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オンナけもの、ふたりゆるりと。 〜アナグマ作家と銀狼OLの生活記録〜  作者: かかからす


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3/12

Episode 3 スーパーの鮮魚コーナー

 初夏を思わせる日差し。

 私と凛音は帽子でそれを遮りつつ、行きつけのスーパーへと向かっていた。

 今日はおうち飲みの日だ。

 じりじりとした日差しに辟易としつつ、凛音と会話する。


「最近暑くなってきたね」

「去年よりはマシではあるけど、年々暑くなってるね」

「うん、確かに去年よりはマシかも。まだセミも鳴いてないし」


 そんな軽口をたたきつつ、サンダルでアスファルトを踏みしめる。

 お目当てのスーパーは、総合商業施設の地下一階にある。

 地下だからか、生鮮食品が多いからか、冷房がキンキンに効いていて天国なのだ。

 その道中、一番街の交差点で思わぬ行事に出会う。

 トントコ、トントコ。

 太鼓の音だ。

 法被を着て、うちわで交通整理をしている大人たち。その肩の向こうに見えるもの。


「おっ、なんだろ? お祭り? お神輿?」

「山車(だし)だね」

「へえ、あれって、だしっていうんだ?」

「てっぺんにも人が乗ってるよ」

「すごいなあ、夏を感じる」


 太鼓の拍子に合わせて、大勢で引っ張っている建造物を山車というらしい。

 変なところでマニアックな知識があるな、こやつ。

 と、凛音を横目にしつつ、二人で道路脇に寄る。

 ついでに、すれ違いざまに断りを入れ、写真を数枚撮らせてもらった。

 夏の思い出のアルバムに、日常の一枚をパシャリ、である。

 地元民なのに山車を観光気分で味わい、スーパーへてくてくと向かう。

 入ってすぐのエスカレーターで地下へ下れば、念願の食品売り場だ。

 うん、とても涼しい。

 長くいたら寒いくらいだろう。

 二人でカートに籠を載せ、凛音がカートをコロコロ押す。

 私はその周りをうろちょろしながら、売り場を見渡す。


「あ、さくらんぼ、まだあったんだ」

「時期が時期だけに、少し高いね」

「そうなんだけど、うーん」

「鈴、さくらんぼ好きだもんね」


 迷うこと三秒。私は籠にさくらんぼを一つ入れた。


「果物は人生の彩り」

「いいと思うよ」

「後で一緒に食べよう」

「そうだね」


 果物の次は野菜コーナーだ。

 とうもろこしが安い。

 こちらは悩むことなく、ノータイムで一本。


「葉っぱつけたままレンチンすればいいんだよね」

「茹でなくてもいいんだ?」

「そそ。現代文明の利器」

「それで美味しく食べられるなら、手間は少ない方がいいね」

「ふふん」


 ネットで仕入れた知識を披露して、なんとなく偉くなった気分。

 偉いのは先人であって、私ではないが。

 ほかの野菜は冷蔵庫に大体あるからいいかな、と鮮魚コーナーへ向かう。

 十六時まで魚をさばいてくれるサービスをやっているのだが、今日はまだ昼過ぎなのでセーフだ。

 遠目にも、いろんな種類の魚が並んでいるのがわかった。

 魚の姿がはっきり見えるところまで近づいた時、私は一瞬言葉を失った。

 凛音が不思議そうに尋ねてくる。


「鈴、何か欲しい魚があったの?」

「凛音、今日はやばいよ」

「え?」

「当たりも当たり、大当たりかも」

「そうなの? 私はあまりお魚に詳しくないから」

「珍しいのばっかり。どれ買おう!」


 ふんすふんすと鼻息荒く鮮魚コーナーの前でやりとりしていると、売り場のおばちゃんが声をかけてくる。


「いらっしゃい! いいの揃えてますよ! 刺身にもできますよ!」

「刺身いけるんですか?」

「はい、種類にもよりますが」

「うおお、どれにしよう」

「鈴、楽しそう」


 まず真っ先に目に入ったのは、頭が大きく、胴が細長いシルエットの白身魚。


「コチいるじゃん」


 その隣を見る。


「うわ、キンメダイでか」


 真鯛まで安い。

 そして、その隣。


「……トビウオ?」


 この地方の鮮魚コーナーでトビウオなんて、見たことないぞ。

 お財布との兼ね合いや、二人で食べ切れる量かどうかが一瞬で頭の中を駆け巡り、次の瞬間には、もう決めて口に出していた。


「とりあえず、コチ二尾とトビウオ二尾、刺身にできます?」

「はい、どちらも大丈夫ですよ!」

「よっしゃ。お願いします!」

「毎度ありがとうございます! 少しかかるので、よければ売り場をご覧になってお待ちください」

「はーい」


 鮮魚コーナーを後にし、漬物コーナーへ。

 といっても、漬物も備蓄があるので、そのまま精肉コーナーへ向かう。


「お、このステーキ、三割引! 安い!」

「お魚もあるけど、ステーキもやっちゃう?」

「うーん、それは気分次第かな。でも、これはとりあえず買い」


