第四話 最後の任務
第三章、第四話です。
今回は、澪が母・千鶴に関するさらに古い記録へ触れることになります。
そして、玄夜が隠そうとした出来事の輪郭が少しずつ見え始めます。
藤ヶ宮家もまた、過去の異変へ関わっていた。
その事実が分かってから、澪は今まで以上に記録を読み進めるようになっていた。
母のことを知りたい。
その気持ちは変わらない。
けれど今は、それだけではなかった。
何故玄夜は記録を封じたのか。
何故藤ヶ宮家が関わっていたのか。
そして。
今起きている異変と、どう繋がっているのか。
その答えを知りたかった。
◇
書庫の窓から差し込む陽光の中。
澪は一冊の古い記録を開いていた。
藤ヶ宮家の任務記録。
年代順に整理されたものだ。
頁をめくる。
結界補修。
封印支援。
瘴気浄化。
母の名前は何度も現れた。
そして。
ある頁で手が止まる。
『藤ヶ宮千鶴』
『特別任務参加』
『東雲玄夜同行』
澪は思わず息を呑んだ。
また玄夜の名前だ。
だが今までとは違う。
その記録には続きがあった。
『旧西部封印施設』
『調査任務』
澪の瞳が揺れる。
旧西部封印施設。
それは。
「旧結界管理区画……?」
名称は違う。
だが場所は一致していた。
中央区画での異変に関係していた場所。
澪は急いで続きを読む。
しかし。
そこで記録は終わっていた。
次の頁が存在しない。
切り取られているのだ。
「また……」
思わず呟く。
何故ここだけ。
何故いつも肝心な部分が残っていないのか。
◇
「その先を知りたいですかな」
老術師だった。
いつの間にか近くに立っている。
澪は少し困ったように笑った。
「顔に出ていますか」
「ええ」
老術師も穏やかに笑う。
そして記録へ視線を落とした。
「その任務は有名でした」
澪が顔を上げる。
「ご存じなのですか」
「詳しい内容までは」
老術師は首を横へ振った。
「ですが、大規模な調査だったと聞いております」
そして少しだけ声を落とした。
「当時、多くの術師が動員されました」
「そんなに……?」
「ええ」
澪は記録を見る。
ただの調査ではない。
それは確かだった。
「何があったのでしょう」
老術師は静かに目を伏せる。
「それを知るために、玄夜様も記録を残されたのでしょうな」
その言葉が妙に心へ残った。
◇
夕刻。
澪は中庭を歩いていた。
考え事を整理したかった。
旧西部封印施設。
玄夜。
千鶴。
そして現在の異変。
もう、そうとしか思えなかった。
その時、ふわり、と。
花弁が舞う。
澪は立ち止まった。
花弁は風に流されるのではなく。
一方向へ集まっていく。
池のほとり。
そこへ降り立った。
「……?」
近づく。
すると。
水面へ映る自分の姿が揺れた。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけだった。
そこに映ったのは澪ではない。
見知らぬ女性だった。
長い黒髪。
穏やかな微笑み。
優しい瞳。
「母様……?」
思わず声が漏れる。
だが。
次の瞬間には消えていた。
残ったのは静かな水面だけ。
澪は胸元を押さえる。
今のは何だったのだろう。
幻だったのか。
それとも。
何かの記憶だったのか。
◇
同じ頃。
朔夜は榊と共に資料を確認していた。
「見つかりました」
榊が差し出したのは新たな調査報告だった。
朔夜は目を通す。
そして。
ある一文で手が止まる。
『旧西部封印施設調査参加者一覧』
その中には。
東雲玄夜。
藤ヶ宮千鶴。
そして。
複数の術師たちの名前が並んでいた。
だが。
一番下に書かれた文字を見て、朔夜の表情が変わる。
「……これは」
榊も頷く。
「私も驚きました」
そこには。
『調査後、一部記録封印』
と記されていた。
そしてさらに。
『関係者以外閲覧禁止』
という赤文字。
東雲家の正式記録で、この扱いは異例だった。
「祖父は何を見た」
朔夜が静かに呟く。
榊も答えられない。
だが一つだけ確かなことがある。
二十五年前。
旧西部封印施設で何かが起きた。
そしてその出来事は。
今なお終わっていない。
第三章、第四話を読んでくださりありがとうございました。
今回は、千鶴と玄夜が最後に参加した任務について触れる回でした。
少しずつ、
・旧西部封印施設
・封じられた記録
・二十五年前の異変
が繋がり始めています。
次回は、その任務に参加していた別の人物の記録から、新たな手掛かりが見つかります。
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