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プロジェクト【サハ】  作者: 諸星佑月
【第一章】箱船は終末から

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人形同士

「はぁ……」

「何だよカイン、大人みたいにため息ついて」

「ヴラドはいつも考えなしに余計なことを引き受ける。そんなじゃ、損するぞ」

 山のように積み上げられた荷物を見て、少年はさらに頭を抱えたが、青黒い髪の少年はまたひと袋担ぎ上げた。

「別にお前が一緒にやる必要はないんだ。疲れたなら先に戻っていいよ」

「嫌だ。君に負けるなんてまっぴらだ。それに、一人でやらせておくのも嫌だしな」

 ヴラドは嬉しそうに笑ったが、口を開こうとした瞬間、カインはすぐに手で彼の口を塞いだ。

「ありがとうなんて言うなよ。僕が手伝うのは条件付きだ」

「条件?」

「それはな――これから、そして君が族長になった後も、僕が手伝わせるってことさ。その席、お預けだよ」

 ヴラドはきょとんとしたあと、数秒考えて、ふっと吹き出した。

「なんだよお前、損するなんて言っといて、自分も損する気満々じゃない!」

「僕はヴラドより頭がいいから、僕が見張らないと、ヴラドだけじゃなく全員損するに決まってる」

「この……よく言うな!くらえ!」

「うわっ!痒いところ触んな!」


 一夜が明け、すでに朝になっていた。

 道では血族たちが行き交い、働き始めている。どんな時でも、どんな大事が起きても、彼らは手を止めることはできない。働かなければ何も得られず、止まれば一族全体が被害を受けるのだから。

 訓練場では、すでにヒヨリとエリザベスが来ていた。

 エリザベスは厳かに顔を上げ、少年へ告げる。

「やはり、これはまったく咲血(サンジェ)じゃないわね」

「そんな?!本当に違うのか?俺はちゃんとエリィの教えた通りにやったんだぞ?」

「でも、悪くないじゃない。多分これは、あなただけの能力よ。名前でもつけてみる?」

 その一言に、少年はあっさり気を取られた。

「マジか!名前……じゃあ絶対カッコいいやつにする!フクロに負けないほどの!」

「おいーー朝から頑張ってんな!」

 元気な声とともに、ハルカが手を振ってこちらへやってきた。

「ハルカ!お前、もう大丈夫なのか?」

 包帯や湿布だらけの体で元気いっぱいに走ってくる彼女を見て、ホッとするが心配だ。

「ふっかーーーーつだよ!舐めないてね。セトが大げさすぎるのよ。あ、フクロは?」

「見てないよ。多分外に行ったか」

 エリザベスそれを聞いて頭を抱えた。

「もう……いくらいま外はそんなに危険じゃないとしても、無闇に出ないてほしんだけど……」


 手術室では、セトがハルカの姿がないことに気づき、慌てて外を見回していた。

「ハルカを探しているのなら、体を動けるとすぐ退屈だっとか言って回りに行った」

 振り返ると、声を発したのは部屋の隅で鎖に繋がれているネモだった。

「まったくあの小娘は……!」

 セトは頭をかき、ため息をつくと、再び手術室に戻ってドアを閉めた。そしてそこに縛られている機械人形に問いかける。

「……ネモ、だっけ?なぜまったく抵抗しない?」

 少年の姿をした赤髪の機械は、ゆっくり顔を上げて彼を見た。

「ソロとの接続は繋がっていない。命令がない。必要もない」

「あんた、遺産(ヘリテージ)の中で一番の戦闘型だろう」

「事実だ」

「ならば、敵陣に捕まるなどいけない、という常識すら持っていないのか?それとも……大人しそうに見えて、実は情報を探りに来たのか?こんな簡単にあんたを捕まえたなんて、順調すぎる」

