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最後の混沌への幕開け




ストーリー展開を円滑にするために、前話のラストに付けたしをしました(二月十日付)。

読んでいない方は、閲覧推奨です。

 遼太はそっと柵に近づくと、手を載せて力を込めた。ふっと体が浮いて、柵を飛び越し、着地。固い靴底が固い音を鳴らす。

 いつも通りの、見るものをも陰鬱な気分にさせる暗い校舎。いつもどおりの、足元から吹き込む風に、今日は顔を直接引っ掻いてくるおまけつき。首を窄めてコートの襟に頸部を全て隠し、校庭へと歩み出る。

 次いで、後ろから音がする。振り返ると、凛がコートの裾を翻して柵を乗り越えていた。

 ──一昨日の反省を活かして、遼太達は集合場所を学校外で決めておき、待ち合わせを図ることにしていた。昨日、眞夏高校の存在をも知らなかった凛が、易々とそこにたどり着けたのは、遼太と落ち合わせたからである。ちなみに考案者は、例によって一番の被害を被った遼太だ。

 たった一日振り──いや、六時間程度見ていなかっただけなのに、随分と久しぶりに感じられる。それだけ、昨日の戦闘は内容が濃かったのだ。

「なんかこうして来るのも久しぶりなような気がするな」

 凛の後から続いてきた祥吾が言った。遼太が祥吾の方を向くと、彼は肩を竦めて見せる。

「……なんとかなる」

 凛に関しては、忙しなく瞬きを繰り返している。

 一同の挙動がぎこちないのは、先刻部長が言っていた言葉が影響している。

 葉山実璃は凶悪な存在。下手すれば、宇宙の因果を改変し、阿鼻叫喚が常識の世界を作り上げかねない。そして、目的以外には盲目である。特に、邪魔をするものには容赦しない。時空を歪ませて、宇宙外の真理を捻じ曲げるほどの実力を持ったものが、今、自分たちを仕留めに来る。止めはしない。恐いのであれば、別に金輪際この部活に顔を出さなくていい……。

 部長の最初の質問には、自分を納得できる回答が見つからなかった。良く分からないが、やっている。そんな感じである。

 ──それでも、強大な力を前にして、みすみす尻尾を巻いて布団に包まって世界平和を願うだけの、横柄な正確は持ち合わせていなかった。

 きっと、この場には居ない佐慧だってその気持ちは同じだろう。

 空を見上げると、塗り潰したように綺麗な月と、小さな一等星がちらほらと見える。

 汚くなければ、満面の星空。でも、彼女はそんな美麗な星空を見たいがために、こんな大仰な事態を作り上げたのか? たかが、とはいえないが、少し高が外れた行為であることは間違いない。常識的には。

 しかし、そんなあやふやな常識が通用する筈などないということは、遼太も重々承知している。深く考えると、思考が泥沼の様な陥穽に嵌っていく。軽挙に出るのは愚策だが、深慮もまた愚策である。

 だから、こうして何も考えずにここに登場してやった次第なのだが。

 広がるのは先ほどまで見ていた景色がそのまま黒く塗り潰されただけの校庭。昨日と違って、そのバリエーションは無いし、広さも大したことは無い。ただ、校舎を跡形が残るのであれば、そこまでの考慮は要らないという点は、昨日より気持ちの面では遥かに楽だ。

 金属が擦れあう音がして、振り返ると部長がこちらに向かって歩いてきていた。──明日は、日本沈没だろうか。

「……待たせたな」

 だが、そんな他愛の無い冗談が悪質に聞こえるほど、部長の雰囲気は真剣だった。普段の様態では感じられないほどの貫禄を感じる。部下を守る熱血刑事も、こんな感じなのだろうか。

 凛が軽く頭を下げて会釈、祥吾は首を下げて挨拶を済ます。

 部長はそれに応えず、首を回して校庭を見据えた。

「……」

 沈黙。遼太はその部長の体裁に底知れぬ戦慄を覚えた。

 動揺している?

