Episode 2 アナグマ作家、高梨鈴というオンナ
高梨鈴。作家。28歳。ニホンアナグマの女のケモノ。身長は158cm。1年以上付き合っている彼女がいる。
私の簡素なプロフィールといえば、こんなものだろう。
どこにでもいるようで、どこにもいない変人? 自問自答してみるが、人と比べることなどくだらないことだ、とすぐにその考えは霧散する。
0時を過ぎ、実家で晩酌をしていた。
恋人からのメッセージは途絶えてしまった。
もう寝てしまったのだろうか。彼女は規則正しい生活を強いられるOLだから、仕方がない。
納得はしつつも、一抹の寂しさはなかったことにはできない。
私は追撃するほどの重い女ではない。明日の朝、返事があることを期待して、今日も執筆活動を進めよう。
今は『小説家になりませんか?』というサイトに投稿しながら、ロイヤルな英語圏のサイトにも英語版を並行して投稿している。『なりませんか?』を先行して投稿し、読者の反応を見て微調整。英語力は皆無なので、AIをガチガチのプロンプトで縛りながら翻訳作業を行っている、というカタチになる。
フリーの作家として活動しているが、どこで生活費を捻出しているのかというと、パトロンサイトである。小説の先読みや、自作の挿絵、うっふーんなコンテンツを見られる代わりに、サブスクに入ってもらうというシステムだ。
「絵も描けてシナリオも書けるって、ずるくないですか?」と元職場の後輩には言われたが、自分では器用貧乏な気もしている。元職場で散々イラストのプロを見てきたので、自分は所詮アマチュアレベルに過ぎないと認識している。小説も、出版社に声をかけてもらったことなどない。ただ、持てる才能を振り絞って、なんとかできる範囲でマネタイズしているだけだ。
そもそも、うっふーんなコンテンツを売りにしている時点でちょっぴり恥ずかしいし、子供にお見せできるとはとても言えません。
ふう、さて。
私の恋人、盃凛音との話でもしてみようか?
ハイイロオオカミのケモノ。背が高く、非常に美しい。25歳、ゲーム会社勤務のOL。私にはもったいないくらいの超優良物件な彼女だ。背も、158cmの私と違って175cmもある。さらに、ぽっちゃりした私と違い、スリムでモデルのような体型。
出会いは行きつけのバーから。
なんと、元カレからの紹介である。
これには全人類びっくり。
元カレとは単なる友人関係に戻っており、「新しい友達だよ」と紹介されただけだ。
しかし、なんというか、元カレが「紹介しなきゃよかった」と後悔するくらい、あれよあれよという間に私たちは付き合うことになった。
最初はどちらからだったか?
私がシーシャ屋でヤニクラして、「助けてー」なんてメッセージを送ったところからだった気がする。
今思うと最低のメッセージだ。
彼女は彼女で「ガールズバーにいるから、終わったら行くよ」と、微妙なメッセージを返してきていたが。
女二人、寂しく飲んでいたところ、なんとなくそうやってシーシャ屋で顔を突き合わせた。その時に話したことなど覚えてはいない。
何度も居酒屋で飲み交わす仲になるまで、そう時間はかからなかった。お互い酒は好き、夜の街は好き。趣味もそこそこ合う。
なんせ、当時は二人ともゲーム業界にいた。
運命かとも一瞬思ったことはある。
ただ、職種自体はかすりもしていない。彼女は比較的何でも屋、私は職人気質のデザイナー。
特に同じ職種だと、それが原因で喧嘩することもあるなんて聞く。
ある意味、多少ズレていてよかったのかもしれない。
私は今、収入が不安定なため半ば実家に身を寄せている。
実家は山の上にあり、凛音の家は駅前だ。おまけに凛音の実家は都道府県をまたいだ遠方にある。週末の今、凛音は実家に帰ってしまっている。
両親と非常に仲が良いのだ。女の恋人がいるよと言っても、何一つ変なことを言われなかったらしい。といっても、うちの両親も似たようなものだ。
同性愛への理解もまだ過渡期にある今、つくづく親族にはお互い恵まれたものだ。
とはいえ、彼女は月に1、2回は実家に帰ってしまう。
ご両親に対して密かに小さな嫉妬をすることは、仕方ないことだと思う。
彼女曰く、元カノには両親に頻繁に会うことをボロクソに言われたらしい。
私はまだ、いい彼女だと思いたい。嫉妬はしても、表に出すほどじゃないし。
我慢しているというほどでもない。
本当に、むーんと唸るレベルのかるーい嫉妬なのだ。
嫉妬はスパイスとも言うだろう。
あれ、ネトラレ界隈の言葉だっけ、これは。
ちょっと我らには関係なかったかな。
そうして、執筆を進めたり、考えを巡らせたりしながら過ごしていれば、1時間ほど経っていた。
まあ、凛音は寝てるのだろう。
スマホで凛音フォルダをぽちぽち開いて、執筆の傍ら横目で見る。
うん、いつ見ても顔も何もかも良い。
ついつい惚気の心持ちになってしまう。
当の凛音曰く、私はすごく可愛いらしいが。
アバタもエクボなんて言うからな。
両親に大層可愛がられて育ったので、「私なんか」なんて謙遜しすぎるつもりもないが。
なんせ私は今、ケモ生で一番太っているのだ。
作家として活動を始めてから、やはり来たか、運動不足。
元々リモートワークだったが、実家に身を寄せるようになってそれは加速した。
身体活動量は急激に減った。
そんなわけで今日はいつもよりたくさん外出し、お酒も控えめに。
お腹が空いたら赤身のお刺身にぱくついて、なるべく満足度とカロリーの塩梅を考えてみた次第。
このことについては凛音にメッセージを送ったら、「しんぱいだよー」とすぐに返ってきたことを記しておく。
凛音のしんぱいのメッセージを反芻してニヤつきつつ、深夜、親も寝てしまったあとのリビングでカツオのたたきを一人つつく。
生姜とポン酢でシンプルな味わいだ。
ぐいと焼酎ソーダをあおると非常によく合う。
カツオの血っぽい香りってなんでこんなに美味しいのだろう。
生魚の血なまぐささは、気分じゃないときに嗅ぐと一気に食欲が減退するものだが。
今はその時ではないらしい。
非常に食欲をそそる。色も香りも。
ちなみに焼酎は黒糖焼酎、ソーダはライムの香り付きがマスト。
さて、今日書けることといえば、ここまでだろうか?
私や凛音についてのアレコレ、詳しい話はまた次回、ということで。




