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黒焔に咲く薄桜  作者: 日ノ澤しの
第二章 宵を裂く禍

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第二話 薄桜が視た黒焔



第二章、第二話です。


今回は、澪の力と朔夜の黒焔が、少しずつ”普通ではない形”で繋がり始めます。




 中央区画。


 そこは既に、澱んだ闇に覆われていた。


 瘴気が街を侵食している。


 赤黒い靄が空を濁し、石畳には黒い染みのようなものが広がっていた。


 一般人の避難はほぼ完了している。


 だが。


「討伐隊第三班、後退します!」


「負傷者二名!」


 現場は混乱していた。


 通常の禍ではない。


 異形が次々と形を変え、瘴気を撒き散らしている。


 黒い腕。


 歪な口。


 人の怨嗟を寄せ集めたような姿。


 術師たちの額には焦りが浮かんでいた。


 その中心。


 黒焔が夜を裂く。


 轟、と。


 黒い炎が禍を呑み込み、一瞬で焼き尽くす。


 東雲朔夜。


 その姿だけが、この場で唯一揺らいでいなかった。


「朔夜様!」


 榊が声を上げる。


「瘴気濃度が危険域を超えています!」


「分かっている」


 低い声。


 だが次の瞬間。


 ばちり、と。


 朔夜の黒焔が大きく揺れた。


「……っ」


 朔夜の眉が僅かに寄る。


 黒焔が重い。


 まるで瘴気そのものが、炎へ絡みついているみたいだった。


 異常だ。


 これほど黒焔が不安定になることは滅多にない。


「朔夜様、下がってください!」


「まだだ」


 黒焔が再び燃え上がる。


 禍が悲鳴のような声を上げた。


 だが。


 次の瞬間。


 瘴気の奥から、巨大な影が現れる。


 術師たちが息を呑んだ。


「まだ……いるのか」


 朔夜の紫紺の瞳が鋭く細まる。


 巨大な禍。


 今までのものとは明らかに格が違う。


 それはまるで、人々の絶望を集めて形にしたみたいだった。


     ◇


 一方、東雲家。


 澪は息を荒くしながら廊下を走っていた。


「澪様、お待ちください!」


 術師たちの制止が飛ぶ。


 だが澪は止まれなかった。


 胸が苦しい。


 ざわざわする。


 まるで、自分の中へ直接黒焔の熱が流れ込んでくるみたいだった。


「どうして……」


 花弁が止まらない。


 薄桜色の光が、澪の周囲を覆っている。


 不安。


 焦燥。


 苦しさ。


 感情が揺れるたび、術が漏れていく。


 その時だった。


 視界が、また揺れる。


「っ……!」


 澪は壁へ手をついた。


 脳裏へ流れ込んでくる。


 赤黒い空。


 燃え盛る黒焔。


 そして。


 黒い影へ向かう朔夜の背中。


「東雲様……!」


 これは本当に幻なのだろうか。


 それとも。


 澪は震える指先を握りしめた。


 自分は今、”見ている”。


 遠く離れた場所を。


 朔夜の黒焔を。


 その瞬間。


 ふわり、と。


 花弁が一斉に窓の外へ流れた。


 まるで、導くように。


「……え」


 澪は息を呑む。


 花弁は皇都中央部の方角へ向かっている。


 その時。


 廊下の奥から、低い声が響いた。


「何をしている」


 澪が振り返る。


 そこには、東雲家の老術師が立っていた。


 白髪の混じる髪。


 鋭い眼差し。


 東雲家でも古参の術師だ。


 澪は慌てて頭を下げる。


「申し訳ありません……」


 だが老術師は、澪を見たまま動かなかった。


「……薄桜」


 ぽつり、と呟く。


 澪は目を細めた。


「え……?」


 老術師の表情が僅かに変わる。


 驚き。


 そして。


 どこか、懐かしむような色。


「まさか、本当に……」


「……あの」


 澪が戸惑っていると、老術師ははっとしたように口を閉ざした。


「いや、今はよい」


 そう言って視線を逸らす。


 だが。


 その目は明らかに、”何か”を知っていた。


     ◇


 同じ頃。


 中央区画では、巨大な禍が咆哮を上げていた。


 黒い瘴気が夜空を覆う。


 術師たちが吹き飛ばされる。


 朔夜は黒焔を抱えたまま、その中心を睨んでいた。


 次の瞬間。


 ぞわり、と。


 黒焔が揺れる。


 朔夜の瞳が僅かに見開かれた。


「……花弁?」


 黒い炎の中へ、淡い薄桜色が混ざる。


 柔らかな光。


 静かな温度。


 それは確かに、澪の術だった。


 遠く離れているはずなのに。


 どうして。


 だが、その瞬間。


 暴れかけていた黒焔が、静かに落ち着いた。


 瘴気の浸食が弱まる。


 朔夜は目を細めた。


 そして、初めて確信する。


 澪の力は、ただの結界術ではない。


 これはーー。


「朔夜様!!」


 榊の声が飛ぶ。


 巨大な禍が目前まで迫っていた。


 朔夜は黒焔を振り上げる。


 その炎の奥で、薄桜色の花弁が静かに揺れていた。





第二章、第二話を読んでくださり、ありがとうございました。


今回は、澪と朔夜の力が少しずつ”繋がり始める”描写を中心に進めました。


そして、東雲家の中にも、澪の力について何か知っている人物が現れ始めています。


第二章では、澪自身にもまだわからない力へ踏み込んでいきます。


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