 しかし、疑問をぶつけるまでもなく、その時が訪れてしまった。

 校庭の中心辺りの光のバランスが歪み、あたかも空間が歪んでいる様を見せ付け、ぱっくりとその「場所」が裂けた。そして、その隙間から躍り出るかのように──

「よっこらせっと」

 場にそぐわない態度で「彼女」が現れた。トスンと地面に着地。小さな砂埃を作り上げる。

 どんな意図があるのか分からないが、容姿は昨日の制服姿とは打って変わり、真っ黒なドレス姿。そぐわないともいえるが、何故か彼女が纏うとそれが正装の様に見えてならない。

 実璃は顔を上げて、遼太達を見据えると、にっこりと微笑んで見せた。

「ふふ、やっぱり来てくれたのね」

「義務だ」

 部長が素っ気無く返す。なんとなく、凛達の様子を確かめたかったが、ここで振り返るのは憚られた。相手は仮にでも宇宙外の因果を捻じ曲げた存在──その内に秘める力は計り知れない。

 部長の返答を聞いて、実璃は口の端を更に吊り上げる。

「……いつも思うんだけどさー。戦隊物のヒーローって本当にヒーローなの?」

 そしてその口から飛び出るのは、他愛も無い不可解な疑問。

「複数でなんかチームみたいなの作ってさ、一人の相手をとっちめるの。それってどうなの? フェアなの?」

「相手の力量とこちらの力量がつりあっているから、フェアだろう」

 部長が冷然と答える。

「ふーん。ま、それはそれでいいんだけどね。でも貴方たちはさー、どう考えてもフェアじゃないわけでしょ? ちょっとくらい傷を負って帰ってもいいのにさ、毎回無傷で勝っちゃって。しかも、リセットまでできるんでしょ? いくらなんでも、私たち不利過ぎない?」

「現実の危機に対して誰も娯楽など求めない。はらはらするのは、画面の中で十分だ」

「へぇー、それが正義なわけ?」

「正義を気取った覚えは無い。それに、自分に害があるものは、即座に潰すのがこの世界黙認の掟だ」

「そんじゃ、いつまで経ってもここは戦乱が普通になるじゃない」

「この世では、人間の数だけそれぞれの考えがある。それゆえ、考えを統一させて支配することなどできない。危険な思考を排斥したところで、どこか見えぬところで再び危険は生まれる。歴史は繰り返される」

「なにそれ。学習できないわけ?」

(……?)

 もはや、この場は部長と実璃の独壇場だった。あからさまに疎外されているものの、遼太は全く自分には無関係だと感じることはできない。

 仮にでも、実璃は自分の隣の席の女子、良き隣人である。そんな彼女が、こんなにも醜い鬱憤を心中に収めて隠しつづけていた、と考えると。

「学習云々の問題ではない。人間的な問題だ。個人の所望する良を求めていけば、必ずどこかで利害が対立する。それらに打ち勝って人間は発展を続けていく。それが最悪の結果に繋がろうとな」

「……くっだらない」

「それでも、私はこんな世が好きだ。無知とは時に便利なものだ。お陰さまで、今はここまで円満な生活を楽しませてもらっている」

 その言葉を聞いた途端、実璃の目が吊り上がった。

「……へぇ。それは宣戦布告と受け取っていいの?」

「最初からその気で来たのは、そっちだろう。私は、私で自分なりの思考を貫かせてもらう」

 ……成る程。何かが一貫していないと思っていたら、ただの挑発だったのか。

 実際、実璃の顔に、明確な憤怒が表れる。

「……それじゃ、私も遠慮なく、私なりの思考を貫かせてもらおうかしら」

 そして、閃光。

 空が縦に裂かれ、歪んでいた空間の深刻化に拍車が掛かる。

 そして、その狭間から現れたのは──。

「……またか」

 祥吾の悪態が聞こえた。無理も無い。

 昨日と全く変わらぬ巨体。トラウマになり得るその赤い眼球。人間十人が軽々収納されてしまいそうな、その顔を分断する口。

 紛れも無い、昨日死闘を繰り広げた、ドラゴンに違いなかった。

「どう? これ。私が考えたんだけど? 人間が考え出したデザインにしては、随分と有効性が高くって、ある程度技能も無理に施せるし、格好いいから、取り入れてみたんだけど?」

