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プロジェクト【サハ】  作者: 諸星佑月
【第一章】箱船は終末から

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最強と最強

 周囲の兵が壊滅しても、アルジャーノンは一瞥しただけで驚く素振りも見せなかった。ただ冷静に浮かび続けている。

「……先ほどの行動により、脅威と判定。判断を変更する。フランケンシュタイン含め、共同で破壊処理に移行」

 アルジャーノンは右手をゆっくりとヴラドに向けた。

 その瞬間、フランケンシュタインが危険を察知し、背後からヴラドを抱え込んで跳び出す。

「おい!何を……」

「逃げて!」

 背に三枚の翼が展開し、二人を宙へ舞い上げる。ほとんど同時に、足元の地面が凄まじい勢いで隆起し、危うく直撃するところだった。

 ヴラドが状況を理解する間もなく、アルジャーノンは再び手を振る。隆起した地面はまるで命を持つ蛇のように歪み、先端が変形を始めた。

 次の瞬間、それは巨大な砲口へと姿を変え、こちらへとねじ曲がりながら狙いを定める。砲口の奥に白光が集束し、鋭い音と共に閃光が放たれた。

 フランケンシュタインは必死に回避を繰り返す。背後から追尾してくる光線は、熱と轟音を伴い、逃れられぬかのように追いすがった。

「ちっ……降りろ、フランケンシュタイン!地上の建物群に潜り込め!やつが余計な破壊をしたくないと言った、隠ればやつも手出しにくい!」

「はい!」

 ロボットは即座に降下し、密集した建造物の中へと身を隠す。

 光線の射撃は止んだ。アルジャーノンが左手を横に振ると、砲口はゆっくりと霧散し、地面も元の姿へと戻っていった。

 緑に光るモノアイが、二人が消えた方角を冷たく見据える。

 建物の間に降り立ったヴラドは、監視のない死角を見つけて身を隠し、空を見上げた。追撃してこないのを確認して息を吐く。

「……あいつ、何者だ」

 フランケンシュタインは翼を畳みながら答える。

「アルジャーノン。遺産(ヘリテージ)の中で最も演算能力に優れる一体です。天空城の状況を完全に把握しています。さらに、城のあらゆる部分をハタ粒子に分解し、再構成することーーつまり識転可能……戦闘機ではないが、最も厄介な存在です」

