第十三話 繋がる過去
第二章、第十三話です。
第二章も終盤へ入りました。
今回は、玄夜が残した記録の続きを追う中で、過去と現在が少しずつ繋がり始めます。
切り取られた頁。
残された『宮』の一文字。
それは偶然なのだろうか。
澪は何度も考えていた。
けれど答えは出ない。
藤ヶ宮家のことを知らない自分には、推測すら難しかった。
それでも。
あの記録を見てから、胸の奥がざわついている。
まるで。
何か大切なものへ近づいているような感覚だった。
◇
翌朝。
澪は中庭にいた。
最近は考え事をする時、ここへ来ることが増えた。
春の風は穏やかで心地良い。
花々が揺れ、小鳥の声が聞こえる。
東雲家へ来る前なら考えられないほど穏やかな時間だった。
その時、ふわり、と。
薄桜色の花弁が舞う。
澪は思わず目を向けた。
「また……」
最近の花弁は不思議だった。
まるで意思を持つように動く。
花弁は風に逆らいながら、中庭の外へ流れていく。
「どこへ……」
澪は立ちあがる。
自然と後を追っていた。
◇
花弁が向かった先は、本邸の裏手だった。
普段あまり人の来ない場所。
古い石灯籠が並ぶ静かな庭園。
その奥で花弁はゆっくりと降りていく。
そして。
一つの石碑の前で止まった。
「これは……」
澪は足を止めた。
そこには東雲家歴代当主の名が刻まれている。
中央にある名前へ視線が向く。
『東雲玄夜』
澪は静かに見つめた。
最近何度も耳にする名前。
会ったことのない人。
けれど。
なぜだろう。
少しだけ親しみを感じていた。
「玄夜様……」
ぽつり、と呟く。
その瞬間。
ふわり、と花弁が舞い上がった。
まるで応えるみたいに。
◇
「こんなところにいたのか」
振り返る。
朔夜だった。
「朔夜様」
朔夜は石碑を見る。
そして小さく息を吐いた。
「祖父か」
その声音は穏やかだった。
澪は石碑へ視線を戻す。
「玄夜様は、どんな方だったのですか
以前も少し聞いた。
だが。
今日はもう少し知りたかった。
朔夜はしばらく黙る。
やがて静かに口を開いた。
「厳しい人だった」
それは老術師も言っていた。
だが朔夜は続ける。
「誰よりも東雲家を守ろうとした人だった」
風が吹く。
花弁が揺れる。
「だから皆が頼った」
「……」
「そして何もかも一人で背負った」
澪は黙って聞いていた。
どこか。
母と似ている気がした。
人を守ろうとするところが。
「祖父は最後まで答えを探していた」
朔夜が静かに言う。
「答え?」
「ああ」
紫紺の瞳が石碑へ向く。
「ある異変について」
澪の胸が少しだけ高鳴った。
中央区画。
玄夜の記録。
切り取られた頁。
全部が繋がる気がした。
「今と関係があるのですか」
朔夜は即答しなかった。
だが。
「似ている」
その一言で十分だった。
澪の背筋に冷たいものが走る。
やはり。
今起きていることは偶然ではない。
◇
その日の夕方。
榊は調査報告をまとめていた。
中央区画。
周辺地域。
瘴気の残滓。
そして新たな異常。
「増えている……」
小さく呟く。
確実に。
少しずつ。
禍の痕跡が広がっていた。
しかも不自然な形で。
まるで。
何かを探しているように。
その時だった。
机の上の資料へ視線が止まる。
そこには古い記録の写しがあった。
玄夜が残した報告書。
その中の一文。
『始まりは結界の綻びに非ず』
榊の目が細められる。
「まさか……」
嫌な予感がした。
もし玄夜の推測が正しかったのなら。
今起きている異変は。
禍そのものが原因ではない。
もっと別の何かだ。
窓の外を見る。
空は穏やかだった。
けれど。
嵐が近づいている。
そんな予感だけが消えなかった。
第二章、第十三話を読んでくださり、ありがとうございました。
今回は、玄夜という人物を通して、過去と現在の異変が少しずつ繋がり始める回でした。
第二章も終盤です。
次回以降、
・玄夜が負っていた真実
・中央区画の異変の正体
・澪の力の変化
がさらに物語を動かしていきます。
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