第十四話 瘴気の向かう先
第二章、第十四話です。
今回は、中央区画で続く異変の調査が大きく進展します。
そして澪の力にも、新たな変化が訪れます。
中央区画の異変は収まるどころか、少しずつ広がっていた。
大規模な禍は現れない。
だが、小さな瘴気の発生が各地で確認されている。
それも不自然なほど規則的に。
東雲家の術師たちは連日調査に追われていた。
そして。
その日も朔夜は執務室で連日調査に追われていた。
「やはり同じか」
机の上には地図が広げられている。
赤い印がいくつも記されていた。
瘴気が発生した場所。
その一つ一つを線で結ぶ。
すると。
ある一点へ向かって収束していることが分かった。
「朔夜様」
榊が資料を持って入ってくる。
「追加の報告です」
朔夜は視線を上げる。
「どうだった」
「新たな発生地点が三ヶ所確認されました」
榊は地図へ印を付ける。
そして。
二人同時に沈黙した。
「……やはり」
「ああ」
収束地点は変わらない。
すべてが同じ方向を指している。
「旧結界管理区画です」
朔夜の目が細められた。
旧結界管理区画。
かつて皇都の結界管理施設が置かれていた場所。
現在は使用されていない。
数十年前に閉鎖されている。
「玄夜様の記録にも出ていました」
榊が静かに言う。
朔夜は頷いた。
偶然ではない。
そう確信し始めていた。
◇
一方。
澪は中庭で本を読んでいた。
だが内容は頭に入らない。
ここ数日。
胸の奥が落ち着かなかった。
花弁も同じだ。
風もないのに揺れる。
何かを探しているように。
何かを伝えようとしているように。
「どうしたのでしょう」
ぽつり、と呟く。
その時だった。
ふわり、と、花弁が舞い上がる。
今までよりも多い。
澪は驚いて立ち上がった。
「え……?」
花弁は空へ舞い上がり。
そして。
一斉に西の方角を向いた。
「西……?」
その瞬間。
胸がざわつく。
嫌な感覚ではない。
むしろ。
何かを見つけたような時の感覚だった。
花弁は揺れる。
まるで、そちらへ行けと言われるように。
◇
夕刻。
澪は縁側でそのこと朔夜へ話していた。
「西の方角?」
「あの時だけでしたが……」
朔夜は黙って聞いている。
そして。
机の上へ広げた地図へ視線を落とした。
西。
東雲家から見た西。
その方向にある場所は限られている。
やがて。
朔夜の指が一か所で止まった。
旧結界管理区画。
まさに調査対象となっている場所だった。
澪は気づいていない。
だが榊の表情が変わる。
「まさか……」
偶然だろうか。
それとも。
澪の力が何かを感じ取っているのか。
静かな沈黙が落ちた。
朔夜はしばらく考え込む。
そして静かに言った。
「明日、現地を調べる」
「現地ですか?」
澪が目を瞬かせる。
「ああ」
朔夜は地図を閉じる。
「この異変の中心かもしれない場所だ」
紫紺の瞳が細められる。
「答えがあるかもしれない」
◇
その夜。
誰もいない旧結界管理区画。
朽ちた建物。
崩れた石壁。
人の気配はない。
だが。
地下深く。
闇の中で何かが塞いでいた。
黒い瘴気。
濃密な闇。
そして。
古い封印の痕跡。
ひび割れた術式が微かに光る。
まるで。
長い眠りから目覚めようとしているように。
静かに。
確実に。
何かが動き始めていた。
第二章、第十四話を読んでくださり、ありがとうございました。
今回は、中央区画の異変が旧結界管理区画へ繋がることが判明しました。
また、澪の花弁も何かを感じ取っているようです。
第二章は残りわずか。
次回はいよいよ異変の中心地へ向かうことになります。
第三章へ繋がる大きな転換点も近づいています。
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