 ネモは俯いたまま答えようとしない。

「――まっ、もうフランがハッキングとかあんたにやったし、オレが考え過ぎたといいが」

「……オレは、ただ命令がないから、行動を取らないと思うが」

「どうだろうな、あんた……」

 セトが口を開こうとしたその時、ドアが勢いよく開いた。

「ただいま……あっ」

 ハルカが元気よく入ってきて、セトの顔を見た途端に言葉を詰まらせる。セトは黒い顔で歩み寄り、彼女の頭をわし掴みにした。

「なーーにがただいまだ!よくも帰ってくる度胸があるな小娘!」

「いたたたたっ……!」

 ぐいぐいと力を込められ、ハルカは悲鳴を上げる。

「でももう大丈夫だって!熱も下げだし!傷も昔と比べりゃなんともないし!ほら、セト見て!」

 ぴょんぴょん跳ねて元気さをアピールする少女に、セトは呆れ果ててため息をついた。

「……少なくとも三日間は無茶するな。毎日必ず薬を替えに来い」

「はーい!」

「それと――今日はヴラドに会ったか?何か任されてはいないだろうな、その傷じゃ」

「ないよ。でもエリザベスが、ヴラドとフランが何かやってるみたいって。次の作戦とか、特訓とか……いいなぁ、私もなんかやりたい……」

「なら任務をやろう」

 セトは部屋の隅のネモを指さした。

「こいつを連れて、拠点の中を案内しろ」

「えぇっ?なんで?」

「どうせ動き回るつもりなら、ついでにこいつを監視しろ」

 ハルカはよく分からないながらも頷き、了承した。


 ――シュッ。

 鋭い斬撃。眼前の怪物は悲鳴を上げる間もなく命を絶えた。

 血族の人に頼んで刀を収める鞘を作ってもらい、今はこうしてその切れ味を試している。フクロはゆっくりと刀を鞘に収め、その手際はあまりに自然で、かつて自分も刀剣を扱うことに長けていたのだと推測させた。

 ウイルスを宿す危険な残刻器(ざんこっき)。しかし処分方法がなく、ヴラドに託されてフクロが扱うことになったのだ。把握するには、まだ鍛錬が要ると感じていた。

 血族の拠点では試せないため、わざわざ外に出てきた。だがそろそろ正午も過ぎ、帰ろうと歩き出す。

 ――ずっと胸に残る、断片的な記憶。

「ドミネーター……」

 確かに、この知らない言葉はあった。

「あれは一体……そういえば、宇宙に余命わずかって言ったが、聞くのを見逃したな」

 考えを巡らせていたフクロは、不意に何かにぶつかった。

 ガンッ。全身に警戒心が走る。すぐに刀に手をかけ、飛び退きながら、目の前を見据えた。

 そこにいたのは――女性の形をしている純白の機械と、その背後に控える巨大な人形。

 機械でありながら雪白のドレスをまとい、両手には鉄製の小人を抱えている。それはどこか可愛らしい、金髪で青いドレスを着た鋼の小人だった。

 だが背後の巨大のほうは異様だ。

 くすんだ深紅のドレスをまとい、乱れた赤黒の長髪に傾いた鉄の王冠。真っ白な大きな顔には、電球のようにぎょろりと見開いた片目と、雑に縫い合わされたもう片目。歪んだ笑みが顔に刻まれ、瞳はフクロを射抜いていた。背筋が寒くなる。

