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黒焔に咲く薄桜  作者: 日ノ澤しの
第二章 宵を裂く禍

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第十七話 藤を求めるもの



第二章、第十七話です。


今回は、地下で目覚めた禍との戦い、そして澪の見た幻影の続きとなります。





 禍が動いた。


 黒い瘴気をまき散らしながら、一瞬で朔夜との距離を詰める。


「朔夜様!」


 術師たちの叫びが響く。


 だが。


 朔夜は既に黒焔を振るっていた。


 轟、と。


 黒い炎が地下空間を照らす。


 禍の腕が焼かれる。


 しかし。


 次の瞬間には再生していた。


「再生が早いな」


 朔夜が低く呟く。


 普通の禍ではない。


 それは既に分かっている。


 だが。


 それ以上に異常なのは。


 この禍が何かを探していることだった。


『ふじ……』


 掠れた声。


 壊れた蓄音機のような音。


 それでも確かに言葉だった。


『ふじ……』


 禍は周囲を見回す。


 術師には興味がない。


 朔夜にも執着していない。


 ただ。


 何かを探している。


「榊」


 朔夜が視線を外さず言う。


「聞こえたな」


「ええ」


 榊も表情を険しくしていた。


 藤。


 偶然ではない。


 そう考えるには、ここまで符号が揃い過ぎている。


     ◇


 東雲家。


 澪はまだ自室で呼吸を整えていた。


 胸が苦しい。


 頭が痛い。


 けれど先ほどの映像は消えない。


 地下施設。


 古い封印。


 そして。


 黒髪の女性。


「母様……」


 何故見えたのだろう。


 何故あの場所にいたのだろう。


 分からない。


 だが。


 ただの幻ではない気がした。


 その時だった。


 ふわり、と。


 花弁が舞う。


 今までにないほど優しく。


 穏やかに。


 澪は目を見開いた。


 花弁が集まっていく。


 机の上へ。


 そして。


 一枚の紙の上で止まった。


「……?」


 それは千鶴が残した手紙だった。


『どうか、この國に春が訪れますように』


 短い祈り。


 その文字の上で花弁が揺れる。


 まるで。


 何かを伝えようとしているように。


     ◇


 地下施設。


 戦闘は続いていた。


 黒焔。


 結界術。


 封印術。


 術師たちが総力を尽くす。


 だが。


 禍は倒れない。


 いや。


 倒そうとしていない。


 まるで別の目的があるようだった。


『……ちがう』


 禍が呟く。


 術師たちが凍り付く。


『いない』


 また言葉を発した。


 理性などないはずなのに。


 まるで。


 失った何かを探しているみたいに。


 その時。


 禍の胸元が微かに光った。


 朔夜の瞳が細められる。


「……あれは」


 瘴気の奥。


 黒い塊の中心。


 そこに何かが埋まっている。


「榊」


「見えています」


 榊も気づいていた。


 あれは禍そのものではない。


 核だ。


 何か別のものが中心にある。


 その瞬間。


 禍が咆哮を上げた。


 地下施設が大きく揺れる。


 天井から石片が落ちる。


「まずい!」


 術師たちが叫ぶ。


 瘴気が一気に膨れ上がった。


 まるで。


 暴走しかけている。


 朔夜は黒焔を構える。


 そして。


 脳裏に浮かぶ。


 暴走した黒焔を鎮めた花弁。


 澪の姿。


「……澪」


 小さく名前を呼ぶ。


 その瞬間だった。


 ふわり、と。


 地下空間へ薄桜色の花弁が舞い落ちた。


 術師たちが目を見開く。


「花弁……?」


 あり得ない。


 ここは東雲家から遠く離れた地下だ。


 なのに。


 花弁は確かにそこにあった。


 そして。


 禍が動きを止める。


『……さくら』


 初めて。


 禍の声が変わった。


 苦しそうに。


 懐かしそうに。


 何かを思い出すように。


 朔夜の瞳が揺れる。


 禍は花弁を見つめている。


 まるで。


 遠い昔に失った何かを見るように。


 そして次の瞬間。


 禍の胸元の光が、さらに強く輝いた。





第二章、第十七話を読んでくださり、ありがとうございました。


第二章完結前の大きな転換点となる回でした。


地下で目覚めた禍は、「藤」だけではなく「さくら」という言葉まで口にしました。


そして澪の花弁は、遠く離れた地下へ届いています。


次回、第二章最終話。


地下に封じられていた存在の正体と、第三章へ繋がる新たな謎が描かれます。


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