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プロジェクト【サハ】  作者: 諸星佑月
【第一章】箱船は終末から

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永遠の命

「……何を、カイン……」

「どこが分からなかった?ソロのやり方は、間違いなく形を変えた永遠の命だよ、ヴラド」

「違う……!何でお前はそんなものを求めるんだよ!」

「……自分と向き合おうよ、ヴラド」

 カインは頭を上げ、何かを思い出すように呟く。

「君は、本当は死にたかったんでしょう」

 何も言い返せなかった。

 ヴラドは、ただそこに立ち尽くした。

「分かるんだよ、君の考え。小さい頃からよく分かっている」

 カインの表情は徐々に険しくなった。

「千年の間、僕たちの体は変化し、能力も開発された。それでも、ウイルスの脅威や飢餓の辛さから逃れられず、外界を破壊したハタの侵食から逃れられなかった。虫の息で生きている」

 その言葉の一つひとつが、ヴラドにはあまりにも理解できていたことだった。

「でも……それでも俺たちは生き延びた。俺たちは今も、生きているじゃないか」

「ヴラド、君は未来が必ず良くなると保証できるのか?一体こんな日々は、どこまで続くんだ?」

 その問いに、ヴラドは答えられなかった。

「天空城にいた間、ブリットンスの資料もできる限り集めた。事実は、この世界だけでなく、この宇宙そのものも、徐々に死に向かっているということだ」

「……」

「僕がソロの計画を支持したのは、この宇宙の災厄に対抗する手段を見つけるためだ。今、ようやく完成した。真の永遠の命ーー身体は交換可能、思考はデータとして記録される。ヴラド、君は永遠に生き続けられるんだ。しかも皆にも同じさ。もうウイルスを恐れる必要も、飢えに悩む必要も、死を恐れる必要もない。理想じゃないか?」

 カインの言葉は広大な空間に反響した。

 何も言い返せなかったヴラドに、カインは彼も考える時間が必要だと思い、微笑みながら見つめていた。近づこうとしたそのときーー予期せぬ声が割り込んできた。

「……それ、まだ生きているっと言えるんですか」

 カインの血紅の瞳が、その声の主ーーヴラドの後方に立つフランケンシュタインを捉えた。

「君は生と死を理解できるはずがないだろう、スクラップ」

 言葉を発する間もなく、背後から現れた血色の巨大な蛇がフランケンシュタインを激しく弾き飛ばす。壁に激突した衝撃で凹んだ金属は修復不可能なほどで、全身から電流が迸った。

「フラン!」

 カインの表情は極めて冷酷だ。彼はフランケンシュタインに向かって歩み寄り、左手に血紅の結晶を凝縮させる。先ほどソロを殺した血色のレイピアが再び手中に現れた。

「いずれヴラドには説明しなければならないから、先に天空城についてある程度理解してもらうために君を残しておいた。必要な遺産(ヘリテージ)は二体だけ、君はもう用済み……」

 その瞬間、ヴラドがカインの手首を強く握った。

「やめろ」

 その力は圧倒的で、ヴラドは顔も向けず握り続けた。

「……なぜだ?こいつはカーミラさんの命を奪った。君だって、こいつを壊したかったじゃないか、ヴラド」

「……お前の言う理想は、完璧すぎる、カイン」

 彼は頭を上げ、操作台の光る無数のスクリーンを見つめる。

「思考はバックアップされ、身体は再造可能、永遠にデータとして鉄の中に保存されるーー俺が死んでも、すぐに新しい俺を作ればいいと……そんなものが、どう考えでも、俺じゃねぇだろうが」

 ヴラドはついにカインと目を合わせた。だがその瞳は怒りに燃えていた。

「……リリスをここに連れてくることも、地上のみんなの命を危険にさらすことも、そんなことのためか」

 握る力はさらに強まる。カインは顔をそむけ、沈黙で応える。

「ヴラド!後ろ!」

 ヴラドはフランケンシュタインの叫びでカインから手を離し、避けた。血色の巨蛇は彼にぶつからず、窓を突き破った。

 ヴラドはロボットのそばに後退した。

「ここは俺に任せろ、フラン。お前は他の人の様子を見てこい」

「うん。ヴラド、気をつけて」

 フランケンシュタインはロビイに合図し、二体の遺産(ヘリテージ)は翼を広げ、窓の外へ飛び去った。

 血色の巨蛇がカインの背後に巻き付き、牙を剥き出しにする。

「……ヴラド、どうしてわからない。こんな黒と紅しか無い世界に、もう生きる意味なんて感じないはずだ。君は、僕と同じのはずだ」

 両手の間で血の光が瞬き、ロンギヌスと名付けられた槍が瞬時にヴラドの手に現れた。

 血色の長槍が美しい弧を描き、かつての友を狙う。

 操作台の下で、完全に冷え切った死体が誰かによって引きずられていく。


 さきほど地面を大きく揺らした衝撃は、別の戦場から響いてきたものだった。

 一帯はすでに焼け焦げた金属と、途切れることのない火光で覆われている。

「……厄介な奴……」

 さすがのアルジャーノンも、そう呟かざるを得なかった。

 ヒヨリはまるで疲れを知らず、次々と広範囲の炎を放ち続けている。

 アルジャーノンはノアを制御するため持ち場を離れられず、必死に近接戦を避けてきたが――いかに感応の範囲を広げようと、遺産(ヘリテージ)の擬似根印(ねしるし)には限界がある。