 牛肉は冷凍しておけば日持ちするので、別に今夜の食卓でなくとも出番はある。


「唐揚げも悩ましい」

「最近食べてなかったですねえ」

「これもまた、とりあえず買い」


 鶏もも肉二枚入りのパックを籠に入れる。

 精肉コーナーを早々に後にして、今度はお惣菜コーナーに突入する。

 基本的に私たちは自炊か外食の二択なので、お惣菜はウィンドウショッピングだ。

 「寿司おいしそー」とか、「唐揚げは自家製の方がおいしくできる」とか、雑談しながら飲み物コーナーへ流れる。

 そうだ、と凛音がコーヒーコーナーの前で声を上げた。


「カフェインレスコーヒー切れそうだから、買おう」

「炭酸水もなくなりそうだから、これもー」


 なかなか買い物袋が重くなりそうだ。

 まあ、凛音も力は見た目よりある。私もなんとか頑張って持とう。

 やいのやいのと飲み物コーナーでもひとしきり雑談し、気づくと、魚を頼んでから十分ほど経っている。


「そろそろお刺身できてるかな?」

「戻って聞いてみようか」

「うい」


 凛音が押すカートの後をトコトコついていく。

 目指すは鮮魚コーナーの最奥だ。


「あ! お刺身できてますよ!」


 こちらが声をかけるより先に、おばちゃんが私たちに気づき、知りたかったことを告げてくれた。


「やった。ありがとうございます」

「はい、骨は取ったけど、残ってるかもしれないから気をつけてくださいね」


 鮮魚コーナーからレジへ向かう道すがら、これは必須だよな、と大葉を籠に放り入れる。

 二人で手分けして商品をセルフレジに通し、私のカードでまとめて支払いを済ませる。

 ちなみに、ちゃんと後でケモペイで請求するので、割り勘だ。


「なんか、昼ごはんがパスタだったから、お腹空いてきた」

「私はまだ大丈夫だけど、帰ったらお刺身切る?」

「そうしよ」


 心持ち急ぎ足で家に帰る。

 外は暑かったが、家は遠隔操作でクーラーをつけておいたので涼しい。

 スーパーほどキンキンではないが。

 買ったものを仕分けて冷蔵庫へ入れていると、早速、凛音がお刺身を切ってくれるようだ。


「薄く長めに切ればいい? カツオとかとは、また違うよね?」

「うん、そんな感じでお願い! ありがと」


 買ったものを冷蔵庫にしまい終えたので、炭酸水を手にリビングへ戻る。

 ほどなく、大葉を敷いた立派な刺し盛りが運ばれてくる。

 凛音、最初は魚をさばくのを見てびっくりしてたのに、すっかり逞しくなったなあ。


「できたよ。どうぞ」

「うお! うまそ」


 コチとトビウオの刺身の盛り合わせ。

 コチは白っぽく、トビウオはピンク色で、皮目が赤っぽい。


「凛音は食べなくていいのん?」

「実は、さっきつまみ食いしちゃったんだ」

「えっ! 行儀悪くなっちゃって、まあ」

「料理人の特権でしょ」


 凛音は、行儀まですっかり逞しくなってしまったようだ。


「まあいいけど、いただきまーす」

「どうぞ。私はカフェインレスコーヒー飲んでるよ」


 まずはコチから。

 箸でつまみ上げると、光に透ける白い身が美しい。

 わさびを溶かした醤油にくぐらせ、口に入れる。

 噛むと、それなりの歯ごたえがありつつも、ねっとりとした甘みがある。

 何かに例えるなら、コリコリしていないフグだろうか?

 高級な白身魚らしい味わいだ。


「うま」

「上品な味だったね」

「じゃあ、次はトビウオ」


 コチよりも赤みのある身にわさび醤油をつけ、ぱくり。

 あご出汁にも使われる旨味の王だけあって、アミノ酸系の強い旨味を感じる。

 例えにくいが、出世魚系の若いやつに似ているとも言える。

 脂は乗っておらず、旨味と歯ごたえで食べる感じだ。


「どっちも違って美味しいな」

「私はコチの方が好きかな」

「私は甲乙つけがたいかも」


 まあ、つけなくてもいいか。

 どっちも美味しくて、どっちもよいってことで。

 テレビをつけ、ちまちまと刺身をつつき、焼酎ソーダを挟みつつ、二人で画面にツッコミを入れる。

 そんなふうに過ごしていたら、気づけば日が傾いていた。


「さくらんぼ食べる?」

「鮮魚に果物、ゴージャスだねえ」

「用意しちゃうよ」


 凛音はキッチンに戻る。

 どっちがキッチン作業をするかは完全に適当なので、凛音を小間使いにしているわけではない。断じてない。


「どうぞ。私も半分食べるよ」

「うん、いただきます!」


 二人でさくらんぼにぱくつく。

 甘みが濃くて、たまらなく美味しい。

 口の中で果肉をそぎ取り、種を皿にぺっと吐き出すのを繰り返す。


「さくらんぼも食べ納めかなあ」

「今度はスイカとか食べようか?」

「うん。まあ、実際、果物ならなんでも好きだからね」

「知ってる」

「はは」


 いい休日になりそうだ。

 次は鮮魚コーナーで、どんな魚に出会えるだろう。


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