第十六話 目覚める封印
第二章、十六話です。
第二章完結まで残り数話となりました。
今回は、旧結界管理区画の地下で起きた異変の続きとなります。
地下空間を轟音が揺らした。
封印陣の亀裂から噴き出した瘴気が、まるで生き物のように蠢く。
「全員下がれ!」
朔夜の声が響く。
術師たちは即座に距離をとった。
だが。
瘴気は止まらない。
黒い靄が地下空間を埋め尽くし、呼吸すら重くなる。
「こんな量の瘴気が封じられていたのか……!」
榊が歯を食いしばる。
異常だった。
普通の封印施設ではあり得ない。
まるで。
何かを長い年月閉じ込めていたかのような量だった。
その時。
封印陣の中心から、不気味な音が響いた。
ーーミシ。
石が割れる音。
いや。
違う。
何かが内側から押し広げている。
「朔夜様」
榊の声が低くなる。
朔夜も既に気づいていた。
封印は壊れたのではない。
中から破られようとしている。
◇
次の瞬間。
封印陣が砕け散った。
黒い瘴気が爆発する。
術師たちが結界を展開する。
「ぐっ……!」
「押さえろ!」
瘴気の圧力だけで足が沈む。
そして。
その中心で。
人形のようなものが立ち上がった。
誰も言葉を発せない。
それは禍だった。
だが。
今までの異形とは違う。
腕もある。
脚もある。
人の形に近い。
だからこそ不気味だった。
「……封印されていた禍か」
朔夜の瞳が細められる。
黒焔が燃え上がる。
すると。
禍がゆっくりと顔を上げた。
空洞のような瞳。
だが。
その視線は真っ直ぐ朔夜へ向いていた。
まるで。
最初から待っていたかのように。
◇
東雲家。
澪は膝をついていた。
苦しい。
息が上手く吸えない。
花弁が止まらない。
「澪様!」
使用人たちが駆け寄る。
だが。
澪には別の光景が見えていた。
地下
黒い瘴気。
燃え上がる黒焔。
そして。
封印の中心。
「……っ」
頭が痛い。
今までよりも鮮明だった。
まるで自分がその場にいるように。
その時だった。
視界の奥で何かが見えた。
古い石壁。
刻まれた紋様。
そして。
一人の女性の後ろ姿。
「え……」
長い黒髪。
柔らかな着物。
見たこともないはずなのに。
何故か分かった。
「母様……?」
思わず呟く。
その瞬間。
映像は消えた。
残ったのは激しい動悸だけ。
「今のは……」
幻覚だったのだろうか。
だが。
胸の奥では違うと告げていた。
◇
地下施設。
朔夜は禍と向き合っていた。
瘴気が渦を巻く。
禍は動かない。
ただ立っているだけ。
それなのに。
圧倒的な威圧感があった。
「妙ですね」
榊が呟く。
「ああ」
朔夜も感じていた。
この禍はおかしい。
襲ってこない。
まるで何かを探しているような。
その時だった。
禍がゆっくりと口を開く。
術師たちが身構える。
だが。
次に響いた言葉に全員が凍り付いた。
『……ふじ』
地下空間が静まり返る。
誰も動けない。
今。
禍が言葉を発した。
あり得ない。
禍は理性を持たない。
言葉など話さない。
なのに。
『ふじ……』
再び響く声。
掠れた。
壊れたような声。
それでも確かに聞こえた。
朔夜の瞳が細められる。
玄夜の記録。
切り取られた頁。
残された『藤』の文字。
全てが頭を過った。
そして。
禍はゆっくりと顔を上げる。
『……どこだ』
黒い瘴気が爆発する。
次の瞬間。
禍が動いた。
第二章、第十六話を読んでくださり、ありがとうございました。
今回は、旧結界管理区域の地下に封じられていた存在が姿を現しました。
そして初めて「藤」という言葉が禍自身の口から語られています。
次回から、過去と現在を繋ぐ真実へさらに近づいていきます。
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