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黒焔に咲く薄桜  作者: 日ノ澤しの
第三章 藤に眠る春

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第四話 切り取られた理由



第三章、第三話です。


今回は、玄夜が残した記録の続きを追う中で、「なぜ記録が抜き取られていたのか」という疑問へ近づいていきます。




 玄夜と千鶴。


 二人が同じ任務へ参加していた。


 その事実を知ってから、澪は何度も記録を読み返していた。


 母のことを知りたい。


 その想いは日に日に強くなっている。


 けれど同時に、新たな疑問も生まれていた。


 玄夜は何を知っていたのか。


 そして何故、あの記録は切り取られていたのか。


 答えはまだ見つからない。


 だが。


 確実にその近くまで来ている気がした。


     ◇


 その日の午後。


 澪は書庫の奥で資料を整理していた。


 老術師に頼まれたわけではない。


 ただ、自分でも探してみたかった。


 藤ヶ宮家。


 千鶴。


 玄夜。


 その三つに関する記録を。


「……あ」


 棚の隅に、一冊だけ薄い冊子が挟まっていた。


 表紙は色褪せている。


 題名もほとんど読めない。


 だが。


 開いた瞬間、澪の目が止まった。


『異変調査報告』


 その文字に見覚えがあった。


 数日前に見つけた、切り取られた記録。


 それと同じ時期のものだ。


 澪は慎重に頁をめくる。


 そこには瘴気発生地点や調査内容が細かく記されていた。


 そして。


 ある一文で手が止まる。


『玄夜様の指示により一部記録を封印』


 澪は目を見開いた。


 「封印……?」


切り取られたのではない。


 玄夜自身の指示だった。


 思わず続きを読む。


 だが肝心な理由は書かれていない。


 代わりに残されたいたのは一言だけだった。


『時期尚早』


 それだけ。


 何が。


 誰に対して。


 何一つ分からない。


 それでも。


 澪は妙な違和感を覚えた。


 玄夜は隠したかったのではない。


 守ろうとしていた。


 そんな印象だった。


     ◇


「面白いものを見つけましたな」


 振り返る。


 老術師が立っていた。


 澪は冊子を見せる。


「玄夜様が封印を指示したと書かれています。


 老術師は静かに頷いた。


「そうでしょうな」


 まるで予想していたような反応だった。


「ご存じだったのですか?」


「詳しくは知りません」


 老術師は正直に答える。


「ですが、玄夜様は何かを隠すために動く方ではありませんでした」


 澪はその言葉に引っかかる。


 自分も同じことを感じていたからだ。


「守るため……でしょうか」


 老術師は少しだけ目を細めた。


「その可能性はあります」


 そして。


 小さく付け加える。


「玄夜様は最後まで、多くのものを背負っておられましたから」


 澪は冊子へ視線を落とした。


 玄夜。


 母。


 そして今の異変。


 少しずつ繋がっている。


 けれど。


 まだ肝心な部分が見えない。


     ◇


 その夜。


 朔夜は執務室で調査資料を読んでいた。


 机の上には藤ヶ宮家に関する記録が積まれている。


 その中の一枚へ視線が止まった。


『異変発生』


『封印措置完了』


『玄夜立会い』


 ここまでは既知の内容。


 だが。


 その下に小さな追記があった。


『藤ヶ宮家協力』


 朔夜の瞳が細められる。


 やはりそうだ。


 玄夜だけではない。


 藤ヶ宮家も関わっていた。


 それも深く。


「祖父……」


 静かに呟く。


 何を残そうとしていたのか。


 何を伝えたかったのか。


 その時。


 窓の外から風が吹いた。


 ふわり、と。


 一枚の薄桜色の花弁が舞い込む。


 朔夜は思わず苦笑した。


「またお前か」


 花弁は机の上へ落ちる。


 その先には。


 藤ヶ宮家の資料。


 まるで。


 そちらを見ろと言うように。


 朔夜は静かに資料へ視線を戻した。


 真実はまだ遠い。


 だが。


 確実に近づいている。


 そんな予感がしていた。





第三章、第三話を読んでくださり、ありがとうございました。


今回は、切り取られた記録が玄夜自身の指示によって封印されていた可能性が示されました。


玄夜は何を守ろうとしていたのか。


そして藤ヶ宮家は何に関わっていたのか。


次回は、さらに古い記録の中から、千鶴が関わった最後の任務について触れていきます。


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