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オンナけもの、ふたりゆるりと。 〜アナグマ作家と銀狼OLの生活記録〜  作者: かかからす


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7/12

Episode 7 パンと肉のお店

 今夜は凛音と、一週間ぶりに会える。

 夜はそのままホテルに泊まり、熱い夜を過ごす予定なのだ。

 高ぶらずにはいられない。

 高ぶった心はそのままに、とりあえず腹が減ってしまった。まだ夕方なのに。

 しかも母と牛ほほ肉の赤ワイン煮込みの話なんてしてしまったものだから、もう大変だ。

 お腹と舌は、とにかく肉を求めている。

 こんなときに行きたい店は決まっている。

 お通しのパンがめちゃくちゃうまい、肉の店だ。


 駅前に繰り出して目的の店に入ると、店内には人けがない。

 奥に工場が併設されているので、そちらに人がいるのだろうか。

 入り口そばのパン屋と肉屋のブースを抜け、その奥にあるカウンターのほうを覗き込むと、女性店員がいた。

 大きな銀色のバットを持っている。何か作業の途中なのだろうか?

 とりあえず声をかけてみる。


「すみません、カウンターのほうってやってますか?」

「はい、やってますよ。お酒のメニューでよろしかったですか?」

「はい、お酒とおつまみ、お願いします」


 と、無事にメニューを受け取り、悩む悩む。

 とりあえずファーストドリンクとして頼んだのは、自家製モスコミュール。

 銀色のバットを片付けてカウンターに戻ってきたお姉さんに注文する。

 カラカラと氷の音がして、用意された自家製モスコミュール。

 スライスした生姜が入っているのが見える。

 甘さは控えめで、ウォッカ自体にクセがないので非常に飲みやすい。

 自家製ジンジャーエールをそのまま飲んでいるみたいだ。

 これは危ないやつだな。


 次いでカウンターにやってきたのは、お通しの自家製パン。

 白くて、外はサクサク、中はふわふわ。

 オリーブオイルがかかっており、それ単体でもうまい。

 発酵の香り、焼きたてのパン、オリーブオイルのハーモニーがたまらない。


 続いて、最初に頼んでおいたシャルキュトリー三種と、前菜三種盛りが来る。同じ皿に盛り付けてある。

 前菜は、塩麹のキャロットラペ、紫キャベツのマリネ、ブロッコリーのペペロンチーノの三種類だ。

 オレンジ、紫、緑で色鮮やかな野菜の三原色か? なんつって。

 シャルキュトリーは生ハムと、ソーセージと、ローストポークかな?

 この皿でまず手をつけたのは、ソーセージだ。

 外側は鈍い茶色で、中身は赤々としている。

 口に含むと、見た目の妙な感じに反して、かなり肉肉しい味わいだ。

 それに塩気もしっかり感じられる。

 お通しのパンと合わせると、ソーセージドッグ的な感じで美味だ。

 キャロットラペを口直しに食べると、ごま油の香りを感じた。塩麹のキャロットラペらしい。

 なんだか身体に良さそうな味しかしない。

 紫キャベツのマリネは、とてもビネガー的な酸っぱさ。喉がぴりっとするくらい酸味があり、心地よい。


 次はローストポークらしきものを食べてみる。

 めちゃくちゃ瑞々しくてジューシーだ。これまた別の感じで、肉の味わいが濃いめ。

 流石、肉の店だ。

 パンを一口挟み、ブロッコリーのペペロンチーノをかじる。

 いい感じに加熱されたところで冷やされたのか、しっかりと歯ごたえがある。

 ブロッコリーそのものの味もうまい。

 と、ここまでで自家製モスコミュールを飲み干してしまった。


「すみません、この生胡椒ジンジャーサワーください」

「はーい」


 と、ブロッコリーなどの前菜を食べながら待つことしばし。

 手早く作られた生胡椒ジンジャーサワーを受け取り、お返しに空のグラスを渡す。

 空のグラスを渡す。酒飲みあるあるだ。


 さてさて、お待ちかねの生ハム。

 くんくん嗅ぐと、これもまた発酵の香りがする。はくりと噛むと、脂が口のなかで溶けた。脂の融点が低くてうまいやつだ、これは。

 同じ発酵食品のパンと合わせて食べると、発酵の二重奏が心地よい。

 生胡椒ジンジャーサワーでこくりと流し込む。ぴりりとした生姜と、黒胡椒のスパイシーさ。

 合わないわけがない。

 くう、と頭を振りたくなる。

 人目があるのでやらないが。

 前菜とパン、シャルキュトリーたちとドリンクを黙々と飲み食いし、片付ける。


「すみません、パンっておかわりできますか?」

「同じのになっちゃいますが、大丈夫ですか?」

「美味しいので大丈夫です! それと、香草香る豚バラのポルケッタください」

「はーい、かしこまりました」


 ちまちまと残りの前菜をつまみ、生胡椒ジンジャーサワーを飲みながらおかわりのパンと、本日のメインディッシュを楽しみに待つ。

 カウンター越しに、豚バラがフライパンでじゅうじゅうはじける音が聞こえる。

 豚の脂が熱されるいい香りもしてきた。

 香草も熱され、スパイシーで刺激的なにおいを振りまいている。

 だんだん全ての香りが濃厚になってくる。

 自然と、ふんかふんかと鼻がひくついてしまう。

 ちーんと、トースターが鳴る。

 おかわりのパンだ。


「お待たせいたしましたー、ポルケッタとおかわりのパンになります」

「ありがとうございます」


 と、大皿とパンの小皿を受け取る。

 黒い大皿には、くるりと巻いたような厚切りベーコン的なビジュアルの豚バラ肉が乗っている。

 ポルケッタは自分でも作ったことがある。

 分厚い豚バラ肉を、香草を巻き込みながらぐるりと巻いてたこ糸でしばるのだ。

 それをオーブンで焼き上げる。

 これは、それをさらに薄切りにしたものなのだろう。

 だからUみたいなカタチになっているのだ。

 ふふふ、知ってるんだぞ私は。

 ナイフとフォークでお上品に切り分けて、パクリ。

 む、脂の甘さと、肉のワイルドな味。そしてポルケッタの一番の特徴である香草のスパイス!

 これはパンと食べるしかないな。

 パンをちぎって一緒に咀嚼するとたまらない。

 なんで豚肉ってこんなにパンと合うんだろう。

 生胡椒ジンジャーサワーで口の中の脂やパンを流し込むと、本日最高のため息が出た。

 ああ、これは優勝ですわ。

 私は勝利を確信した。

 ポルケッタは思いのほかボリューミーだ。

 おかわりのパンとともになんとか平らげたが、かなりお腹がはちきれそうになってしまった。

 しばらくちびちびお酒を飲みながら、お腹を落ち着かせる羽目になってしまった。

 これもまた、贅沢で幸せな工程だが。

 そんなわけで、今日もまた良い夜を過ごした。

 夜はこれからだけれど!


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