 実璃の饒舌に応えるように『それ』が咆えた。

 ──汗玉を背中に浮かべる遼太にとって、それだけでとんだ送りものなのだが、彼女の豪胆さが窺える、第二手が打たれるとは思いもよらなかった。

 時空の変遷はまだ衰えずに、二体目を召還し始めたのだ。

 ──二体目のそれは、のっそりと切れ目から姿を現し足踏みを始める。

「驚いたー?」

 そんな実璃の面白がる声と同時に、三体目が躍り出てきた。却ってここまでしてやられると、清々しい。

 更に四体目──。

 これ以上出てこられると、校庭が満杯になりそうだ。そんな密集空間での戦闘など……無謀だ。

 だが、どちらかというと、それはあちら側にとっての有利になり得るのだから、あっちだって抜かりは入れない。

 捕まえてきた虫を披露するかのように、順繰りドラゴン型の『それ』が現れていき、都合六体がこの校庭に居座ることとなる。猫が趣味だという人の家に居る大量の猫を見たような気分だ。

「やるからには勝ちに来ないとね。でもどっちかっていうと、これでようやくフェアになれたって感じかなー?」

 実璃は得意満面の笑みを浮かべている。

「今までの貸しを含めて」

 部長はそんな彼女を無視して、遼太達に向き直った。

「昨日と同じ奴か」

「……はい」

「私と竹中で奴らを引きつけておく。貴様と凛君は中核(はやま)を頼む」

「え」

 有無を言わさず部長は早口で捲くし立てると、祥吾に向けて手を下から振り上げて、同行を促す。それと、同時進行で懐から兵器を取り出した。

「頼んだ」

 そう言うと、部長は地面を一蹴して『それ』の群れに突っ込んでいく。祥吾が慌ててその後を追っていった。

 半ば茫然としてそれを見送った遼太だが、右腕に喚起されてようやく現状を見据える。

「……我の存在内の記憶の蘇生を感知」

「……?」

「──()の我を宇宙空間へ(いざな)った存在と相違無し」

 遼太はその義手の言葉にゾクリとして、改めて彼女を見据える。

 暗い中、黒ドレスを纏った彼女の姿は、妖艶であった。首もとまで生地が伸び、下半身はボリュームのあるスカート、そこに幾多のレースが添えられている。どの要素をとっても彼女にピッタリで、なんとも蠱惑的な容姿だ。

 だが、その表情と照らし合わせると、さながらホラー映画の猟奇そのもの。

「何してんの! 早く行こっ!」

 後ろから凛に思い切り背中を押されて、遼太は我に帰る。

「あ、ごめん」

 遼太はようやくいつもの感覚を思い出し、右腕にスイッチを入れた。

 体が軽くなる。視界が明瞭になる。肌に空気が触れてくすぐったく、『それ』の咆哮がいやというほど鼓膜に飛び込んでくる。頭が熱い。

「僕が真正面から突っ込んでみる。君はサポートを頼む」

 遼太は目まぐるしくその状況を確認すると、凛にそう言って返事も聞かずに飛び出した。右腕を剣に変形させながら。

 実璃に近づくその道すがら。半分と来たところで、校舎の方から『それ』が突進を仕掛けてきた。もう二度と目にしたくなかったその攻撃に、右腕が粟立つ。

 遼太は脚を捻って身体をそっちに向けた後、その脚をバネにして空を舞うと、突進してくる『それ』の頭に思い切り横から刃身を叩きつける。

 頭蓋骨が鳴る嫌な音がして、『それ』が嫌がるように頭を傾ける。突進の勢いが弱まるのは同時。

 遼太はそのままの勢いで頭に載ると、両腕を振りかざし『それ』の燦然と輝く赤い眼球に各々の腕を突っ込んだ。

 右手はともかく、左手の不快感は異常だったが、遼太はそれを気合でねじ伏せて頭を蹴り飛ばして、再び勢いを作り、実璃に向けて跳躍する。

 と、遼太がその頭から退いたと同時、その頭が爆発した。遼太が驚いて周囲を見渡すと、筒を肩に担いだ部長の姿ある。これは貸しなのだろうか、借りなのだろうか。

 地面に軽々と着地すると、背後で『それ』の巨体が倒れた巨大な音が響き渡る。──成る程、部長の兵器も、一応爆発を主な威力とする攻撃なのか。

 死骸を一瞥することなく、遼太は実璃に向けて猛進。

 実璃を視界の中央に捉え、全力疾走の体勢に入った遼太を見つけた実璃は、少し驚いたような顔をしたが、すぐに不敵な笑みを顔に貼り付ける。

 もちろん、そう安直に突っ込むつもりなどない。

 足首を常人なら挫くであろう角度にひん曲げて、走行方向を変えて実璃の脇をすり抜ける。そして、すぐに身体を捻って実璃の背中を見ると、踵を浮かせるとつま先を弾き跳んだ。

