第一話 黒焔が向かう先
第二章開始です。
第一章では、澪と朔夜が少しずつ互いの存在を知っていく姿を描きました。
第二章からは、”禍”と”黒焔”を中心に、二人を取り巻く世界が大きく動き始めます。
夜の皇都は、不気味なほど静かだった。
風が止まっている。
空気が重い。
まるで街そのものが息を潜めているみたいだった。
黒塗りの自動車が石畳を駆け抜ける。
その車内で、朔夜は静かに窓の外を見ていた。
「……中央区画ですか」
榊が低く呟く。
「ああ」
短い返事。
けれど、その紫紺の瞳は鋭く細められていた。
中央区画は皇都の中心。
華族が拠点とする建物や官庁も、白菊宮も近い。
もし本当に大規模な禍が発生しているなら、被害は計り知れない。
「観測班の話では、禍の反応が突然膨れ上がったようです」
「自然発生ではないな」
朔夜が淡々と答える。
普通の禍なら、ここまで急激に膨れ上がることはない。
榊も同じことを考えているのだろう。
車内には重い沈黙が落ちた。
やがて。
窓の外に、赤黒い空が見え始める。
禍の瘴気だ。
街灯の光すら濁らせるほど濃い。
「これは……」
榊が息を呑む。
朔夜は静かに目を細めた。
「討伐隊を先行させろ。一般人を中央区画から離脱させる」
「ですが朔夜様、規模が大きすぎます。単独へ前へ出るのはーー」
「時間がない」
低い声。
有無を言わせない響きだった。
◇
一方その頃。
東雲家では、澪が一人、自室で落ち着かずにいた。
静かすぎる。
嫌な空気が、ずっと胸の奥をざわつかせている。
「……朔夜様」
小さく名を呼ぶ。
あの人は今、危険な場所へ向かっている。
”必ず戻る”。
そう言ってくれた。
それなのに。
どうしてこんなに不安なのだろう。
澪は窓の外を見る。
遠くの空が赤黒く染まっていた。
今まで見た禍の気配とは違う。
重い。
冷たい。
胸が苦しくなる。
その時だった。
ばちり、と。
空気が揺れる。
「……っ!」
澪の肩が震えた。
薄桜色の花弁が、突然部屋中へ舞い始める。
今までにない量だった。
「どうして……」
花弁が落ち着かないみたいに揺れている。
まるで。
”何か”を警戒しているように。
すると、廊下の向こうから慌ただしい足音が聞こえた。
「澪様!」
榊ではない。
東雲家の術師の一人だった。
顔色が悪い。
「中央区画の禍が拡大しています!」
澪は息を呑む。
「東雲様は……?」
「現在討伐中です。ですが禍の規模が異常で……」
その瞬間。
ぞわり、と。
澪の背筋を冷たい感覚が走った。
嫌な予感。
胸が締めつけられる。
同時に、花弁がさらに強く舞い上がった。
「澪様……?」
術師が目を見開く。
薄桜色の光が、部屋全体へ広がっていく。
澪自身にも止められない。
「……嫌」
ぽつり、と零れた声。
「東雲様が……」
苦しい。
胸が痛い。
まるで、遠くの黒焔が揺らいでいるみたいに。
その瞬間。
澪の視界へ、一瞬だけ黒い炎が映った。
そして。
その中心で、膝をつく朔夜の姿。
「っーー!!」
澪は反射的に立ち上がった。
「澪様!?」
術師が慌てて声を上げる。
だが澪の耳には届いていなかった。
今のは何だったのか。
幻覚?
それとも。
「東雲様……!」
花弁が激しく舞う。
まるで、”行かなければ”と訴えるみたいに。
そして澪はまだ知らない。
自分の力が”黒焔”と深く結びつき始めていることを。
第二章開幕です。
ここから少しずつ、”禍”や”黒焔”の危険性、そして澪の力について踏み込んでいきます。
第一章よりも少しシリアスさが増していきますが、その中でも澪と朔夜の関係性を丁寧に描いていけたらと思っています。
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第二章も、どうぞよろしくお願いいたします。