「……人形」

 驚くべきことに、白い機械の女性が口を開いた。彼女は片手をまっすぐフクロへ向ける。

「アリスに、似ています」

 フクロには意味が分からない。緊張が増し、刀を握る手に力がこもる。

「……違う」

 機械は手を下ろし、静かに彼の横を通り過ぎていった。

 抜きかけた刀を構えたまま、フクロは振り返り、機械を睨む。

「アリスよりも、哀れですね」

 幽かな声が黒い森に漂う。

 やがて姿が完全に消えるまで、フクロは刀を握り続けていた。

 赤い瞳が未知の存在の去った方向を見つめ、不吉な予感だけが頭を満たしていく。

「……あれは、何だ……?」


「おや?ハルカの嬢ちゃんと……えっと……」

 一人と一体の機械が、新しく建てられた建物の方へやってきた。

 ちょうど屋根の点検を終えて梯子から降りてきた作業員が彼らを見かけた。噂には聞いていたが、血族たちはまだネモの存在に慣れてはいなかった。

「おーっす!おっさんたち!相変わらず忙しそうだなー!代わりに私がやろうか?」

 そう言われると、逆に彼らはムキになった。

「やるなぁ、小娘!包帯だらけで自信満々じゃねえか」

「俺たちはまだお前に負ける歳じゃないぞ!そこで見てろ!」

 ネモは、ハルカが一瞬で血族たちと打ち解けてしまう様子を見つめていた。

 さらに田畑、浴場、見張り台などを回った。相変わらず灰色がかった空だったが、ここではそれも良い天気と呼べるほどだった。

 黒い葉を揺らす木々の間を風が吹き抜け、葉は舞うように遠くへ飛んでいく。子供たちは道を駆け回り、大人たちは作業の合間に笑顔で「気をつけて」と声をかける。道中ではエリザベスにも挨拶をしたが、依然にヴラドには会わなかった。

 ネモはどこへ行っても目を引いた。大柄な体を鎖で縛られ、まるでハルカに犬のように引かれて歩いている。

「……きみたちは、こうして生きるものなのか」

 耕す者、運ぶ者、守る者――労働し、収穫し、助け合う。

 誰もが共同体のために、そして自分自身のために努力していた。食糧不足、人手不足、劣悪な環境、恐ろしい外界。

 それでもここにいる人々は確かに、明日への希望を抱いて生きていた。

「なぜだ。満足に食べることすらできないのに、なぜこんな生き方を続ける?理解できない」

 ハルカは拳を振り下ろし、ネモの額に「ガンッ」と音を立ててぶつけた。もちろんこの拳に力がそんなにない、ネモは全く動じず、ぽかんと彼女を見返す。

「どういう意味?死んだほうがマシなんて言いたいの?」

 ネモは首を傾げた。

「何も心配せずに生きていける人なんているわけないでしょ!死ぬなんて、生きると比べて簡単すぎる、だから生きたほうがかっこいいもん!」

 自信に満ち、傲慢ともいえる笑顔が、ネモの瞳に映った。

「……たとえ、どう足掻いても、かならずその先に死が待っていてもか」

「うん!だって、もうちゃんと活きたからな!」

 後ろ手に縛られたネモの拳は、わずかに握りしめられた。ロボットはハルカに返答せず、目を閉じた。

「ハルカ」

 声に振り向くと、ちょうど帰ってきたフクロが駆け寄ってくる。

「お、フクロじゃん!」

「ヴラドは?急用があるんだ」


 フクロが戻った時、ヴラドが作戦会議を開こうとして皆を集めたところだった。

「白い、抱き人形を持ったロボットと、赤い大きなロボット?」

 フランケンシュタインはフクロの説明を繰り返し、首を振った。

「いや、天空城にそんな型は存在しません」

「だが確かに見たんだ。どこへ行ったのかは分からないが……」

「仕方ない。とにかく、敵は天空城だけじゃないかもしれないと、警戒しておこう。次に正式に作戦を決める、目標はリリスとカインの奪還だ。ここにいる遺産(ヘリテージ)二体を除いて、上にいる敵はあと三体」

 ヴラドは深呼吸し、続きを発言する。

「まず、アルジャーノン。奴の厄介なところは、天空城のどの部分も自在に識転でき、瞬時にあらゆる形へと変えること。演算能力も極めて高い、間違いなく最大の脅威だ。残り二体は、ロビイとレイチェルだ。ロビイの能力は遺産(ヘリテージ)中最強の防御、戦うと消耗戦になる。レイチェルは優秀な偵察機で、クローバーたちの情報中枢だが、幸い戦闘型ではない」

 エリザベスの話では、ヒヨリも戦力になれるので、今回は連れていく。

 リリスとカインは研究所区域にいる可能性が高い。今回は分散せず全員で行動する。

 ヴラドはフランケンシュタインにネモを制御させ、人質として連れて行くことにする。戦闘になれば、アルジャーノンはヒヨリとフクロ、レイチェルはハルカ、ロビイは自分が相手をする。

「それから……俺とフランで、ソロ・エターニティがリリスを捕えようとする目的を少し分析してみた。四十年前、奴はゴフェルと呼ばれるハタ収集装置を作り上げ、さらにアルジャーノンに異常な識転能力を持たせた。最悪の、そして最もあり得る結論は――」

「――天空城全体を膨大なハタで稼働させるために、優秀な根印(ねしるし)が必要の故、リリスが、選ばれてしまった」

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