漆黒の魔導杖を地面に突き立てた。
彼の背後には、お供として連れてきた数名の悪魔エリートたちが、フッ、と冷ややかな笑みを浮かべて控えている。
「私が出向いたのは他でもない。これ以上、我が学園でその低俗な見世物を続けるというのなら、その光る端末をへし折り、貴様らの両足をこの場でへし折って、二度と歩けぬようにしてやるわ!」
▶:『ゼノスくん、セリフの悪役感がベタすぎて草』
▶:『典型的なかませ犬の鑑』
▶:『りーくん、このイキり悪魔をどう料理する?』
▶:『魔王(公式):ゼノス、後で魔王城に来い』
▶:『魔王様からの圧が強すぎて草』
チャット欄に流れる魔王(公式)からの物騒なスパチャに、リデーレは「やめろ、余計にこいつの生存ルートが消えるから!」と心の中で激しくツッコミを入れた。
しかし、当のろいでは、ゼノスが放つ殺気や威圧感などまるで蚊の羽音のようにスルーし、ポリポリとポテトチップスをつまみながらスマホの画面をチラリと見た。
「ねぇ、みんな。この角の生えた生焼けの焼きイカみたいな人、なんかすごい怒ってるんだけど、これ夕飯のおかずにしていい?」
「誰が焼きイカだぁっ!! 私はゼノス・フォン・ブラッドレイ! 次の魔界の王を担う魔王の息子だぞ! 貴様、命乞いをするなら今のうち――」
「あ、うるさいから音量3%にするね」
ろいでちゃんがスマホの画面をシュッとスワイプし、前回のセレスティア相手でも猛威を振るった【神権】を発動させた。
【神権:音量設定・極小】発動。
「は……? なんだ、急に体が軽くなったような――いや、違う、私の声が……?」
ゼノスが威厳たっぷりに脅し文句を続けようとした瞬間、彼の口から発せられたのは、世界を震わせるはずの重低音の脅しではなく、まるで生まれたての子犬のような「きゅ、くぅん……」という情けない音だった。
「きゅ、きゅー……っ!?」
「「「えっ……!?」」」
ゼノスの後ろに控えていた悪魔のエリート手下たちも、我が目を疑って絶句する。
学園の次期生徒会長候補と噂されるゼノスが、ろいでに一瞥された瞬間、文字通り「小動物の鳴き声」しか出せない無力な存在へと成り下がってしまったのだ。
▶:『きゅぷ、きゅぷで草』
▶:『イキり悪魔くん、秒でマイクミュートされてて草』
▶:『りーくん、この技めちゃくちゃ汎用性高くない?』
▶:『ゼノスくんのプライド、今ごろ粉々に砕け散ってそう』
「お、ミュート機能やっぱり優秀だわ。で、ゼノスくん、なんか文句ある?」
「きゅ、きゅきゅーーっ!(=ふざけるな! 貴様、いったい私に何をしたぁーーっ!!)」
顔を真っ青から真っ赤に染め上げ、必死に抗議のジェスチャーをするゼノス。
しかし、リスナーたちのレスバとチャット欄のコメントは、もはや彼のプライドを木端微塵に粉砕するには十分すぎるほどの火力を持っていた。
▶:『ゼノスくん、鳴き声可愛くて草』
▶:『魔王(公式):我が新王さすがだな。もっとやれ』
▶:『これもう魔界のプリンスじゃなくてペットショップの売れ残りの小動物だろ』
▶:『マントのクリップをゼノスくんに分けてあげたい』
▶:『りーくん、こいつを今日のDJの引き立て役にしようぜ』
チャット欄の容赦ない罵詈雑言(愛あるイジリ)の嵐が、スマホの画面を通じてゼノスの精神を直接タコ殴りにしていく。
物理的な攻撃よりも、自身の威厳と美意識を完膚なきまでに踏み潰されたゼノスは、その場でガクガクと膝を震わせ、ついに白目を剥きかけた。
「ちょっと、ろいでちゃん。流石に言い過ぎてない? こいつ、目から変な汁出してガチで精神崩壊しかけてるぞ……。まぁ、父親も乗り気ならいいのか……?」
見かねたリデーレが冷や汗を拭いながら声をかけるが、ろいでは「んー、大丈夫。いい感じに更生されてるから」と涼しい顔で頷く。
そして、ろいではトドメとばかりにスマホを操作し、ゼノスに向けて新たなシステムメッセージを投影した。
『【お知らせ】ゼノスくんを「公式信者モデレーター(パシフィック枠)」に任命しました。今からこの教室の床掃除をよろしくね』
「きゅ……っ! い、いや、私は魔王の息子がゆえに――きゅぷ!」
抗議しようとしたゼノスだったが、脳内に強制的に流れ込んできた【ろいでちゃん信者としての全記憶と義務】により、彼の瞳からスッと光が失われた。
次の瞬間、ゼノスはピシッと直立不動の姿勢をとり、教壇の前にひざまずくと、持っていた高級ハンカチでネオンピンクに染まった床をゴシゴシと泣きながら磨き始めたのである。
「ふ、拭かせていただきますわ……いえ、拭かせていただきます……! ろいで様、このゼノス、今日から貴女の足元のスリッパを磨くために生まれてきました……っ!」
「「「ゼノス様が数分で狂信者に堕ちたぁーーっ!?!?」」」
後ろにいた手下のエリート悪魔たちは、あまりの急展開と変わり果てた生徒会長候補の姿に、恐怖のあまり腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。
こうして、魔界から送り込まれた最強の刺客・ゼノスは、戦闘すら行うことなく、ろいでちゃんの配信の「お掃除係兼熱狂的信者」として完璧に調教されてしまったのだった。
(つづく)
本日【14:00〜】21話〜32話を連続投稿します!
【このあとすぐ】27話を【14:30】頃に投稿します!
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