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赤く黒い悪魔

 荒涼とした空気が頬を撫でていく。

 砂埃がこれでもかというくらい蔓延り、周囲の喧騒はヒートアップ。

 突きつけられた刃先に、遼太は怖じることなく周囲を見渡し、突進してくる『それ』を捉える。この程度で(といってしまっては、凛の立つ瀬が無いが)、彼女がくたばるとは思えない。まだまだ警戒を絶やすのに尚早なのは分かっているが、明瞭な危機には対処しなければならない。

 遼太は地面を蹴り上げると、目の前に聳える巨大剣の切っ先に靴裏を載せて、再び思い切り蹴って、いけるところまで跳び上がる。

 そして、祥吾の見様見真似で、脚を突撃してくる『それ』の頭に向けて振り上げた。

 岩を蹴ったような重くて攣ったような痛みが脚に浸透していく。そして、とても筆舌では語り尽くせないゴン、という重々しい音。

 それと咆哮が聞こえるのは同時。

 遼太は反動で宙を一回転し、着地。酷い衝撃はあったが、脚にそこまで大きな痛みはない。

 すぐさま振り返ると──それの体は尚も宙を舞っていた。そのすぐ傍、同じく宙を舞っている祥吾の姿が。同じ表現とはいっても、加害者か被害者かどうかで、見栄えが大分違う。

 その数瞬後、祥吾が『それ』から十分に離れた瞬間、『それ』の体が爆音と共に炎に包まれた。

 なんとも恐るべきコンビネーションである。遼太は自陣の行動ながら戦慄を覚える。

 しかし、そんな戦慄も刹那。背後に凄まじい殺気が出現する。

 地面を抉る勢いで足首を回すと、慣性を利用して剣を突き出し、振り向きざまに振り上げる。

 甲高い金属音。

 それと同時に、後ろにいた人物が後方へと跳び退く。

「あら、バレてた?」

 スカートを揺らし、実璃は微笑してみせる。馬鹿みたいに硬い傘である、殴られたりしたら堪らない。何ゆえ傘なのかどうかは知らないが、衣装といい、貴族を気取っているのだろうか。

 巨大剣は既に回収され、その場から消えていた。それにしても、凛の一撃必殺であるこの奇襲は、遼太でも反応が俄かにできないほどであった。遼太が気付いた頃には、既に手遅れだったであろう。

 それを、彼女は──

「……驚いてるみたいだけど、いくら私でもあんな奇襲避けられるわけないでしょ?」

「……だよね」

 そう呟く遼太の視線の先、実璃の左袖は真っ赤に染まっていた。痛々しく下手すればショック死もありえるその出血量にも関わらず、彼女は平然と笑みを浮かべている。見る方がショック死しそうな(なり)である。

「そっちにも手加減する気は無いってことね……」

 実璃は傘を両手で握り締めて、警戒を露骨に表す。

「命狙われれば、必死になると思うけど……」

 遼太が半ば突っ込み調で呟くと同時、傘が変形を始めた。遼太の右腕の様な、グロテスクな変貌ではなく、固体が融けて再び融合するような変形。

 そして、最終的には、剣へと姿を変える。

 真っ直ぐと屹立したその全貌。刃は酔狂なまでにギラギラと輝き太く長い。そんな大きな刃身を支えられるのかと思えるくらい、細い柄。その中ほどで、彼女の手は握られている。

「それじゃ、こっちも真剣に取り掛からせてもらうわねー……」

 そんな凛のとはまた違った禍々しい気を醸し出す剣を恍惚として眺める実璃。下手すれば、一撃で右腕の剣を葬れるであろう、その剣を見て、遼太は今日何度目かの戦慄を覚える。