 そのまま、一直線に実璃の背後を獲りに向かう。

「流石、相性最悪の相手に勝利した人ね」

 結果は、台詞の通り。

 実璃はやはりこれも常人を逸した動きで振り向くと──真っ黒な傘で遼太の剣を受け止めた。

 鉄がぶつかり合う大きな音が響く。──同時に、『それ』の咆哮。祥吾か、部長か。

 答えを模索する気も起こさず、遼太はそのまま刃を擦らせて傘から外すと、脇から斬り上げる。実璃はこれを後ろに跳んで躱す。

 遼太は追撃を試みようと、右腕をデフォルトの位置まで戻し相手を捕捉しようと前を見る。

 が、仕掛けてきたのは実璃の方だった。

 傘を振り上げて、単純に地面を蹴り上げて襲ってくる。そして、遼太の目の前で振り下ろす。

 対人は初めてなので、遼太はその奇襲に上等の反応ができず、その傘を右腕で弾く。

 ただ、咄嗟の反応でもそれは良好な判断だった。

 一撃の重みを重視した攻撃だったので、実璃の反動は大きく、その体が少し仰け反る。遼太はその一瞬を狙って、右腕を弾いた方向とは逆に薙いだ。

 身を捉えるはずの一撃は空を斬る。そして、斜め方向からの打撃。身体を捻って躱す。

 捻った身体を戻す勢いでそのまま斬撃。カンッ、という金属音。めげずにもう一度素早く振りかぶり、目標をずらして斬撃。手ごたえ無し。

 どうやら、横に跳んで避けたらしい。遼太と実璃の間には距離が出来上がっていた。

 遼太は肩で息を吐く。そこまで息は上がっていない。実璃も同様だ。

 ──もしかして、実力は同じなのか?

 そんな愚かしい考えが浮かび、慌てて脳内から打ち消す。そういう浅慮が命取りになるのだ。

 警戒を解かずに、実璃が口を開いた。

「ふふ、やるわね。流石、私の脱走を梃子摺(てこず)らせただけあるわ」

 義手への言葉だろう。

 そうだ、あくまで遼太がこうして戦っているのは、「偶然」この義手を宿らせてしまったからなのだ。人が代わっても、きっとこれだけのことはこなせる筈。

「……だろう?」

 だから敢えて、遼太は同じく口の端を吊り上げ、挑発的な言葉を投げかけた。案の定、実璃もそれに乗ってくる。

「あら……昨日と比べて随分とまぁ態度がでかくなったわね……」

 右腕が実璃の言葉の度に(うず)く。苛々しているのだろうか。

「お陰さまで……」

 剣を構えた状態で視線を地面に落とす。そこで、爆発音と咆哮が轟く。

「順調みたいね」

「うん……<こっち>もね……」

 遼太がそう言って、視線を上げた。

その視線の先に恐ろしく巨大な剣が実璃の背後から、彼女に向けて倒れてきていた。

 空気を引き裂く音に、地面と接触する音が混じりあい、腹がむかむかする轟音を撒き散らしながら巨大剣が倒れていき──その刃先が遼太の目の前で止まった。

 周囲の喧騒はまだ収まらない。





……なんか、悪役バッチシ決まってますねー……。

えー、文中でも言っていますが、起承転結でいう、転と結の狭間です。……この物語に起承転結が存在するかどうか分かりませんが。

とりあえずまぁ、終りに向けて突進し始めている、ということです。……最後までお付き合いいただけたら、光栄ですorz


余談ですが、昨日の発表で、前期試験落ちてましたorz おかげさまで、一行も進まなかったぜ。一応、落胆という感情があることを知りました。

できれば、終わらせたかったんですがしゃあないです。後期試験に向けてまた勉強が再開されますので、更新は今までどおりです。


では、今後ともよろしくです。

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