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黒焔に咲く薄桜  作者: 日ノ澤しの
第二章 宵を裂く禍

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第十話 薄桜が導くもの



第二章、第十話です。


今回は、澪の力に新たな変化が現れ始めます。


そして、中央区画の異変も少しずつその正体を見せ始めます。




 東雲家の庭で禍の痕跡が見つかってから二日。


 屋敷の空気は再び慌ただしくなっていた。


 術師たちは各地を調査し、中央区画周辺では小規模な禍の発生が続いている。


 だが、原因はまだ分からない。


 まるで見えない何かが裏で動いているようだった。


 澪は縁側に座りながら空を見上げる。


 春の青空。


 穏やかな日差し。


 本来なら心が落ち着く景色のはずだった。


 けれど胸の奥はざわついている。


「……まだ終わっていない」


 そう思った。


 根拠はない。


 だが、自分の花弁がそう告げている気がした。


 その時、ふわり、と。


 薄桜色の花弁が舞う。


 だが今回はいつものように舞うだけではなかった。


 花弁が一方向へ流れていく。


「……え?」


 澪は目を瞬かせた。


 風は吹いていない。


 それなのに花弁はまるで何かを目指すように進んでいく。


「どうして……」


 立ち上がる。


 花弁は止まらない。


 屋敷の奥へ。


 まるで何かを探しているように。


     ◇


 澪は花弁を追いかけていた。


 東雲家の本邸。


 普段あまり足を踏み入れない区域。


 花弁は迷うことなく進んでいく。


 そして。


 一つの蔵の前で止まった。


「ここ……?」


 東雲家の古い資料を保管している蔵だった。


 普段は滅多に開かれることはないという蔵。


 澪が首を傾げたその時。


「何をしている」


 背後から声がした。


「朔夜様」


 振り返ると朔夜が立っていた。


 紫紺の瞳が蔵と澪を見ている。


「花弁が……」


 澪は事情を説明した。


 朔夜は黙って聞いていたが、やがて蔵へ視線を向ける。


「入るか」


「え?」


「気になるのだろう」


 澪は少し迷った。


 花弁は今も蔵の前で揺れている。


 まるで中へ入れと言うみたいに。


「……はい」


     ◇


 蔵の中は薄暗かった。


 古い書物や記録が整然と並んでいる。


 長い年月の匂い。


 静かな空気。


 澪の花弁はさらに奥へ進んでいく。


 そして。


 一冊の古びた記録書の前で止まった。


「これ……?」


 澪は恐る恐る手に取る。


 表紙には古い文字が刻まれていた。


『歴代討禍記録』


 朔夜が僅かに眉を寄せる。


「東雲家の討伐記録か」


 澪は頁をめくる。


 歴代当主たちの討伐の記録。


 禍との戦い。


 黒焔。


 封印。


 そして。


 ある頁で手が止まった。


「……あ」


 そこには見覚えのある名前があった。


『東雲玄夜』


 朔夜の祖父。


 あの日、遺言を残した人物だ。


 澪は読み進める。


 そこには一つの記録が残されていた。


『大規模禍災発生』


『黒焔暴走』


『鎮静成功』


 澪の瞳が揺れる。


「鎮静……?」


 黒焔暴走。


 それは先日の出来事と同じだ。


 だが。


 記録の続きを見て、澪は息を呑んだ。


『協力者あり』


 その先は墨で塗り潰されていた。


「読めない……」


 誰かの名前があったはずだ。


 だが意図的に消されている。


 朔夜もそれに気づいた。


「妙だな」


 低く呟く。


 東雲家の正式記録であるはずなのに。


 まるで何かを隠しているようだった。


 ふわり、と。


 花弁が頁の上へ舞い降りる。


 淡い光。


 優しい温度。


 そして。


 一瞬だけ。


 消された文字の輪郭が浮かび上がった。


「っ……!」


 澪が目を見開く。


 だが。


 完全に読める前に光は消えた。


 残ったのは一文字だけ。


 藤。


 それだけだった。


 静寂が落ちる。


 朔夜の表情が僅かに変わる。


 澪はその文字を見つめた。


 藤。


 藤ヶ宮。


 偶然だろうか。


 それとも。


「……朔夜様」


「ああ」


 朔夜も同じことを考えていたらしい。


 紫紺の瞳が細められる。


「何かあるな」


 短い言葉。


 だが確信に近かった。


 澪は記録書を見つめる。


 母の名前を知ってから。


 少しずつ何かが繋がり始めている。


 まだ見えない。


 けれど確かに。


 その先にある真実に向かって。




第二章、第十話を読んでくださり、ありがとうございました。


今回は、澪の花弁が過去の記録へ導く回となりました。


そして初めて、


・黒焔暴走

・東雲家の過去

・藤という文字。


が同じ場所に現れました。


まだ全ては明かされませんが、第二章後半では少しずつ過去の因縁へ近づいていきます。


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