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第21話:【入学】最高神をBANした翌日、天使と悪魔の通うエリート学園にスリッパで登校してみた結果




「……あのさ、ろいでちゃん。ちょっと待って。なんで僕、今ここにこうして『生身』で立ってるわけ?」



天界と魔界の境界線上にそびえ立つ、禍々しくも神々しい超エリート校『神魔統合学園しんまとうごうがくえん』の正門前。



そこに佇む一人の見た目がうるさすぎる美青年――音量3%の【表現と芸能の神リデーレ】こと「りーくん」は、自分の両手を見つめながら乾いた悲鳴を上げていた。


本来、彼はスマホの配信アプリの向こう側、いわゆるヘッドホン越しにツッコミを入れるだけの『音声だけの存在』だったはずだ。


それがどうしてか、今はしっかりとアスファルトの地面を踏みしめ、冷たい風を感じている。



▶:『つかりーくん噂以上に見た目がうるさすぎるだろw』


▶:『外套マントにクリップとか新感覚すぎる』


▶:『髪の毛どないなってんの?』


▶:『あ、りーくんの物理肉体化パッチ当たったんだ』


▶:『前回の神様BANの余波で、電波とバグが混ざって実体化した説』


▶:『実質、ろいでちゃんの被害者の会代表としての強制召喚』


▶:『りーくん、おめでとう!今日からパシフィック(肉体労働)枠だよ!』


▶:『不憫すぎて草』



「全くおめでたくない! ついこの間魂が昇天しかけたから、普通に自室のベッドで布団かぶって寝たかったんだけど!? なんで俺まで一緒にエリート校に連行されてるわけ!?」



▶:『というかろいでちゃん。猫のスリッパどこいったの?』



盛大に絶叫するリデーレを他所に、当の配信者・ろいでは、リスナーのコメントに足元をのぞき込んで首をかしげていた。



「んー? なんか今朝、いつものもこもこの猫ちゃんスリッパ履こうとしたら、リスナーの一人が『これフリマアプリで売ったら1億稼げそう』とか言ったから消滅しちゃった。だから、近所のディスカウントストアで198円で買った青いビニールスリッパで代用してる」



「勝手に売り飛ばすな! つーか、君の愛用品の治安どうなってんだよ! ていうか猫スリッパどこいったの!?」



▶:『1億で売れたからヨシ!』


▶:『ろいでちゃんの私物はだいたいリスナーの養分になる仕様』


▶:『今日の足元は完全にガチの刑務所サンダルで草』



ろいでが歩くたびに、「キュッ、キュッ、キュポッ」と、神聖な学園の静寂を切り裂く絶妙に煽り性能の高い音が響きわたる。


そんなコントのようなやり取りを繰り広げていると、学園の正門付近にピリついた空気が走り抜けた。



――そこの貴方たち! 止まりなさいっ!



キィィィン……と、空気を震わせるような気高く美しい声が響きわたる。


正門の階段を降りてきたのは、背中に純白の翼を背負い、黄金のレイピアを腰に携えた、一糸乱れぬ美貌の少女。


天界が誇る生徒会会長にして、全校生徒の憧れの的、セレスティアその人であった。


セレスティアは、黄金の瞳を鋭く吊り上げ、正門の前に立つろいでと、その巻き添えを食った不憫な保護者りーくんをジロリと睨みつける。


彼女の視線はまず、ろいでのダボダボのパーカーに注がれ、そして――その足元のお世辞にも上品とは言えない「青いビニールスリッパ」で完全にフリーズした。


……スリッパ。


ここは、選ばれし神魔のエリートたちが、世界の理や高度な神聖・魔導工学を学ぶ最高学府である。


入学式には正装を義務付けられ、一歩歩くことすら誇りと格式が求められるこの聖地に、よりによって「近所のコンビニにパジャマで行くおっさん」が履くようなチープなサンダルで登校してくる人間など、歴史上存在しなかった。


