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黒焔に咲く薄桜  作者: 日ノ澤しの
第二章 宵を裂く禍

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第十八話 春を待つ封印



第二章最終話です


ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。


第二章では、


・藤ヶ宮という名前

・玄夜の遺した記録

・中央区画の異変


を中心に描いていました。


そして今回、第三章へ繋がる大きな転機が訪れます。




 地下空間へ舞い落ちた薄桜色の花弁。


 それを見つめたまま、禍は動きを止めていた。


『……さくら』


 掠れた声が響く。


 先ほどまで暴れていた瘴気が僅かに静まる。


 朔夜は黒焔を構えたまま目を細めた。


 異常だった。


 禍が言葉を発するだけでもあり得ない。


 それなのに。


 今、この禍は花弁へ反応している。


 まるで。


 誰かを思い出したかのように。


『さくら……』


 禍の胸元が光る。


 黒い瘴気の中心。


 そこに埋もれていた何かが姿を見せ始めた。


「朔夜様」


 榊の声が低くなる。


「あれは……」


 朔夜も見ていた。


 瘴気の奥。


 光るもの。


 それは石だった。


 掌ほどの大きさの白い石。


 だが。


 ただの石ではない。


 術式が刻まれている。


 そして。


 その術式は今まで見たことのないものだった。


『……かえ、して』


 禍が呟く。


 その声に、術師たちが息を呑む。


『かえして』


 再び。


 悲痛な声だった。


 怒りではない。


 憎しみでもない。


 失ったものを求める声。


 その瞬間。


 朔夜の脳裏に玄夜の記録が蘇る。


『始まりは結界の綻びに非ず』


 あの言葉。


 玄夜は何を知っていたのか。


 そして。


 何を隠したのか。


 朔夜は静かに黒焔を握り直した。


「榊」


「はい」


「あの核を破壊する」


 榊が頷く。


 今の状態なら分かる。


 あの石こそが中心だ。


 あれを放置すれば、異変は終わらない。


 次の瞬間。


 黒焔が燃え上がった。


 轟音。


 黒い炎が地下空間を裂く。


 禍が咆哮する。


 だが。


 その声にはどこか悲しみが混じっていた。


「終わらせる」


 朔夜が踏み込む。


 黒焔が核を貫いた。


 そして。


 白い石が砕ける。


 眩い光が地下空間を包み込んだ。


     ◇


 同じ頃。


 東雲家。


 澪は自室で立ち尽くしていた。


 花弁が舞う。


 優しく。


 静かに。


 まるで長い役目を終えたみたいに。


「……母様」


 何故そう思ったのかは分からない。


 だが。


 あの地下で見た女性。


 残された手紙。


 そして今の花弁。


 全てが繋がった気がした。


 すると。


 ふわり、と。


 一枚の花弁が澪の掌へ落ちる。


 その瞬間。


 知らない光景が脳裏を過った。


 古い建物。


 大勢の術師。


 若い玄夜。


 そして。


 黒髪の女性。


 その女性が振り返る。


 優しく微笑む。


 澪は思わず息を呑んだ。


「……母様」


 けれど。


 次の瞬間には消えていた。


 残ったのは涙だけだった。


     ◇


 地下空間。瘴気が晴れていく。


 禍は消滅していた。


 残ったのは砕けた石の欠片だけ。


 術師たちが安堵の息を吐く。


 だが。


 朔夜だけは違った。


 石の欠片を拾い上げる。


 そこには僅かに文字が残っていた。


『藤ヶーー』


 途中で途切れている。


 だが。


 それだけで十分だった。


 榊もそれを見る。


 そして静かに言った。


「やはり……」


「ああ」


 偶然ではない。


 藤ヶ宮家は関わっている。


 玄夜の記録も。


 封印も。


 今回の異変も。


 全て。


 どこかで繋がっている。


 だが。


 まだ足りない。


 真実へ辿り着くには。


 あまりにも。


     ◇


 三日後。


 皇都は平穏を取り戻していた。


 中央区買うの異変も終息したと発表される。


 人々は安堵し。


 街は再び日常を取り戻し始める。


 だが。


 東雲家では違った。


 朔夜は机の上の資料を見つめる。


 玄夜の記録。


 切り取られた頁。


 砕けた石。


 そして。


 藤ヶ宮家。


 その時。


 扉が叩かれた。


「失礼いたします」


 榊だった。


「どうした」


「調査結果がまとまりました」


 榊は一通の資料を差し出す。


 朔夜は目を通す。


 そして。


 僅かに目を見開いた。


「……これは」


「はい」


 榊も頷く。


「藤ヶ宮家に関する記録です」


 静寂が落ちる。


 ついに。


 失われていた過去へ繋がる扉が開こうとしていた。





第二章『宵を裂く禍』完結です。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


第二章では、


・澪の力の変化

・藤ヶ宮という名

・玄夜の残した記録

・中央区画の異変


を中心に描いてきました。


そして物語は次章より、


藤ヶ宮家の過去と真実へ踏み込んでいきます。


少しでも楽しんでいただけましたら、


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などいただけると励みになります。


第三章もどうぞよろしくお願いいたします。



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