第五話 残された証言
第三章、第五話です。
今回は、二十五年前の調査へ参加していた人物の記録から、新たな手掛かりが見つかります。
旧西部封印施設。
千鶴と玄夜。
そして封じられた記録。
澪の中で、それらは日に日に大きな存在になっていた。
母が関わった最後の任務。
玄夜が隠したかった出来事。
その先に、今起きている異変の答えがある気がしてならない。
だが。
肝心な部分だけが失われている。
まるで誰かが意図的に消したように。
◇
その日の午後。
澪は再び書庫を訪れていた。
最近では、書庫の方が自室より落ち着くほどだった。
古い紙の匂い。
静かな空気。
そして母へ繋がる記録。
その全てが、澪を自然とここへ向かわせる。
「澪様」
老術師が棚の整理をしながら声を掛けた。
「何かお探しですかな」
「旧西部封印施設について書かれた資料を」
老術師は少し考える。
そして。
「でしたら、こちらかもしれませんな」
そう言って一冊の手帳を取り出した。
厚くはない。
個人の日誌のようだった。
「これは?」
「当時の術師が残した記録です」
澪は目を瞬かせる。
「読んでも良いのですか」
「東雲家の保管物ですので」
老術師は微笑んだ。
「構いませんとも」
◇
手帳は思った以上に読みやすかった。
任務の様子。
術師たちの日常。
調査内容。
断片的ではあるが、当時の空気が伝わってくる。
そして。
ある日の記述で手が止まった。
『本日、玄夜様と藤ヶ宮殿が到着』
澪の呼吸が僅かに止まる。
藤ヶ宮殿。
おそらく千鶴のことだ。
さらに読み進める。
『封印施設地下の調査開始』
『瘴気反応あり』
『原因不明』
以前の調査で見つかった記録と酷似していた。
そして。
次の頁。
『藤ヶ宮殿の結界が異常反応を示す』
澪は目を見開く。
結界。
だが、それ以上の記述はない。
理由も。
結界も。
何も。
ただ、その後に一文だけ残されていた。
『玄夜様の表情が変わった』
それだけだった。
「どういうこと……?」
澪は思わず呟く。
何が起きたのか。
何を見たのか。
その術師は書いていない。
だが。
そこから筆跡が乱れている。
何かが起きたのは間違いなかった。
◇
夕方。
その話はすぐに朔夜と榊の耳にも入った。
執務室。
机の上には写しが置かれている。
「結界の異常反応、ですか」
榊が静かに呟く。
朔夜は資料を見つめたままだった。
「祖父が反応した理由は」
「まだ分かりません」
榊も首を振る。
だが。
二人とも同じことを考えていた。
千鶴の結界。
地下施設。
封印。
今回の異変。
偶然とは思えない。
「続きは」
朔夜が尋ねる。
「ありません」
榊は静かに答えた。
「そこから先の記録が失われています」
まただ。
肝心な部分だけが残っていない。
朔夜はゆっくり目を閉じた。
玄夜が封じたのか。
別の誰かが消したのか。
まだ分からない。
だが。
確実に核心へ近づいている。
◇
その夜。
澪は自室で手帳の写しを読み返していた。
『藤ヶ宮殿の結界が異常反応を示す』
その一文が頭から離れない。
母は何を見たのだろう。
何に反応したのだろう。
その時だった。
ふわり、と。
花弁が舞う。
澪は顔を上げる。
花弁は静かに揺れながら、机の上へ降りた。
そして。
手帳の上で止まる。
「……?」
次の瞬間。
澪の脳裏に映像が流れ込んだ。
暗い地下通路。
灯りを持つ術師たち。
その先を歩く玄夜。
そして。
振り返る千鶴。
何かを見つけたような表情。
驚きと。
戸惑いと。
そして。
微かな悲しみ。
その感情だけが、はっきり伝わってきた。
「母様……」
映像はすぐに消える。
だが。
今までとは違った。
ただ見るだけではない。
感情が伝わってきた。
澪は胸元を押さえる。
鼓動が速い。
そして初めて思った。
もしかすると。
自分の力は、過去の記憶へ触れているのかもしれないと。
第三章、第五話を読んでくださり、ありがとうございました。
今回は、二十五年前の調査へ参加した術師の日誌から新たな手掛かりが見つかりました。
そして澪の力にも少しずつ変化が現れています。
今後は、
・千鶴が地下施設で見たもの
・玄夜が記録を封じた理由
・澪の力の正体
へ少しずつ迫っていきます。
次回は、澪が見た「感情を伴う記憶」の続きを追っていきます。
少しでも楽しんでいただけましたら、
● ブックマーク
● 評価
● 感想
などいただけると励みになります。




