第16話:【大台】同接1000万人記念! 街の中央広場でゲリラ生ライブを敢行してみた
高級ホテルをチェックアウトした私は、もこもこの猫足スリッパをペタペタと鳴らしながら、商業都市のど真ん中にある一番大きな中央広場へとやってきていた。
頭上を浮遊する不可視のドローンカメラに向かって、私はダボダボのパーカーの袖を大きく振る。
「――はい、というわけでみんなおはろいでー! 本日はなんと、チャンネル開設からわずか数日にして……同時視聴者数1000万人突破記念ゲリラ生放送でーす! 拍手ーーー!」
パチパチパチパチ! と自分で拍手をしながら画面を見ると、右上の同接カウンターが【10,000,000】という、もはや国家の人口レベルの数字を叩き出していた。
画面のチャット欄は、地球のリスナーと、なぜか魔王軍の魔族たちのコメントが激しく入り乱れて完全にバグを起こしている。
▶:『同接1000万人おめでとう!!!』
▶:『ギネス記録どころの騒ぎじゃねえぞwww』
▶:『てかチャット欄に魔王軍の公式マークつきアカウントが大量にいて草』
▶:『こいつらどうやってスマホ手に入れたんだよww』
「あ、みんなそこ気になってるんだ? 実はね、この配信システム、私の魔力(同接数)と同期して異世界全土に電波を飛ばしてるから、私の配信を一度でも画面(魔法陣)越しに見た住人は、視界の端に自動で『配信UI』が強制インストールされる仕組みになってるんだよねー」
『……そうだよ。しかも、魔王軍の幹部たちが飛ばしてくる桁違いの魔力を、地球の配信サイトの自動検知AIが「なんか知らんけど海外の超大物セレブから国家予算レベルのデータが送られてきたぞ!?」って壮大に勘違いして、勝手に公式認証のチェックマークを付与しちゃってるんだ。地球の運営サイトのセキュリティ、ガバガバすぎるだろぉぉぉ!!』
ヘッドホンの中から、音量3%のりーくんが魂の抜けた声でシステムのバグを解説する。
つまり、魔族たちはスマホを持っているのではなく、自分の視界に浮かぶ半透明のボタンを念じる力でポチポチ押して、地球のインターネットに直接書き込みをしているのだ。
▶:『視界に直で配信アプリのUIが常駐するの草』
▶:『地球のAIが異世界の魔力をセレブ認定しててワロタww』
▶:『魔王軍、完全にインターネットに適応させられてるじゃん』
▶:『スパチャ(100,000円):1000万人記念のお祝いです! 何か一発芸やって!』
「お、ナイススパチャありがとー! 1000万人も見てくれてるし、せっかくだからこの広い中央広場を使って、ちょっと派手な『ゲリラ記念ライブ』でもやっちゃおっか!」
私がそう宣言した瞬間、広場の周囲に集まっていた現地の一般住民や、指名手配犯である私を遠巻きに監視していた警戒中の衛兵たちが、一斉にザワつき始めた。
「おい、あのマッスル魔女が何か始めるぞ……!」
「また街がゴミ捨て場にされるのか……っ!?」
と、全員がいつでも逃げ出せるように腰を引かせている。
「じゃあ行くよー! りーくん、私の同接1000万人分のエネルギー、全部『ライブ用のアレ』に変換して、広場全体に出力して!」
『もう僕に拒否権は無いんだね! 表現の神としての全霊をここに注ぐよ! 【神権:統合エンターテインメント・ステージセット】ッ!!!』
りーくんが半泣きで神権を解放した、その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……と大地が激しく震動し、中央広場の石畳を書き換えるように、ネオンピンクの巨大な野外特設ステージが地面からニョキニョキと生えてきた。
さらに、広場の四隅には超巨大なホログラムのウーハー型スピーカーがそびえ立ち、空中に「1000万人突破!」という巨大な文字が花火のように打ち上がる。
「みんな、盛り上がっていくよーーー!!」
私がステージの真ん中に立ち、空中に向かって思いっきり手を掲げると、ウーファースピーカーから、かつてこの異世界の誰も聞いたことがないような、重低音の効いたバキバキのデジタルクラブミュージック(※りーくん直製のオリジナル神音源)がド派手に鳴り響いた。
ドン、ドン、ドン、ドン――ッ!!!
その地響きのようなリズムと、ステージから噴き出すネオンピンクのスモーク。
普通ならおぞましい暗黒魔法の儀式に見えるはずの光景。
しかし、あまりにも洗練された地球の最先端エンターテインメントのクオリティに、広場を包囲していた衛兵たちも、怯えていた一般住民たちも、全員が「な……何だこの心地よい振動は……!?」と、無意識のうちにリズムに合わせて体を揺らし始めていた。
▶:『うおおおおお!!! 始まった!!!』
▶:『異世界初の野外フェスwwwww』
▶:『ろいでちゃん、ただパーカー着てスリッパで立ってるだけなのにオーラが神がかってる』
▶:『魔王(公式):……素晴らしい。この腹に響く重低音、我が魂の闇が躍動するのを感じるぞ』
「あ、チャット欄で魔王様もノリノリじゃん! よーし、じゃあもっとエフェクト追加しちゃいまーす!」
私が指先をパチンと鳴らすと、1000万人の熱狂がさらに加速し、広場全体に色鮮やかなレーザービームが縦横無尽に走り抜けた。
国家の非常事態宣言もお尋ね者の身分もすべてを置き去りにして、パーカーを着た一人の少女が、その圧倒的な配信の力で、異世界の中心を完全に「フェス会場」へと変えてしまったのだった。
(つづく)
3話だけのつもりでしたが追加でキリのいいところまで投稿しようと思います。
【このあとすぐ】17話を【10分後】に投稿します。
ぜひ少しでも見ていただけたら嬉しいです。




