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オンナけもの、ふたりゆるりと。 〜アナグマ作家と銀狼OLの生活記録〜  作者: かかからす


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4/12

Episode 4 蔵味噌ラーメン

 じっとりじとじと。

 雨上がりの街中は、とにもかくにも暑い。

 気温は低く、風も冷たいが、なにぶん汗が乾かないので皮膚表面が熱く保たれやすいのだ。

 嫌な重たい暑さにアナグマ耳はすっかりしょげ返り、尻尾も心なしかげっそりしているよう。

 今日はお一人様で駅前のラーメンを探索する日だ。


 鶏白湯でこってりこてこてもいいが。

 今日の暑さを吹き飛ばすには、しょっぱくてコクのある、蔵味噌ラーメンが一番かもしれない。

 暑くて体もしんなりしてるが、生きてるだけでお腹は減るものだ。


 トッピングは何にしようかな、贅沢に全部のせもいいなと道すがら考える。

 少なくとも味玉は外せない。

 そういえば味玉無料券があった気がするな。

 おサイフをごそごそと漁る。


 あった!


 あの店は気前が良くて、来店するたびに何かサービス券をくれるんだよな。

 ホクホク気分で駅中を歩き、南口から出る。

 いつもはコンクリート舗装で地面からの照り返しがつらいが、今は夕方。

 しかも雨が降った後なので曇っている。

 湿気はあれど真夏の厳しさとはまだ違う空気感だ。

 涼しいとは口が裂けても言えないが。


 夕方の平日駅前は人でごった返していて、避けるのにも一苦労だ。

 道中、らんらんと明るい居酒屋の誘惑に心惹かれつつも、鉄の意志でラーメン屋へと向かう。

 今日は絶対にあの蔵味噌ラーメンを食べるのだ。

 居酒屋に入ってしまったら大ボリュームの味噌ラーメンは食べられなくなってしまう。

 本末転倒である。


 そんなことを考えながらてくてく歩くと、目的の店前につく。

 看板に全メニューが載っているので店前でしばし悩む。

 全部のせも心惹かれたが、味玉無料券を使うと味玉が2個になってしまう。

 浴びるほど白ネギを食べる気分でもないので、ネギ味噌もパスだ。

 ここは辛味噌か、ゆず味噌の二択だろう。

 少し迷ったが、辛味よりさっぱりを選ぶことにした。

 辛みは一味でも加えられる。


 引き戸を開くと、外の暑さとは無縁のような冷気と、炒めた焦がし野菜の豊かな香りに包まれる。


「いらっしゃいませ! 1名様ですか? 空いているカウンター席へどうぞ!」


 コクリと頷き、後ろに人もいたので手早く食券を購入する。

 座って少し経つと、食券を受け取りに店員が来る。

 にこやかに受け取っていくと、今度はキンキンに冷えたお冷を置きに来た。

 お礼を言い、早速一口飲む。

 小さな氷が浮いていたので一緒に口に含み、かりかりと噛むとほてった身体に心地よい。


 仕事終わりの晩御飯時なのだろう、リーマンやOLらしき人影が目立った。

 中華鍋は一つ。複数人分を一回に作れそうな大きさ。

 カウンターの中では、店員が慌ただしく動いている。

 見ている合間にも、大量の野菜を中華鍋に投入していた。

 水分をよく含む新鮮な野菜が熱された鍋と接し、ジュワッと小気味良い音を鳴らす。

 遅れて、香り立つ蒸気がカウンターの外にもやってくる。

 見ているだけでお腹がぐうぐう鳴りそうだ。

 周りを見回すと、カウンター席は満席になっていた。


 次はいつ自分の番かな、とカウンターの中を眺めながらまた一口水を含む。

 暑くてつい水を飲みすぎて、空になりそうだ。

 重たいピッチャーをカウンターから取り、水を自分のコップに注ぐ。

 勢い余って少しだけこぼしてしまった。

 少し恥ずかしい気分になりながら、そわそわ待つ。

 程なくして、店員がラーメンを持ってくる。


「お待たせいたしました。ゆず味噌ラーメン、味玉トッピングです!」


 まず、ファーストインプレッション。

 量が多い!

 なみなみと縁につきそうなスープ。

 というか、受け皿に溢れているほどだ。

 そして、熱気。

 完全にさっきまで中華鍋にいましたけど、という顔をしている。


 ゴクリと喉が鳴る。


 まずはいただきます、と早速スープを一口。

 熱い!しょっぱい。そして柚子の酸味。三位一体だ、なんちゃって。

 次いで、麺をすする。

 こちらもアツアツだ。

 小麦粉にこだわっているのだろう。

 豊かな小麦の香りが鼻を通り抜けていく。

 続けて、炒め野菜と共に更に麺を口に入れる。

 しんなりしつつも、シャキッとした歯ごたえがある。

 キャベツ、もやしが中心で、ひき肉も少し混じっている。

 量はわずかながら、ひき肉の旨味の存在感がすごい。


 具材は他に、薄切りレアチャーシュー、メンマ、細唐辛子、柚子の皮、白ネギも見られる。

 いちいち細切れに食べるよりは、一緒くたに食べたほうが美味しそうだ。

 軽くかき混ぜて、野菜や唐辛子、柚子皮を一緒に口にいれると、複雑なハーモニーが奏でられた。

 最後に必ず柚子ジュレの後味が来るのがまた良い。

 レアチャーシューを箸でちぎって口に含み、追撃をかける。

 繊細な肉の味わいだ。

 味玉も食べてみよう。

 半分に切られた味玉を一口で食む。

 スープがしょっぱいからか、味玉の味付けは薄めだ。

 濃厚な卵そのものの味は口直しに最適だ。

 うまいうまい、と終盤まで食べ進めると、店員がやって来た。


「こちら口直しの黒烏龍茶でございます」


 ペコリとお辞儀をして、口がしょっぱかったので早速いただく。

 濃い苦味のあるお茶に、ほうっと一息だ。

 残りも食べ進め、最後に水を一気飲み。

「ごちそうさまでした!」と、店を出る。


 店を出ると、すっかり夜の帳が下りていた。

 心なしか、入店する時よりも涼しくなっている気がする。

 湿気も軽くなり、アツアツのラーメンで汗だくになっていた体に気持ち良い風が抜けていく。


 ちなみに、帰りにスーパーに寄って安かったシャインマスカットをついつい買ってしまった。

 夜は凛音と甘いデザートの、スイートな時間が待っている。そう思いながら、いそいそと家路についた。


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