 視線を横にやれば、フクロが戦場の片隅でただ傍観している。助ける気はないらしい。

「メギドフレア!」

「……っ!」

 一瞬の油断が命取りところだった。空から降り注ぐ無数の火球――まるで天から舞い降りる隕石。赤々とした光が世界を染め上げていく。

 火球は次々と地面に炸裂し、灼熱の破片を撒き散らす。爆煙が広場を覆い、衝撃波が大地を震わせた。金属は熱に溶かされてどろどろの液体となり、そこかしこに深い穴を穿つ。

 ヒヨリは瓦礫に降り立ち、蒼い瞳で煙幕に包まれたアルジャーノンの影を凝視した。

 視界の中で、アルジャーノンのモノアイが妖しく緑光を放つ。

 やがて煙が晴れ、彼の背後に現れたのは――まるで夜空の星々を思わせる、無数の砲口だった。大小さまざま、形状も異なるそれらは壁のごとく立ち並び、いっせいに光線を放つ。狙いはただひとり、無論ヒヨリだ。

 金髪の少年は拳を握りしめ、身を低く構える。

 赤い炎が指先から螺旋を描き、背後に咲き誇るような光芒を生んだ。

 心臓が脈打ち、全身が熱に震える。だが恐怖は微塵もない。

 ……ああ、こんな気持ちは初めてだ。生まれてきて良かったと思えるのは――

 両掌を前へと突き出す。瞬間、背後から巨大な火蓮が花開いた。渦巻く花弁はすべての光束を呑み込み、なおも飢えた獣のように前方を焼き尽くそうと迫る。

 アルジャーノンは防御するが、高熱はそれすら容易く貫く。金属も、大気も、ハタさえも燃え尽くすかのような猛火――。

「あり得ぬ……こんな理を外れた力が……!」

 紅蓮がアルジャーノンの機体を丸ごと呑み込み、その影を一瞬で消し去った。

 やがて炎は天へと昇り、跡には黒焦げの廃墟だけが残された。

「はぁ……はぁ……」

 荒く息をつくヒヨリの目の前には、地面に突き立った管の切れ端が残るのみ。

 だが次の瞬間、彼の足元を取り囲むように砲口が出現する。

「……っ!?」

 跳び退ろうとした刹那、足首が金属に掴まれ動けない。数十の砲口が緑光を帯び、狙いを定める。

審判(トライアル)

 漆黒の雷が炸裂し、ヒヨリを包囲していた砲口を一瞬で粉砕した。

 金属片は空中で粒子化し、四散していく。

「ついに本来の姿すら捨てたか、スクラップ」

 フクロが歩み寄ってくる。抜き放った刀に黒雷が絡みつけていた。

「フクロ!何を……!」

「遅すぎるんだよお前は」

 冷たい赤瞳が、ヒヨリを一瞥する。

【……やっかいなトランスグレッサーめ】

 アルジャーノンの声が、散った粒子の群れから響き渡った。方向は全く掴めない。

【我らの計画を邪魔して、何の得がある】

「ふざけるな!お前みたいなやつ――」

「ヒヨリ、黙れ。こいつもこれしか吠えない」

【……ボクを見下すとは、随分の自惚れだな】

「笑わせる。まさか自分の方が上だっと思っても、鉄屑の分際が?」

 フクロの挑発に、粒子群が大きく揺らぐ。

【ボクは、根印(ねしるし)持つ者に劣ることなど断じてない。ボクは、根印(ねしるし)持つ者を超えた存在だ。本来ならノアの箱船を巻き込むつもりはなかったが――ここで、きみたちを抹殺する必要がある】

 アルジャーノンの周囲に無数の粒子が浮かび上がる。緑色の閃光を帯びた粒子群は激しい電流音を撒き散らしながら空間を侵食し、やがて蛇のように絡み合って巨大な奔流へと変貌した。圧縮された熱量とエネルギーが暴走寸前まで高まり、次の瞬間、白緑の閃光が視界を焼き潰す。

 轟音とともに解き放たれた電流の濁流は、通過した床材を一瞬で融解させ、灼熱の破片を撒き散らしながら一直線に襲いかかった。遅れて衝撃波が叩きつけられ、周囲の壁面が軋みを上げる。

 だが、その暴威を前にしてもフクロだけは一歩も退かなかった。

 紅い瞳を静かに細め、刀を構える。そして地を踏み鳴らした刹那、大地から漆黒の雷が噴き上がる。黒雷は咆哮のような轟きを響かせながら刀の切っ先へ収束し、周囲の光を喰らうように膨れ上がっていった。

