第25話:【暴走パリピ教室】天使も悪魔も全員ダンサーになった
「――だから、ここがどういう場所かマジで分かって言ってるの!?」
ネオンピンクの光の奔流と、脳を直接揺さぶるような重低音のEDMミュージックが轟く教室の中央。
不憫な神様(※一応彼は表現と芸能の神様です)ことリデーレ(りーくん)は、キラキラと輝く紙吹雪が舞い散る教壇の端で、頭を抱えながら本気で絶叫していた。
教室の床に刻まれていたはずの由緒正しき古代神聖魔法陣は、ろいでちゃんの手によって完全に『ライブ配信用UI』へとバージョンアップ(物理ハッキング)されている。
その結果、自動追撃バグ魔法の弾丸に直撃したエリート生徒たちは、もはや抗う術もなく、全員がキレッキレのダンスステップを踏み続けるだけの「踊る人形」と化していた。
▶:『ルキウス教官のステップがプロ並みで草』
▶:『天使の羽をバサバサさせながらランニングマンするのやめろ』
▶:『悪魔の貴族系男子もノリノリで草』
▶:『自動追撃バグ魔法、実質的なマインドコントロール兵器じゃん』
スマホのチャット欄には、この世の終わりみたいな光景を楽しそうに煽り立てるリスナーたちのコメントが滝のように流れ落ちている。
同接数はすでに3,300万人を突破。全宇宙のネット民が、この「エリート学園の公開処刑ライブ」に熱狂の渦を巻き起こしていた。
教壇の中心では、被害の元凶である配信者・ろいでが、ダボダボのパーカーのポケットに両手を突っ込み、足元の198円のビニールスリッパを「キュッ、キュッ」と小気味よく鳴らしながら、踊り狂うルキウス教官を冷ややかに見下ろしている。
「ねぇ、ルキウス先生。さっき『基礎の基礎から這い上がって教えを乞うがいい』って言ってたけど、今のステップのキレ具合を見るに、先生のほうがだいぶいい感じに仕上がってるじゃん。追加でアンコールいく?」
「フゥーーッ! ターン! アンド、ステップ!!……って、ち、違う! 私は天界のエリート教授であって、クラブのDJではなーーいっ!!」
美しい六枚羽を盛大にバタつかせながら、ルキウスは自らの意思とは無関係に華麗なターンを決め、涙目になりながら絶叫した。
しかし、一度書き換えられたシステムのバグを解除する方法など、この学園の誰にも分からない。
そもそもろいで自身が「解除の方法? え、面倒だからそのままでいっか」と完全に放置しているのだから救いようがなかった。
「あ、そうだ、りーくん」
「なんだよ! 僕までこの謎のダンス空間に巻き込まれそうだから話しかけないで!」
「お腹すいたから、そこの空中でクルクル回ってる焼き鳥……じゃなくて、光の弾丸をキャッチしてよ。お昼ご飯にする」
「誰が光の魔法をキャッチして食べるかぁ! ていうか、さっきから僕の外套のクリップと安全ピンが勝手にリズム刻んで踊り出してるんだけどどうしてくれんだよ!」
リデーレが自分の外套にしがみつくと、金属製のクリップが「カチッ、カチッ、チキチキ!」とリズミカルに発光しながら、謎のビート刻み始めていた。
もはや彼の衣服のパーツすらも、この配信の演出の一部として完全に洗脳されている。
▶:『りーくんのクリップ、完全にDJのスクラッチ担当で草』
▶:『マントにも当たり判定あって草』
▶:『ろいでちゃん、お腹すいたアピール可愛すぎる件について』
▶:『スパチャで高級弁当投げ込んだろか?』
チャット欄のコメントを横目に、ろいではスマホを操作し、さらに学園全体のネットワークへと侵食を広げていく。
「んー、この教室だけだと音が狭いから、学内放送のスピーカーも同期させとこっか」
「ま、待ってろいでちゃん! それをやったら学園全体が――っ!!」
ビチビチッ! と、スマホの画面から青白いノイズが走り、次の瞬間、神魔統合学園のすべての校舎に張り巡らせてあった校内放送のスピーカーから、地響きのような重低音EDMが轟音で鳴り響いた。
「「「「なっ……なんだこれ――!?!?」」」」
中庭を歩いていた生徒たちも、職員室で書類仕事をしていた他の教授陣も、誰も彼もが突然鳴り響いた爆音と、足元から這い上がってきたネオンピンクの光のグリッドに捕らえられた。
学園のあちこちから、天使の悲鳴と悪魔の絶叫、そして強制的に踊らされる者たちの「フゥーーッ!」という魂の叫びがこだましていく。
▶:『学園全体が野外フェス会場にリニューアルされてて草』
▶:『校長室のじいちゃんまでステップ踏んでそう』
▶:『これが神権バグの恐ろしさよ』
▶:『セレスティアちゃん、今ごろどこで隠れて震えてるんやろ』
そう、学園のどこかで、前回の天井崩壊と今回の学内放送ジャックのダブルパンチを食らった生徒会会長セレスティアが、「またあの下等人間の仕業ですわね……! もう耐えられませんわ……!」と枕を濡らしながら歯ぎしりしている姿が目に浮かぶようだった。
だが、この学園の平穏(?)を根本から粉砕する狂騒は、まだ始まったばかりに過ぎなかった。
学園の地下深く、あるいは魔界の本国から、次なる「更なるヤバい刺客」が、このネオンピンクに染まったライブ会場へとひたひたと歩み寄ってきていたのだ。
「――ふん。学園が何やら騒がしいと思えば、下劣な人間風情が調子に乗っているようだな」
重低音のビートの隙間から、冷徹で、しかしどこか気負った男の低い声が、講堂の入り口付近に響きわたった。
▶:『おっ、新キャラ来たぞ』
▶:『悪魔の気配がするぞ』
▶:『イキり悪魔貴族のフラグ回収早すぎて草』
▶:『りーくん、次の被害者の準備はいいか?』
チャット欄がふたたび大きくざわめき立つ中、ろいでちゃんは気だるげに振り返り、青いビニールスリッパを引きずりながら、その人物の方へと視線を向けたのだった。
(つづく)
本日【14:00〜】21話〜32話を連続投稿します!
【このあとすぐ】26話を【14:25】頃に投稿します!
ぜひ見てください。