 次の瞬間、空気が荒れた。

 強靭な威圧を肌に感じ、遼太はなんとか踵を浮かして飛びずさり、剣を突き出し横に薙ぐ。交わる刃。飛び散る火花。

「火花ッ!?」

 遼太は驚愕、混乱して闇雲に剣を振り回し、相手の剣を引き剥がす。そんな遼太を見て、実璃は冷笑を浮かべる。

「情けないわね。剣同士でやりあえば、この程度普通よ」

 挑発にしては、辛辣だ。

 疑問の余地を与えぬまま、実璃は一閃。

 火花に慄きつつも、その一閃を弾き斬撃を加える。体すれすれで受け止められて、軽くあしらわれる。そして、相手も同様にして隙を狙ってくる。

 遼太には、同じことを繰り返しているようにしか見えない。が、彼女のことだから、狡猾な落とし穴でも用意してあるのだろう。

 そんな思考が脳裏をよぎり、焦燥が生まれる。

 剣を交じらせるのは何度目になったか、唐突に実璃が口を三日月に歪めた。

「ところで、あなたと私の決定的な違いって分かる?」

「……性別」

「惜しいわね……正解は……、武器の使い方の便宜性」

 実璃はそう言った刹那、腕を振って遼太の右腕を引き剥がすと、間髪居れずにその剣を下から上に振り上げた。遼太は腕を横にして、防御を図る。

 グワン、と衝撃。──だが、それと同時、違和感が身体を巡る。

 思わず宙を見上げた。空を舞う、実璃の不恰好な剣──。

 剣が──武器が手からすっぽ抜けたのだ。

「ね」

 腹が強く瞬間的に圧迫された。

「っ!」

 口から息を漏らして確認すると、どうやら蹴られたらしい。大胆な行動をとって油断させた後、物理的攻撃に走るとは──。

 第二撃が来る。体が反応できず、防げない。

 左脚の素早い蹴りを脇腹に喰らって、遼太は身を捩り、それを感じた。──そんな蹴りとは比較の対象にならない攻撃が近づいてきている。

 首だけ回して横を見ると、遠くに佇む『それ』の姿。そして、その直線上には、高熱のエネルギー体が、真っ直ぐに遼太に向けて飛んできていた。

 更に、その一瞬だけで、傍の実璃の気配が消える。首を戻すも、既にそこに実璃の姿は無く──否、上に居た。

 盛大にその内を露見させ、剣を手にした上でそれを遼太目掛けて振り下ろしている彼女が。

 遼太は直感に敢えて従い、地を蹴る。この力を宿してたった三日程度だが、それでも幾度となく空中に身を投じている。空中は得意なほうだ。

 普段の何倍もの脚力で宙を舞うと、思い切って実璃の懐に入り込む。実璃が顔を歪めるのが見えた。ここまで素早い判断は予測していなかったのだろう。遼太ですら、自分の反応に愕然としている。

 なんとなくその顔で勇気付けられた遼太は、下りてくる剣の柄を左手で掴むと、脚を持ち上げて背中を曲げ、思い切り足裏を突き出した。自然と、実璃の腹を蹴るような形になる。

「あっ……」

 背後から近づく高エネルギー弾。 

 遼太は実璃を踏み台にするように、その真っ黒なドレスを蹴りつけると、二段ジャンプよろしく一段と高く宙を舞う。──男という面目があるのであれば、決して出来ない偉業である。遼太はじきに罪悪感で心中を塗り潰されるであろう。

 だが、そんな逡巡の猶予を与えぬほど急な情況だったのだ。

 恐らくは運動エネルギーの限界の位置までたどり着き、飛翔の速度が遅くなっていき、止まったところで眼下にエネルギー弾が通り過ぎていった。異質なる高温の物体に、肌がヒリヒリと焼ける。目が痛くて開けていられない。

 そんな一瞬の地獄は通り過ぎて、遼太は自由落下の体勢に入る。

 エネルギー弾の行方を知ろうと振り返ってみると、──エネルギー弾は実璃に向けて真っ直ぐと飛んで行っていた。実璃に関しては、遼太に蹴り飛ばされたので体に自由が利かない。

 靴裏が地面につく。それと同時に、爆発音。

 『それ』の存在を忘れて、その爆心辺りに視線を飛ばすと、そこには地面に身を投げ出した実璃の姿があった。周囲から黒煙が舞い上がっている。

 ──直撃したのか。それなのに、生きているのか……。

 背後から衝突音が聞こえた。祥吾が跳び蹴りでもかましたのだろう。

 遼太が唾を飲み込むと、彼女はよろよろと立ち上がった。

「……流石ね……ちょっとあなた達のこと舐めてたみたい」

 遼太は油断無く地面を踏みしめ、彼女を凝視する。

「全く……貴女のせいで、碌に動けなかったわ。大したサポーターさんね」

 そう言って実璃が振り向いた先には、刀を携えた凛が佇んでいた。「達」とは、凛と遼太のことか、それとも『中世武器研究会』という、ふざけた部活の存在のことなのか……。

 そういう実璃の体裁は酷いものだった。

 黒いドレスは焼けただれ、所々破けて皮膚が露わになっていて、落ちた衝撃か左腕が妙な方向に曲がっている。髪もぐしゃぐしゃになり、品の良かった顔も酷く歪んでいた。というよりも、泣きそうな顔になっている。

