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プロジェクト【サハ】  作者: 諸星佑月
【第一章】箱船は終末から

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14/28

天空城へ

「全システム正常。ハルカとカインは、ヴラドのように直接コントロールしていないため、無闇な動きをしないてください。元々他人にまで飛ばせる設計ではありませんので」

「おう!」

「わかった」

「ではこれより、発進します」

 エンジン音が大きくなり、光翼に奇妙な紋様が現れ、一気に加速した。

 三人は突然の無重力と気流に目を閉じてしまい、しばらくして感覚が慣れると、自分たちが空にいることに気づいた。

 振り返ると、下にはもうブルーハー血族の拠点全体が見えていた。

 走る小道、人々が見上げて手を振っているのも見える。さらに上空へ進むと、黒と赤の植生が拡がり、もう拠点の中は見えなくなった。

 ハルカは、ここに来てから一番興奮した。

「すっっっげえな!飛んでる!」

「……本当に飛んでるんだ……」

 ヴラドは、思わず言葉を失うほど感動していた。フランケンシュタインもゆっくりとスピードを操縦し天空城を目指す。

 ハルカははしゃぎで、推進器の操作はフランケンシュタインに任せつつも、まるで翼が自分のもののように、腕を広げて風に乗っているようだった。

「……無闇に動かないほうがいいじゃなかったか?」

 ヴラドが思わず尋ねた。

「不思議ですね……なぜハルカはあんなに動けるのでしょうか」

「いやだからお前に聞いてんだが」

「多分、ハルカの方が普通じゃないと思うよ、ヴラド」

 カインは代わりに推測を出した。

「僕は、あんな風に飛ぶところか、すこしだけ動くと、バランスが崩れそうだ」

「普通そうなるはずです。高空ではかなり危ないので注意しましたが……彼女もまた、独特なところがありそうですね」

「そうか」

 ヴラドは息をし、話題を変えた。

「フランケンシュタイン、天空城の警戒状況は?」

「いまのスペードと違って、巡回警備用の機械兵団クローバーが、常に街中を警備しています」

「回避は?」

「可能です。正面から戦っても勝機はあります。最も問題なのは、私と同じ遺産(ヘリテージ)シリーズの他機体です」

「お前と同じタイプのやつか?何体いる?」

「私を除いて、あと四体です。私は非戦闘型ですが、戦闘に特化している機体が存在します」

「へーっ、本当?」

 ハルカが空中で近寄ってくる。

「そいつら、強いのか、フラン?」

「強いです。現在、天空城にある武装の中で最高レベルの戦闘力、最も進化した戦術を備えています。侮る訳にはいけません」

 逆にハルカはそれを聞いて笑った。

「そうこなくっちゃ!もし出てきたら私に任せて!」

 ヴラドは、フクロの苦労が少し分かった気がした。

 フランケンシュタインは非常に速く、天空城はもうすぐ目と鼻の先だった。天空城は全部で四つの区域に分かれていたが、リリスがどこに連れて行かれたのかまだ不明だったため、まずは中央にある最も大きな区域へと向かうことにした。フランケンシュタインは外縁部からこっそりと城へと飛び上がった。

 今まで地上からは、暗くて重々しい底面しか見えなかった天空城。その全貌をようやく目にすることができた。

 一面、鋼鉄の建物ばかり。大小さまざまな奇怪な形の構造物が陰を落とすように林立し、両脇にはブリキ屋根の小屋が並んでいた。道路もすべて鉄で舗装されており、意外にも整然としていて、顔が映るほどの光沢がある。遠くには風車のような建物が回転している高層ビルが見え、その中でも最も高い尖塔のような建物は、何の用途か分からないまま、霧に包まれてそびえていた。ハルカからは、その影だけがかすかに見える程度だった。他の三つの区域も、遠くからぼんやりと眺めるしかなかった。