 ヴラドは眉をひそめて問う。

「じゃあ、カインやハルカもすでに見つかっているのか?」

「可能性は95.54%以上です。おそらくアルジャーノンは他の遺産(ヘリテージ)を差し向けています」

「ちっ……」

 ヴラドは壁を拳で叩きつけた。

 そうなると、二人のうち誰かが本格的な戦闘機型に襲われるかもしれない。合流できる前に倒れてしまう恐れすらある。

 自分に回されたのがアルジャーノンである以上、決して勝てないとは思わない。しかし空中戦を強いられるのはあまりに不利だ。

「……ヴラド。アルジャーノンが飛べなければっと思っていますね」

 ヴラドは驚いて振り返る。

「不可能ではありません。もし捕らえることができれば、戦闘中に飛行を封じることは可能です。ただし……」

「……ただし、接近する機会を作る必要があるわけだな」

 フランケンシュタインは一拍置き、うなずいた。

「そうです」

 ヴラドは再び空を仰ぐ。距離はあるが、すでにアルジャーノンの姿は視界に入っていた。

「なら、試そう。フランケンシュタイン、協力できるか」

「承知しました、お任せください」


 紫髪の少女はもともと体格も小さく、ある日を境に成長が止まってしまったため、リリスを引っ張って門の外まで走り、橋を渡り始めたものの、もう疲れが出てしまった。

 外は相変わらず濃い霧に覆われ、どのくらい走れば向こう側に着くのか、まったく見えなかった。

「あの……!」

 リリスは心配そうに振り返り

「ハルカ姉さんを、本当に置いていいの?」

「……私だってわからないわ。あのネモっていうロボット、遺産(ヘリテージ)の中で、本当の戦闘機体で、一番強いみたいだけど……」

「えっ?!それってすごく危ないじゃ……」

「ドーン!」

 言葉を言い終える前に、二人の前方で轟音が響き、灰塵が舞い上がった。少女は慌てて立ち止まり、リリスを引き寄せて背後に隠れ、煙が消えるまで見守った。

 二人は口を大きく開け、ハルカを見つめた。彼女はすっぽりと道の穴中に埋まっていたが、なんとか体を支えて起き上がろうとしていた。

「……あなた……!」

「抵抗しない方がいい」

 ハルカの前に現れたのは、ネモだった。

「やるな……」

 ハルカは穴の中から立ち上がり、右手で左肩を揉んだ。

「いままではルキウスにしか負けたことないんだけど、出ててよかったよ。やっぱり宇宙が広い」

「いまの出力はまだ50%も出してない。抵抗をやめな。オレの任務はきみをここから追い払うことだけ。直接下へ送り届けるのも許容範囲だ」

「さっきも言っただろ!断る!私こそ三割の本気でもまかったからな!さあ来い!」

 ネモは頭を下げ、一気にこちらへ突進してきた。

 右の鋼の拳が額に向かって振り下ろされ、ハルカはそのまま倒れて回避した。両手を地面につけ、躊躇なく倒立の姿勢を取る。ネモの拳は空を切り、そのまま前に突っ込む。その瞬間、ハルカは右膝の内側でちょうど彼の頭を引っかけ、次の瞬間、ネモは地面に激しく叩きつけられた。

 しかし、事はそんなに簡単ではなかった。

 ネモの顔は地面についたが、ハルカのこと見えないはずなのに、右手が突然伸び、ハルカの手首を掴んで地面に押さえつけたまま、無情にも前方へ投げ飛ばした。

 少女は地面に何度もぶつかり、三度の衝撃音を立て、ようやく転がって止まった。

「……なによ……」

 リリスは声を聞いて顔を上げ、何か呟く少女を見た。

 ジジッと電流音が響き、ネモも立ち上がった。

 立ち上がった瞬間、視界にハルカが一瞬で戻ってくる。さっきの攻撃を受けたにもかかわらず、この速度。ネモは反応する間もなく、ハルカの拳をまともに受けた。

 鈍い衝撃音が橋の上に響く。

 力はかなり強い。ネモの頭の中でそう判断された。もし彼女が第一空間(ファースト)の住人でなく、根印(ねしるし)持つ者なら状況は大きく変わるだろう。

 惜しい。ネモはハルカの手首を掴み、再び地面に叩きつけた。鋼鉄の床は歪み、耳が痛くなる鋭い音を立てた。

 リリスは震えを止められなかった。声を出そうとしても、まったく出せない。走って助けに行こうとしても、足が動かない。

 ネモの青い瞳が突然光った。地面に半身埋まったハルカが足を横に振り、自分の重心を奪おうとする。ネモは敏感にその動きを察知し、後方に跳び退いて距離を取った。

 ツインテールの少女は両手で地面を押し、体を引き上げる。前よりもさらに埃と傷が増えていたが、再び立ち上がり、変形した床を蹴飛ばした。

 ハルカは逆に笑っていた。顔の血をさっと拭いながら。

「そうこなくっちゃな。続け……」

「いい加減にして!」

 二人は突然の叫び声に遮られた。

 リリスは彼女の声に驚き、かえって恐怖が消えた。

 紫髪の少女の肩は、震えが止まらない。

「……何してるのよ、根印(ねしるし)もないくせに!全然勝てない相手じゃない!」

「は?あんた……」

「勝てない敵に何を頑張ってるの!誰も勝たせようとなんてしてないのに……死ぬわよ!」

「うるさい!何様なんだよあんたは!見てるだけのくせに何がわかる!」

「見れば分かるでしょ!あなたもうボロボロじゃない!」

「そんなんで勝ち負けを決めつけるな!やられたなんて、傷ついたなんて言い訳だけだ!勝ちたいってどこまでも思っている以上、決して負けじゃない!」

 ハルカは振り返らず、ネモの方へ進む。

「怖いなら横に行ってろ、リリスを連れて逃げな」

 その言葉は、少女の心を突いた。

 遠い昔、必死に忘れたい言葉を呼び覚ました。


「逃げなさいよ。君の程度の識転なら、ブリットンスを避けるくらいは造作もないだろう?」

「ふざ……けないて……私は残る!逃げるもんか……!」

「うわぁ、図々しい。振られたってまだわかんないのか?」

「……違う……」

「ねえ知ってる?僕はね、最初から君のことが大嫌いだ」

「……」

「だって君は憎たらしいからね。いつも愛されてる君が憎い。だから孤独にしてやりたいんだよ。世界から切り離される絶望を、君にも味わわせてやりたいんだ」

「……そんな……」

「心配いらないさ!無価値な役立たずでも、臆病者でも、逃げば恐れる必要なんてなくなるんだよ。だーれも君のこと知らないところに行けば、すべてただの悪夢さ、そして悪夢ならば、ただ忘ればいい、簡単だろう?」

「……」

「さあ、逃げな。そして二度と、帰ってくるなよ」


「ぐっ……!くそっ……まだだ!」

 ハルカが再び二人の目の前に叩きつけられた。身体の傷は増え、服も至る所で裂けていた。それでも彼女は素早く立ち上がり、再びネモへと突っ込んでいく。

 やはりこんなの理解できない。ハルカが何を言おうと、この一方的な戦況を覆すことはできないのは、紛れもなく事実だ。それでも彼女は倒れては立ち上がり、また倒れては立ち上がる。

