第二話 増えていく数字
動画は、止まらなかった。
投稿から一日。
再生数は、すでに五万を超えている。
「……バグってんのかこれ」
笑いながら、何度も画面を更新する。
増える。
また増える。
指を離した瞬間にも、数字が伸びていく。
コメントの数も、異常だった。
通知が鳴り止まない。
「これ、完全に波来てるな」
スマホを握る手に力が入る。
こんな感覚、初めてだった。
――“見られている”。
それだけで、こんなにも気分が高揚するなんて。
「はいどうも、レンです」
カメラの前に座る。
いつもより少しだけ姿勢を正して、少しだけ声のトーンを上げる。
「昨日の動画、めっちゃ伸びててマジでびびってます」
軽く笑う。
自然と表情も柔らかくなる。
「見てくれた人、本当にありがとうございます」
頭を下げる。
けど、すぐに顔を上げた。
――この流れ、逃したくない。
「で、今日はその続きというか。あのリンク、もうちょい深掘りしていこうと思います」
次の企画。
次の動画。
次の“伸び”。
頭の中は、それでいっぱいだった。
撮影は順調だった。
言葉も詰まらない。
カメラの前での動きも、どこか自然になっている。
むしろ今までより、上手くなっている気さえした。
「……いい感じだな」
自分の声を、モニターで聞く。
悪くない。
いや、むしろ良い。
これなら、もっといける。
もっと伸びる。
休憩の合間に、スマホを確認する。
登録者数。
――さらに増えている。
「やば……」
思わず声が漏れる。
昨日までとは、明らかに違う。
数字が“跳ねている”。
これがバズか。
これが、上に行くってことか。
「……楽しいな」
ぽつりと呟く。
誰に聞かせるでもなく。
ただ、自然と口から出た言葉だった。
その日は、結局三本撮った。
全部、勢いのまま。
ネタも、構成も、細かいことは後回し。
今はとにかく、“流れ”に乗ることが大事だ。
「毎日投稿、いけるかもな」
笑いながら、カメラの電源を落とす。
体は少し疲れているはずなのに、不思議と軽い。
むしろ、まだ足りないくらいだった。
もっと撮れる。
もっとやれる。
もっと――見られる。
夜。
部屋の電気を落とす。
ベッドに倒れ込む。
スマホの画面だけが、暗闇の中で光っている。
再生数。
登録者。
コメント。
全部が、増え続けている。
スクロール。
スクロール。
スクロール。
止まらない。
止めたくない。
この感覚を、ずっと味わっていたかった。
ふと。
画面に映る自分の顔が目に入る。
インカメラの反射。
暗闇の中で、ぼんやりと浮かぶ自分。
――笑っている。
やっぱり、少しだけ。
大きく。
歪んだ笑みで。
「……最高だな」
小さく呟く。
その言葉に、迷いはなかった。
その背後。
部屋の隅。
光の届かない場所に――
スーツの影が、立っていた。
顔は、見えない。
輪郭も、曖昧。
ただ、そこに“いる”という事実だけが存在している。
男は、何も気づかない。
スマホの画面を見続けている。
数字だけを追いかけている。
影は、動かない。
ただ、じっと。
その様子を“観察していた”。




