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黒焔に咲く薄桜  作者: 日ノ澤しの
第二章 宵を裂く禍

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第三話 黒焔の暴走



第二章、第三話です。


第三話では、”黒焔”の危うさと、”薄桜”について少しずつ明らかになっていきます。




 轟音が、夜の皇都を揺らした。


 巨大な禍が咆哮を上げる。


 黒い瘴気が渦を巻き、周囲の建物を軋ませていた。


「結界班、後退!」


「これ以上は持ちません!」


 術師たちの叫びが飛ぶ。


 中央区画は既に半壊状態だった。


 石畳は砕け、街灯は折れ、空気そのものが濁っている。


 その中心で。


 黒焔だけが、激しく燃えていた。


「ーーはァッ!!」


 朔夜の黒焔が禍を裂く。


 黒い炎が異形を呑み込み、巨大な腕を焼き落とした。


 だが。


 瘴気が濃すぎる。


 焼いても焼いても、禍が再生していく。


「朔夜様!」


 榊が焦った声を上げた。


「黒焔の出力が上がりすぎています!」


 朔夜は答えない。


 紫紺の瞳は、ただ目の前の禍だけを見据えている。


 その周囲では、黒い炎が不自然に揺らめいていた。


 ばち、ばち、と。


 空気を裂くような音が響く。


 瘴気を焼き過ぎている。


 このままでは。


「まずい……」


 榊の顔色が変わる。


「黒焔が暴走する」


     ◇


 東雲家。


 澪は廊下で立ち尽くしていた。


 胸が痛い。


 息が苦しい。


 薄桜色の花弁が止まらない。


 今までとは違う。


 まるで、自分の感情ではない何かまで流れ込んできているみたいだった。


「……熱い」


 胸元を押さえる。


 黒焔の熱。


 怒り。


 焦燥。


 焼けるような感覚。


 それが澪の中へ流れ込んでくる。


 その瞬間。


 視界がまた揺れた。


「っーー」


 燃え盛る黒焔。


 崩れる建物。


 そして。


 苦しそうに眉を寄せる朔夜の姿。


「朔夜様……!」

 

 澪は思わず名を呼ぶ。


 すると。


 ばちり、と。


 空気が避ける音がした。


 東雲家の術師たちが顔色を変える。


「これは……!」


「黒焔の暴走だ!」


 澪の瞳が揺れた。


 暴走。


 その言葉と同時に、胸へ激しい痛みが走る。


 苦しい。


 まるで、自分まで焼かれているみたいに。


「澪様!」


 誰かが呼ぶ。


 だが澪は立っていられなかった。


 膝が崩れる。


 その瞬間。


 ふわり、と。


 大量の薄桜色の花弁が爆発するように広がった。


「……え」


 術師たちが目を見開く。


 花弁が、中央区画の方角へ流れていく。


 まるで、何かを止めようとするみたいに。


     ◇


 中央区画。


「朔夜様!!」


 榊の叫び声が響く。


 黒焔が制御を失い始めていた。


 轟々と燃え上がる炎。


 禍だけでなく、周囲の地面まで焼き始めている。


 術師たちは近づけない。


 黒焔は本来、禍を焼く炎だ。


 そして。


 東雲朔夜自身すらも。


 朔夜は禍を睨みながら、苦しげに息を吐く。


「……まだ、だ」


 黒焔が揺れる。


 視界が赤い。


 瘴気が精神へ入り込んでくる。


 飲まれる。


 このままでは。


 その時だった。


 ふわり、と。


 薄桜色の花弁が、夜の中を舞った。


 朔夜の瞳が揺れる。


「……澪」


 花弁は黒焔へ触れる。


 すると。


 暴れていた炎が、ぴたりと静まった。


 術師たちが息を呑む。


「黒焔が……」


「落ち着いた……?」


 あり得ない。


 黒焔暴走は、東雲家制御不能とされる現象だ。


 それを。


 たった一枚の花弁が鎮めた。


 朔夜は静かに目を見開く。


 花弁はまるで、”戻ってきて”と囁くみたいに優しく揺れていた。


 その瞬間。


 朔夜の胸へ、澪の声が蘇る。


『お気をつけてください』


『必ず戻ってきてほしい』


 ーー帰りを待っている。


 その感覚が、黒焔を現実へ引き戻した。


 朔夜はゆっくりと黒焔を握り直す。


 紫紺の瞳へ、静かな光が戻る。


「……終わらせる」


 次の瞬間。


 黒焔が夜を裂いた。


 先ほどまでとは違う。


 暴力的ではない。


 鋭く、静かな炎。


 黒い禍が断末魔を上げる。


 巨大な異形は、ついに崩れ落ちた。


     ◇


 東雲家。


 澪は床へ膝をついたまま、荒い息を繰り返していた。


 胸の痛みが少しずつ引いていく。


 同時に。


 遠くで、黒焔が静まった感覚がした。


「……朔夜様」


 薄桜色の花弁が、今度は穏やかに舞う。


 まるで。


 ”無事だった”と伝えるみたいに。





第二章、第三話を読んでくださり、ありがとうございました。


今回は、”黒焔暴走”と、それを沈める澪の薄桜の力を描きました。


まだ本人たちは知らないままですが、二人の力は少しずつ深く結びつき始めています。


次話では、討伐後の朔夜と、澪の力について東雲家内部でも動きが出始めます。


少しでも楽しんでいただけましたら、


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