 何度も、何度も。傷だらけでも、勝ち目なんか知らなくっても。

 その姿がまるで、自分に問いかけているのようだ。

 あんたは、一度でもこんな風に生きたことはあるか、と。

「……リリス」

「な、なに……?」

「この橋をまっすぐ行けば、別の区域に着く。そこにきっと、あなたを助けてくれる人がいる。一人で行ける?」

 リリスは驚いて、ためらった末に、真剣にうなずいた。そして迷いを振り切るように一人で走り出す。小さな背中はすぐに濃霧に飲まれ、足音だけが遠ざかっていった。

 ネモがまたハルカを吹き飛ばし、地面に激しく叩きつけられた。

「……逃げれば、どんな痛みだって味わわずに済んだのに」

 背後から近づいてくる少女の言葉に、ハルカは怒りながら振り返った。

「あんた、まだ……ん?リリスは?」

「一人で行かせた。私は、ちゃんと残るから」

「あ?」

 少女は地に伏すハルカの傍に立った。

「……助けてくれた時はごめんなさい。もう一度、あなたの名前を教えてくれるか?」

「……ハルカ」

 少女は複雑な表情で彼女を見つめ、目を閉じ深く息を吸った。

「手を組もう、ハルカ」

「は?組む?あんたと?何するつもりだよ」

「私は……残刻器(ざんこっき)よ。今は人の姿だが、私は武器になれる」

「え……?」

「本気でここから出ようとしているな」

 ロボットは攻撃するつもりはない。本当にただ人を送り出したいだけで、無闇に武力を使わないようだ。

「前にきみの発言とは、不一致な行動だ」

「……私はあなたたちロボットじゃないから、バカなことを知ってもなお、一回ぐらいするさ」

「……」

 珍しくネモの思考時間が長い。

「愚かなことだと知ってもするのか。不可解だ。なぜ」

「私だってわかんないのよ!こんなバカにうつったと思え!」

「目の前で悪口言うのかよ!殴るぞチビ!」

 隣のハルカは思わず叫んでしまった。

 ネモは、間をおいて、そしてハルカの発言も無視して言葉を発した。

「……そう。ソロが、きみはかなり強い、高い研究価値があるから、なるべく傷つくなと……」

「違う。強いじゃない」

 少女は決意をして反論した。

「私は、宇宙で最強の残刻器(ざんこっき)、名前は、アルテミス!」

 そうだ。その一点だけは、揺るぎない真実だった。

「ハルカ、あなたが私の代わりに戦うんだ」

「はあ?あんた手を組むの意味を……」

「同時に、私はあなたの剣であり、盾もあり、鎧でもあり。あなたにできないことは私が補い、私にできないことはあなたが手伝う。それが、手を組む条件で、約束だ。できないなら、それでお終い」

 紫髪の少女、アルテミスは、澄んだ瞳でハルカを見つめる。

 ハルカは予想外の言葉に呆気にとられたが、ネモの様子を横目で伺う。攻め込む気はなく、言った通り追い払うだけらしい。リリスが逃げたのに追わないのは、ヴラドやカイン側にも何かあったのだろう。

 ここで躊躇っている場合じゃない。

「……いいだろう、乗った」

 アルテミスはゆっくりとうなずき、体から淡い紫の光を放ち始めた。全身が目に見える速度で粒子化し、頭部も髪も四肢も次々と消えていく。

擬録(ディスガイス)

 どこからともなく声が響き、粒子は意思を持つように舞い上がり、ハルカの身体を包み込む。

 銀色の粒子がハルカの手足や背にまとわりつき、やがて形を固定する。

 それは、白い機械装甲。接合部には黄金の光が流れ、肘までを覆う手甲、大腿までを覆う脚甲、そして背には六枚の金翼が展開した。

 あまりにも似ている。あの遺産(ヘリテージ)たちの構造と。

 ネモの瞳にある歯車も強烈に回っている。

「うわぁ……!」

 ハルカの瞳は輝き、背後や全身を何度も見直す。

「なんだこれ、超カッコいいじゃん!」

【ふん、当然だ。こんなの、私にとって余裕さ】

「うわっ、喋った?!どこにいるんだよ!」

【私だけの特別な識転さ。物体を不可視のエネルギー粒子に変換するのは、根印(ねしるし)持つ者が残刻器(ざんこっき)を隠すのによく使う技だ。でも私は、私の身体全ては自由に再構成できる。今あなたが纏っているの装備は……ちょっと、聞いてるの?!】

「すごい、マジかっけぇ!なぁなぁ他には?まだあるだろう?全部見せて……」

「ドンッ!」

 言い終える前に、ネモの拳が迫る。もう少しで頭を直撃するところだった。

【敵に集中して、このバカ!もうあなたと組むのを後悔するところだよ!】

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