「……やっぱり手加減は不要だったみたいね……。ふふ、あなた、私がこれだけの怪物を管理していて、あっという間に灰になっていっちゃう『その子』達が私の最強の手駒だと思う?」

 身体の痛々しさとは裏腹に、一切の高揚を感じさせない実璃の声と、言葉。

「今のはあなた達のウォーミングアップ。今度は……、そうね、もう一人の私に相手になってもらおうかしら……」

 そう言った瞬間、実璃の眼が光った。比喩ではなく、燦然とした赤色に。

 その幻想的な光に遼太の右腕が疼く。その場に居る者全員が行動を止めて、その光に視線を集めた。

「……ラスボスか」

 部長の呟きは誰の耳にも入らない。

 遼太はその光を茫然として見ているだけ。フラッシュの様な、照明のような明るさではないのに、ポケットライト程度のか細い光なのに、どこにそんな見る者を惹かせる要素があるのだろうか……。

 ふいに実璃は剣を正常な方の腕で担ぎ上げると、思い切り地面に向けて振り下ろした。突き刺さる剣先、抉れる地面。

 だが、傷ついたものはそれらだけではなく──空間をも切裂いていた。

「私の悪魔……」

 実璃がそう呟きながらその裂け目に手を伸ばす。

 そして、空間が一気に凝縮されて、弾けた。

 刹那、殺気が周囲に充満する。

 遼太は屈むと後ろに飛び退いた。一瞬後、遼太が居た辺りの地面が派手に抉れる。

 息を吐く間もなく追撃が訪れる。

 咄嗟に右腕を突き出しその攻撃を防御すると、一瞬の間も持たせずに腹に鈍い衝撃が走り、あえなく吹っ飛ばされる。

 左手だけで受身を取りつつ、その攻撃が加えられた方向を見やると──見知らぬ『それ』が大仰そうに佇んでいた。

 真っ黒な翼、がっしりとしているがすらりとした風に見える体躯、しかしそれは外観的なバランスであって、比率は人間の三倍近くありそうな人型である。全体的なイメージとしては、黒で統一されているようで、体にはこれも真っ黒で高級そうな布が巻きつけられており、頭部には細かい細工が施されて穴の二つ開いたバケツのようなものを被っていて素顔は隠蔽されている。

 そして、露呈された眼は、恒例の如く赤かった。

「ふふ、かっこいいでしょ、これ」

 そんな巨人の肩から、実璃が笑い声をあげた。首にしがみつくようにして、遼太を俯瞰している彼女の傷は遠目でも分かるくらい痛々しかったが、それでもそんなことを感じさせないほど、その声は爛々としている。勝ち誇ったように。

「私が崩した時空の歪みの代謝を上手く構築しなおして、その時に生じたエネルギーを宇宙外の物質を宇宙内の法則に則って化合させて、それに知性を埋め込んだのが、『この子』。容姿は気に入らないんだけど、すっごくかっこいいだから」

