第三話 映っているもの
動画は、順調に伸び続けていた。
二本目、三本目も数字は落ちない。
むしろ、最初の一本をきっかけに、チャンネル全体が底上げされている感覚すらあった。
「完全に流れ来てるな……」
編集を終え、アップロードボタンを押す。
手慣れた動作。
無駄がない。
画面に表示される進捗バーを見ながら、スマホを手に取る。
――通知。
コメント。
高評価。
登録者。
全部が、増え続けている。
違和感に気づいたのは、その日の夜だった。
ベッドに寝転びながら、何気なく最新の動画のコメント欄を開く。
スクロール。
スクロール。
――止まる。
「……ん?」
同じような言葉が、並んでいた。
《後ろに何か映ってない?》
《黒い影みたいなのいるよな》
《編集で入れてる?》
《怖いんだけどこれ》
「……は?」
眉をひそめる。
もう一度、スクロールする。
似たようなコメントばかりだ。
動画の内容じゃない。
リンクの検証でもない。
全部――
“後ろに映っている何か”の話。
「……なんだよそれ」
軽く笑う。
ドッキリか何かだと思った。
コメント欄が盛り上がるためのノリ。
よくあるやつ。
「いや、でも……」
違和感が残る。
数が多すぎる。
同じ内容のコメントが、あまりにも揃いすぎている。
偶然とは思えない。
「……一応、見るか」
動画を開く。
再生。
――はいどうも、レンです。
いつも通りの自分が、画面の中で喋っている。
問題ない。
そのまま視線を少し後ろにずらす。
部屋の奥。
壁。
いつもと同じ配置。
……のはずだった。
「……は?」
思わず、声が漏れる。
そこに、いた。
――三人。
スーツ姿の男女。
年齢も、性別も、はっきりしない。
ただ、全員が無表情で立っている。
カメラの外、ほんの少し後ろ。
自分の背後に。
ずっと。
「……なんだこれ」
巻き戻す。
もう一度。
再生。
やっぱり、いる。
動かない。
喋らない。
ただ、そこに立っている。
自分のすぐ後ろで。
ずっと。
「……こんなん、撮った覚えねえぞ」
編集段階でも、こんなものはなかった。
いや、もしあったら絶対に気づく。
こんな異物、見逃すはずがない。
なのに。
確かに映っている。
はっきりと。
コメント欄をもう一度開く。
スクロール。
《黒い影やばいって》
《普通に怖い》
《編集じゃないよなこれ》
《ずっと同じ場所にいる》
「……影?」
呟く。
違和感。
噛み合わない。
「いや、これ……人だろ」
画面を見ながら言う。
スーツを着た、三人の人間。
影なんかじゃない。
どう見ても――
「……は?」
その瞬間。
背筋に、冷たいものが走った。
もう一度、画面を見る。
三人は、やはりそこにいる。
変わらない。
無表情で。
自分の後ろに立っている。
――なのに。
コメント欄には、誰一人として“人”とは書いていない。
全員が、同じ言葉を使っている。
“黒い影”
「……なんでだよ」
喉が乾く。
嫌な感覚が、じわじわと広がっていく。
理解が追いつかない。
でも、分かることが一つだけあった。
これは、ただのノリじゃない。
ドッキリでもない。
編集ミスでもない。
――何かがおかしい。
確実に。
自分の知らないところで。
動画は、今も再生され続けている。
数字は、伸び続けている。
コメントも、増え続けている。
そのほとんどが、同じ内容。
“影”について。
ただ一人だけ。
違うコメントがあった。
スクロールの中で、ふと目に止まる。
――「ちゃんと見えてるよ」
その一文だけが、妙に鮮明に頭に残る。
誰に向けた言葉なのか。
分からない。
でも。
その瞬間。
動画の中の“三人”が。
ほんの僅かに――
こちらを見た気がした。




