表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喰い譚-感情を喰う者-  作者: かさ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/24

最終話 怒喰い

音は、戻らなかった。



世界は、


切り離されたまま、


止まっている。



男だけが、


そこに立っていた。



そして、


“それ”も。



背後にあるはずの“それ”は、


すでに境界を失っていた。



外なのか、


内なのか、


分からない。



ただ、


そこにある。



男は、


ゆっくりと息を吸う。



何も聞こえない。



何も感じない。



なのに、


一つだけ分かる。



“それ”は、


自分の中にあった。



ずっと前から。



押し込めてきたもの。



飲み込んできたもの。



言えなかったもの。



怒れなかった、


すべて。



それが、


形を持っている。



男の口元が、


わずかに歪む。



笑っている。



だが、


その笑みは、


もう人間のものではなかった。



そのとき、


喉が、


ひくりと震えた。



「――っざけんなよ」



声が、


漏れる。



小さく。



だが、


止まらない。



「なんで俺が」



歯が、


軋む。



「全部、俺がやってたやろが」



呼吸が、


乱れる。



「なんで、あいつが」



視界が、


歪む。



「なんで俺が責められてんねん」



言葉が、


止まらない。



抑えていたはずのものが、


一気に溢れ出す。



顔が、


歪む。



笑っているのか、


怒っているのか、


分からない。



その瞬間。



何かが、


弾けた。



音は、


なかった。



だが、


“世界が割れた”感覚だけがあった。



“それ”が、


動く。



男の体に、


ゆっくりと重なっていく。



背中から。



腕から。



胸から。



侵食する。



溶ける。



境界が、


消える。



男の思考が、


ほどけていく。



名前が、


曖昧になる。



記憶が、


崩れていく。



怒りだけが、


残る。



黒く、


濃く、


歪んだ感情だけが。



男は、


気づく。



いや、


気づいたのかすら、


分からない。



自分が、


“どちら側”なのか。



分からなくなる。



人間なのか。



“それ”なのか。



境界は、


すでに、


消えていた。



その瞬間。



“男だったもの”の中で、


何かが、


完全に切り替わる。



音が、


わずかに戻る。



会議室。



誰も、


何も気づいていない。



上司が、


何かを言っている。



部下が、


下を向いている。



すべて、


さっきまでと同じ光景。



ただ一つ、


違うことがあった。



そこに、


“男”はいなかった。



立っているのは、


同じ姿をした、


別の何かだった。



それは、


ゆっくりと、


顔を上げる。



目は、


黒かった。



底のない、


黒。



視線の先で、


三人が、


静かに見ている。



スーツの男。


若い女。


老婆。



何も言わない。



ただ、


見ている。



それで、


十分だった。



“それ”は、


理解する。



――次は、


誰だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