セレスティアの額に、青筋がピクッと浮かび上がる。



「……あなた、いったいどこの下等生物です? それとも、我が学園を侮辱するために送り込まれたテロリスト……?」



「きゅっ、きゅぽっ」



「ふっ!?」



セレスティアが詰め寄ろうとした瞬間、ろいでが歩みを進めたため、ビニールスリッパが乾いた音を鳴らした。


そのあまりに緊張感のない音に、セレスティアは思わず身を固くする。



▶:『草』


▶:『音の暴力で草』


▶:『生徒会会長の威厳が一瞬で消え去った瞬間』


▶:『りーくん、今のうちに土下座しとけ』


▶:『通報RTA(物理)開始』



「待て待て待て! すみません、この子、頭のネジが地球のコアと一緒に溶けちゃってる系のアレなんで! 悪気はないんです! 不審者って言うか、ただの配信者なんです! 電波のバグで僕の肉体まで実体化させられた被害者なんです!」



リデーレが必死に両手をぶんぶんと振って弁明するが、セレスティアの耳には届かない。彼女のプライドである純白の翼が、怒りのあまりにバサリと大きく広がった。



「言い訳無用ですわ! この神聖なる『神魔統合学園』において、そのような不潔かつ文明的レベルの低い履き物……いえ、そのふざけた態度そのものが学園の秩序を冒涜しています!」



セレスティアは腰の黄金レイピアに手をかけ、ぎりっと歯を噛み締めた。


彼女は今年度の首席特待生であり、教師陣からも「将来の大天使長候補」と期待されるエリート中のエリートである。


そんな彼女の目の前で、謎の青いスリッパを鳴らしながらポテトチップスを(なぜかいつの間にか取り出して)むしゃむしゃと食べる少女など、許せるはずもなかった。



「この私が、その不敵な態度を今ここで徹底的に矯正して差し上げますわ! 覚悟なさい、下等人間……いえ、不審者さん!」



▶:『キターーーー!』


▶:『初手から大天使のキレ芸あざっす!』


▶:『セレスティア様、お顔が真っ赤ですよ』


▶:『りーくん、後ろ後ろ!』


▶:『治安が悪すぎて最高』



スマホのチャット欄が、お祭りのような弾幕で埋め尽くされていく。


同接数はすでに2,000万人を超え、世界中のネット民がこの「天界のエリート vs 物理実体化した不憫リスナーとスリッパの配信者」という理不尽なタイマンに熱狂していた。


しかし、当のろいでは、セレスティアが放つ圧倒的な神聖魔力プレッシャーを完全に無視して、スマホの画面に向かってフランクに話しかける。



「あ、みんな聞こえる? 今日から転校生やることになったんだけど、なんか校門の前に鳥の羽が生えた怒りんぼうの鶏肉さんがいるのね。お昼ご飯これ焼き鳥でいい?」



「だ、だれが鶏肉ですか――っ!!!」



セレスティアの美しい顔が、怒りと恥ずかしさで真っ赤に染まる。


彼女は手元に巨大な光の魔法陣を展開し、容赦なくその神聖なる一撃をろいでちゃんに向けて放とうとした。


――その瞬間。


ろいでは、スマホの画面をシュッとスワイプし、前回の戦いで手に入れた【神権バグUI】を空中にポップアップさせた。



「うるさいから可愛い声にしてあげるね」



「え……? なんですの、これ……?」



セレスティアが放とうとした光の魔法陣が、パァン、とシャボン玉のように音もなく弾け飛んだ。


それどころか、セレスティアの口から出るはずだった威厳ある罵声が、なぜか「きゅ、きゅー……」という、どこか可愛い小動物のような気の抜けた小さな声に変換されてしまう。



「あ、ミュート機能優秀だわこれ。よし、りーくん、立ちすくんでないで中に入ろっか」



「勝手に機能使うな! ていうか大天使様の声が! 音量3%になってるじゃん! 君どんだけやりたい放題なんだよ! つーか僕の肉体も早く元に戻して!」



絶叫するリデーレを置き去りにし、ろいでは「キュッ、キュッ」と軽快なスリッパの音を響かせながら、大天使セレスティアの横を悠然とすり抜けていく。


呆然とその背中を見送るしかできなかったセレスティアは、口をパクパクさせながら、全身を震わせてその場に膝をつきかけた。


――これが、のちに天界と魔界の勢力図を根本から破壊し尽くす、最悪にして最高な「ろいで無双・第二章」の幕開けであった。



▶:『おつろいでー!』


▶:『入学おめでとーー!!』


▶:『セレスティアちゃん、初日から完全敗北で草』


▶:『りーくんの肉体、早くも消耗品扱いで草』




(つづく)

本日【14:00〜】21話〜32話を連続投稿します!

【このあとすぐ】22話を【14:05】頃に投稿します!

ぜひ見てください。


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