 フランケンシュタインは三人をゆっくりと降ろし、地面に着地すると同時に、二人の背中の推進装置もいつの間にか消えていた。

「これ本当面白いな、なんで出たり消えたりできるの?」

()()です。物体を肉眼では見えないハタ粒子へと変換し、それを再構築する技です。無から現れて、また消えるように見えますが、実際は常に周囲に存在しています」

 フランケンシュタインは城へ向けた。

「今いる場所は研究所区域です。他の三つは、それぞれ武器製造区、居住・養殖区、そして廃棄物処理区です」

 カインは周囲を見渡して、ロボットの言う三つの区域の位置を確認すると、振り返ってこう提案した。

「じゃあ、手分けして行動しよう。ちょうど四人いるしな」

 上空の気温は極めて低く、彼らが話しているあいだにも冷たい霧が吹き寄せてきて、先ほどまでかろうじて見えていた建物の影がすっかり見えなくなった。

「……駄目だ、カイン」

 珍しく、ヴラドがカインの意見に反対した。彼はフランケンシュタインを指さしながら言う。

「効率はちょっと下がるが、こいつだけで行かせるのは不安だ。俺が見張っておく」

 カインは少し驚いたが、それでもはヴラドの意見に同意した。そして相談の末、三人がそれぞれ別の区域へ向かい、最終的に研究所区域で再集合することに決まった。

「ハルカ、聞いているか!」

 ヴラドは、まだあちこち見回していたハルカを引き戻した。

「お前は武器製造区に行け!あっちだ!全部調べてから戻ってこい!」

「あ、おう!わかった!じゃ、行ってくるね!へへ、冒険だ冒険!」

 返事と同時に、ハルカはヴラドが指した方向へ向かって、鋼鉄の街道を全速力で駆け出した。あっという間にその姿は消えていった。

 カインとヴラドは互いに呆れたように目を合わせ、「気をつけ」と一言だけ交わして、それぞれ別々の区域へと向かっていった。


 鋼鉄の道は長く、異なる区域をつなぐ橋のようなものだった。高空の温度は非常に低く、地上とは気圧もまったく違っていたが、ハルカにとっては取るに足らない問題だった。彼女はまるで地上にいるのと変わらないように、その道を疾走していた。

 雲が立ち込め、ハルカには左右も前方も何も見えない。ここがどれだけの高さにあるのか、前方にどれだけの距離があるのかも不明だった。ふと思い出したのは、エリザベスが言っていた「何十年も雨降っていない」という話だった。

 ここにはこんなに雲があるのに不思議だな、とハルカは考え込んだが、別に答えが出るわけでもなく、そのまま走り続けた。

 長いはずの橋もあっという間に走破してしまった。やがて、巨大な建物がぼんやりと視界に入りはじめ、だんだんとはっきりしてくる。それは黒く巨大な鋼鉄のドーム型建築で、まるで密閉された鳥籠のようだった。中に何があるのかはわからないが、外にいてもかすかに、鋭く断続的な金属の摩擦音が聞こえてくる。

 ハルカは一瞬、見惚れていた。ふと我に返った時、前方の霧の中に黄色く発光する目を見つけた。

 その目の持ち主と視界が交錯するほどの距離に至った。暗い緑色の、小柄な体格、アーチ状の肩に丸い頭部、奇妙な短い脚。

【警告:不明な侵入者発見】

【警告:前方通行禁止】

【当機……】

「うるさい!通らせろよ!」

 ハルカは軽く電流の音と金属音を伴いながら、目の前のロボットの頭を蹴り飛ばした。そして立ち止まることなく前へ突き進んだ。

 前方には、あの巨大な鳥籠のような建物への入り口が見えた。どうやら連鎖反応が起きたのか、道の左右から次々とロボットたちが現れ、ハルカの進路を妨げようとした。

【警告】【警告】

 彼女は跳び上がり、ロボットたちを足場にして次々と蹴散らしながら門の中へと滑り込んだ。

 当然、ロボットたちも彼女を追って一斉に中へ突入し、警報を鳴らしながら金属の床を走り回る。あっという間に周囲から姿を消し、誰も門の前には残らなかった。

 ハルカは門近くの陰からにやりとした顔で出てきた。

「なんだ、案外頭悪いじゃん」

 そんな軽口を叩きながら、適当にひとつの扉を選んで中へ入った。

 その扉を越えると、ようやく「武器製造区」の中核部に到達した。このエリアには、たった一つの建物しか存在していない。しかしその建物こそが、天空城で最大の施設だった。

 まるで鋼鉄でできた宮殿のような建築。どれほど高いか分からない黒々としたドームの天井には、名も知らぬ照明が取り付けられ、冷たい青白い光を放っていた。足元には十字形に伸びる巨大な道があり、その道の外側には下層の製造工房群が何層にも重なっていた。

 防衛機能を持たない製造用ロボットたちが、整然と未知の武器を組み立てていた。ハルカの目には、下層の何階分のラインで銃器のようなものが製造されているように見えた。最下層までは視認できなかったが、少なくとも十数階はありそうだった。

 床に伏せて覗き見たハルカは、ふと考え込んだ。

「リリス、こんなところにいるかな……?階層多いな」

 現在彼女がいるこの階層の中央には、巨大な円柱形の部屋があり、上部は天井にまで達していた。明らかに特別な部屋だと分かった。

 その部屋の扉へと向かいながら、ハルカは建物の周囲の壁面に設置された無数の銃器を確認した。いつ起動するか分からないため、彼女は小走りで中央へ向かった。

 扉の前にはセキュリティ装置や身分認証用のパネルがあり、厳重に守られていることが伺えた。

 だがハルカにとって、扉とは「開けるか、ぶっ壊すか」しかないものだ。


 研究所中央の巨大施設では、何かが起動していた。

「侵入者確認。自動判断、排除開始。対象分散、複数体の出動が必要と判断。ネモ、武器製造区域へ。侵入者を排除せよ」

 呼ばれた「ネモ」は、指示に従った。

「……確認。侵入者とは何者?」

「不明。故に確認せよ」

「……指令受理」

 霧が立ち込める研究所の最深部から、誰にも気づかれずに、二つの影が飛び立ち、それぞれ異なる方向へ向かった。

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