 理解できない創造過程と矛盾した言葉。遼太の背中の悪寒はとどまるところを知らない。口の中がズキズキと痛む。先ほどの攻撃を回避した衝撃で、口内を切ったらしい。

 遼太が何も言わないうちに、『それ』が槍を片手に構えた。そして、実璃が狂気に満ちた笑みを浮かべる。

「名前は、面倒だから悪魔(フェネクス)でいいよ。はい、いってらっしゃい、フェネクス♪」

 実璃のおどけたその命令に、『それ』──『フェネクス』がギチギチと顎を鳴らし今まで見た中で一番気味の悪い赤い目玉で、遼太の姿を捉え──驀進する。

 刹那で遼太までたどり着くと、槍を造作なく突き出した。

 遼太はその一撃を横に跳んで回避すると、足を迂回するようにして素早く背後に回りこみ、跳躍。その無防備な背中に右腕の剣を突き立て薙いだ。

 布が裁たれて皮膚が裂かれて肉を切り刻んでいく感触が、リアルに腕に流れ込んでくる。

 フェネクスの体内からそれを引き抜くと、遼太は反撃を恐れてすぐに降下し、着地、前転で衝撃を殺して立ち上がる。

 そんな遼太の目の前に、フェネクスの体液と思しき液体が落ちた。砂を吸収し、とろみを帯びたそれは、そのまま抗力と重力のつりあいに身を任せ動かなくなる。

 見上げると、遼太が切り刻んだ辺りから、体液が噴出していた。見るからに、致命傷に見えるそれなのだが(かといって、左胸の辺りを切りつけるのはいくらなんでも安直だが)、フェネクスは全く動じていない。

 その肩から実璃が顔を覗かせた。

「ふふ、どう? 効くでしょ?」

 その声にあわせて、フェネクスも首を回して遼太を見る。

「あれみたいに、攻撃が効かなかったら、こっちが有利過ぎるでしょ? だから、わざわざ証明してあげたの。というわけで、サービスはここまでね」

 フェネクスの目が瞬く。

 それ同時、その腕がありえない角度にひん曲がり、その腕に伴われるように体が反転。

 目の前に槍が突き刺さって、砂が跳ねた。しかし、その砂の射程距離に遼太の姿はない。

 遼太は一瞬の判断(反射とも言う)で、足裏を弾くと一直線にフェネクスに向かって駆けていく。

 そして、剣による空中攻撃の必中範囲に足を踏み入れた瞬間、フェネクスの体が全面的に回転、真正面から遼太と対峙する。

 その大きな両腕双方に、違った種類の武器が握られていた。槍、と、剣。剣は、実璃の持っていたものを巨大化させたようなもの。槍は、その剣をそのまま細長くしたようなものである。

 遼太は唇を噛んで、姿勢を低くし、急接近を試みる。体が巨大な分、接近されると不利な筈。

 なのだが。

「あら、ごめんなさい。あなたは後。どっちかというと、あなたよりもあっちの方が早く済みそうだから、あなたは後回し」

 そんな遼太は完全に無視されて、フェネクスは一躍、遼太の頭上を易々と飛び越えて、真後ろへと奔走していく。

 その先には、毅然と刀を持って佇む凛の姿があった。

 ──無謀だ。無茶だ。遼太でも、一つの攻撃を避けるのが精一杯なのに、常人の身体能力しか持ち合わせていない凛が直接乗り出すのは、無謀だ。

 脚を唸らせ、力一杯その後を追うが、遼太の五倍近い脚の長さを持つフェネクスの後姿を大きくすることはできず。

 剣が一閃された音を聞く。空気を分断させた、まさしく風を斬る音。

 その刹那の後──派手な金属音が轟いた。剣と剣、否刀と剣を交じり合わせるとこのような音でもするのだろうか。

「知らなくてもいいけど」

 遼太は瞠目して後姿のフェネクスの脚の向こう、刀を翳してフェネクスの剣を受け止めている凛を見た。あからさまな力量の差があるのにも関わらず、魔法でも掛かったかのようにフェネクスの剣は動かない。

「刀はね」

 フェネクスの腕が震える。だが、凛の姿勢は揺るがない。あくまで柄を握り締めて、ただ操られるかのように、フェネクスを捉えている。

「接近武器の中で一番強いんだからね」

 そして──時間が動き出したかのように、その剣が退かされた。

「舐めないでよねっ!」

 そんな怒号と共に。



改めてこの小説の世界観を見直してみると、どうしても何か既出の作品の世界観と似たり寄ったりの様な気がする。

異世界からの使者、バランス保持の為に討伐する種族……?

意識はしていなくとも、なんとなく似てしまっていると、二番煎じ感が否めません。こいつに無理にSFアクションやらせるとこうなるんです……orz

突発的なノリで始まった今作ですが、いよいよ大詰めです。一応、ラストは結構なものを用意しているつもりですので、期待していてください!

……ちなみに私め、約束は守りますが、嘘はつきますのでご容赦くださし^^;

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