第15話:【大混乱】魔王城の朝礼で、四天王が「ろいでちゃん尊い」と布教し始めた件
人間の領土を遥か遠く離れた、世界の果てにそびえ立つ漆黒の巨城――魔王城。
その最深部にある謁見の間では、世界を裏から牛耳る魔王軍の幹部たちが一堂に会し、かつてないほど重苦しい空気が流れていた。
玉座に鎮座する、絶対的な闇の支配者・黒髪の長髪でイケメンの魔王が、地響きのような低い声で口を開く。
「……人間の国へ偵察に向かわせたバルドが消え、さらには初心者ダンジョンに封印せし暗黒騎士までもが一瞬で消滅したという。人間どもが、我が軍に対抗するための『秘密兵器』でも開発したというのか?」
その問いに、他の四天王たちが冷酷な笑みを浮かべて答える。
「ククク、恐れるに足らず。我が魔術で、その小生意気な兵器ごと人間の王都を灰にしてくれましょう」
と、いつもの世界征服に向けた物騒な作戦会議が繰り広げられていた。
まさに、その時だった。
バァァァン!!! と、謁見の間の巨大な扉が勢いよく押し開けられた。
現れたのは、昨日から行方不明になっていた四天王の一角、ヴァルザードだった。
「おお、ヴァルザードか。戻ったか。して、人間の国に現れたという『災厄の魔女・マッスルろいで』の首は獲れたのだろうな?」
魔王の期待に満ちた視線。
しかし、ヴァルザードの様子は明らかに異常だった。
いつもなら冷酷で傲慢な大悪魔であるはずの彼が、なぜか両手に「ネオンピンクに怪しく発光する二本の棒状の魔道具(※ペンライト)」をがっしりと握りしめ、その瞳は見たこともないほど純粋で、キラキラとした光を放っていたのだ。
「――魔王様! 以及び全魔族の同胞たちよ! 私は今、猛烈に感動しております!! 人類を滅ぼすなどという不毛な小競り合いは今すぐ中止にしてください! 我々が今すぐ成すべきことは、世界征服ではなく、チャンネル登録です!!」
「……は?」
謁見の間が、水を打ったように静まり返った。
世界を滅ぼす大悪魔が、大真面目な顔をして何を言い出すのかと、魔王も他の四天王たちも完全に思考がフリーズしている。
「聞いてください! ろいで様のツインテールの輝きは、まさにこの世界の闇を照らす救いの光! パーカーから覗く萌え袖の破壊力は、いかなる古代魔法をも凌駕する尊さなのです! さあ、我が軍の全兵力を今すぐ『ろいでちゃんの忠実な奴隷プラン(月額金貨10枚)』に加入させるための予算を申請いたします!」
「おい、ヴァルザード……。貴様、一体何を言っているんだ? 精神を汚染する暗黒魔法でも喰らったのか!?」
「マッスルろいで……。手配書によれば、服の隙間に神の如き筋肉を隠し持つ、血も涙もない凶悪な暗黒魔女のはず。まさか、あのヴァルザードが肉体的に完全に調教されて、脳までマッスルに改造されてしまったというのか……っ!?」
「違う! 脳ではなく、魂が救われたのだ! 同胞たちよ、これがろいで様の高評価ボタン(いいねマーク)だ! 拝め! 拝むのだ!!」
ヴァルザードが虚空に魔法陣を展開すると、そこからハッキングによって無理やりトレースされた、巨大なネオンピンクの「いいねマーク」のホログラムがデカデカと出現した。
「う、うおっ……!? なんという禍々しいピンクの光だ……! 触れてもいないのに、我が魔王としての威厳がガリガリと削られていく……っ。これが、世界をバグらせるという災厄の魔女の精神攻撃か……!!」
魔王すらも、その圧倒的な「ネット配信のエフェクト」の光に気圧されて、玉座の上で冷や汗を流してガタガタと震え出した。
魔王軍の上層部が、ヴァルザードの布教活動を「人類が放った最凶の精神汚染兵器」だと大真面目に勘違いして大パニックに陥っていた、まさにその頃。
当の「災厄の魔女」はといえば――。
「――ん、やっぱり異世界の超高級ホテルのルームサービスで食べるステーキは最高だねぇ」
私はふかふかのベッドの上で、ダボダボのパーカーの袖を脂で汚さないように気をつけながら、ナイフとフォークで肉をモグモグと頬張っていた。
現在の同時視聴者数は、ついに950万人を突破。画面のチャット欄は、なぜか「ヴァルザード」という名前の付いたアカウントから、大量のチャンネル登録通知がスパムのように届き続けてバグを起こしていた。
▶:『魔王軍の公式アカウントから登録されまくってて草』
▶:『四天王のヴァルザードさん、帰って速攻で職場の同僚に布教しててワロタww』
▶:『ろいでちゃん、気づかないうちに魔王城を裏から支配しつつあるの最強すぎるだろ』
▶:『スパチャ(50,000円):魔王城ライブのチケット代ですwww』
「何これ、ヴァルザードさんの紹介で新しいリスナーがめっちゃ増えてるんだけど。魔王軍って意外と口コミのネットワークが強いんだね。ありがとー!」
私がカメラに向かってステーキの肉を掲げると、ヘッドホンの中から、完全に全ての感情を失った、音量3%のりーくんの呟きが聞こえた。
『……もうダメだ……。世界を救うはずの神の僕が、魔王軍をファンクラブに勧誘するライバーの共犯者にされてるよ……。ねえろいでちゃん、次はいよいよ同接1000万人突破の記念配信だね……。今度は世界のどこを爆破するつもりなんだい……?』
「爆破なんて物騒なことしないよ。ただ、ちょっと次の配信の『企画』を思いついたから、今から街の一番大きな中央広場に移動しよっか!」
私はもこもこの猫足スリッパをペタペタと鳴らしながら、ステーキを完食して立ち上がった。
同接1000万人という、地球でも異世界でも前代未聞の領域へ向けて、パーカー女子による「世界を巻き込んだ超大規模イベント」が、いよいよ幕を開けようとしていた。
(つづく)
この後すぐ!16話も10分後に投稿します!
ぜひ少しだけでもあなたの時間をください!