「プラズマ・インパクト」

 低い声とともに、黒雷が蒼へ染まる。

 次の瞬間、巨大な雷渦が奔流へ正面から激突した。空間が震え、雷鳴が幾重にも重なり合う。緑の電流は暴れ狂い、火花の嵐を撒き散らしながら周囲を削り取っていくが、蒼黒の雷はそれすら呑み込み始めていた。

【な……っ!?】

 押し返されているのではない。捕食……いや、破壊されているのだ。

 緑の電流そのものを喰らいながら、黒雷はさらに膨張していく。

「未知を前になお慢心したその代償を払えよ、道具のくせに」

 フクロが一歩踏み出した瞬間、雷鳴が爆発的に膨れ上がる。無数の雷槍がアルジャーノンへ降り注ぎ、その身体を次々と貫いた。

【ァ゛――ッ!!】

 絶叫。制御を失った粒子が四散する。それでもアルジャーノンはなお出力を上げ、暴走しかけたエネルギーで周囲ごと焼き払おうとした。

 だが、遅い。

「ここがお前の終末だ」

 刀が振り下ろされる。

 その一閃と同時に、蒼黒の雷渦がアルジャーノンを完全に呑み込んだ。凄まじい爆裂音が響き渡り、衝撃で大地がめくれ上がる。暴走した粒子は雷の中で引き裂かれ、圧縮され、最後には細片すら残さず消滅した。

 荒れ狂っていた雷が静かに消え去った後に残ったのは、焦げ付いた大地と、焼けた空気だけだった。

 カチリ、と音を立て、フクロは刀を鞘へ収める。無言のまま、ヒヨリの脇を通り過ぎた。

「……こんなに強い力を持っているなら、さっさと使えよ」

 ヒヨリの問いかけに、フクロは一度だけ足を止める。

「あいつにも、お前にも、より明白な差を示す必要があったからわざわざ待ってた、それだけだ。ご苦労だな」

 ヒヨリは拳を固く握り締め、爪が食い込む痛みを感じた。

「お前っ……!」

 ヒヨリが声を荒げたそのとき――右上空にある巨人の頭部で、ガラスが砕け散った。

 中から飛び出した見知らぬ遺産(ヘリテージ)一体が、血族の拠点へと向かっていく。

「……まずい!エリィたちが!」

 ヒヨリが走り出すが、高低差が邪魔をして追いつけない。

「安心して、ヒヨリ。ロビイは護るために行ったんだ」

 聞き覚えのある声に顔を上げると、フランケンシュタインが空から舞い降りてきた。

「フラン!無事だったんだな!他のみんなは?」

「ハルカはまだ見つからない。ヴラドは……今は無事だ。アルジャーノンは?」

「倒した」

 フクロが代わりに答えた。

 フランケンシュタインは周囲をスキャンするが、何も残骸は見つからない。

「探すのも無駄だ。残骸すら残っていない」

 言葉を聞いた瞬間、フランケンシュタインは動きを止め、静かに目を閉じた。

 機械仕掛けの顔に、ほんのわずか――まるで悲哀の色が宿っていた。

「……そうですか」

「で?そっちは何があったか」

「……少し時間を、すべてを話します」


 空中を飛ぶ赤いロボットは鋼鉄の巨人の周りを旋回し、心臓部――ゴフェルを収めた部屋へ戻った。

 その大きな動きに、ネモは状況を確認しに外へ出る。天空城は地上に降り、現在の形に変形していた。

 意識を失ったリリスを見上げ、ネモは全力で攻撃すればゴフェルを破壊できるが、それじゃあリリスも傷つく。自分一人では安全に連れ出せない。

「ドンッ!」

「カンッ!」

 ネモが他の手段を探そうとしたその時、天井の丸い通路口から何かが落ち、ゴフェルのそばに着地した。

「……レイチェル……?」

 落ちてきたのはほとんど廃棄寸前のロボット。しかも血まみれのソロを連れてきた。

「ソロ……?」

「ここまで戦いが進んだのなら、この状況もあり得るでしょう」

 レイチェルはソロの死体を軽く置いた。そしてゆっくりと、ゴフェルの背後の操作台に向かい、残った一つの手で画面を操作する。

 電線を引き出し、レイチェル自身の擬似根印(ねしるし)に挿し込む。

「何をするつもりだ、レイチェル」

「最初に作られたきみに質問がある、ネモ」

 青い微弱な電流が瞬き、進捗ゲージが画面に表示される。

「きみにとって、ルークとソロとは何か」

 ピッと進捗バーが完了し、画面は消えた。

「ソロの偉業は、何ものにも勝る。彼のやりたいことは、私が叶える」


「エリィ!どうした、何が起きた!」

 セトが高所の防護岩上へと叫ぶ。

 エリザベスは、手の震え、全身の戦慄が止まらない。

「巨人が……動き始めた……」


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