表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/100

第95話 凱旋の宴

 バイザック侯爵家の屋敷は、夜とは思えないほど明るかった。


 巨大なシャンデリア。


 磨き上げられた床。


 豪華な料理が並ぶ長机。


 本日は、ロータス子爵事件解決の労いの宴。


 招かれているのは——。


 焚火の旅団。


 黒狼の牙。


 風見鷹。


 そして冒険者ギルド関係者たち。


 普段、貴族の屋敷など無縁な冒険者たちは少し落ち着かない様子だった。


「すげぇな……」


 黒狼の牙のリーダーが天井を見上げる。


 風見鷹のリーダーも苦笑する。


「場違い感が半端ねぇ」


 リーナは普段着ないドレス姿で肩を動かした。


「うぅ……息苦しい……」


 アステアがチラリと目を向ける。


「似合ってるぞ」


「うるさい」


 その横では、セレナが楽しそうに料理を見ていた。


「わぁ……美味しそうです」


 レオンは静かに周囲を見ている。


 だが。


 そんな焚火の旅団へ、次々と貴族たちが近づいてきていた。


「君がレオン君か」


「若いのに素晴らしい実績だ」


「バルディア以外で活動する予定は?」


「ぜひ今後とも繋がりを——」


 完全に囲い込みだった。


 成長株。


 若手有望冒険者。


 しかも侯爵家と繋がりを持った。


 放っておく理由がない。


 レオンは少し困ったように視線を逸らす。


 黒狼の牙のリーダーが小声で笑った。


「完全に目ぇ付けられてんな」


 その時だった。


 ホール入口近くで声が上がる。


「バイザック侯爵家ご当主、ご入場いたします」


 一瞬でホールが静まり返る。


 全員の視線が階段へ向いた。


 まず現れたのは、アルベルト・バイザック侯爵。


 堂々とした姿。


 その後ろには長女、ルシェリア。


 続いて次女、マリアベル。


 そして最後に——。


 マリーナ。


 薄い青を基調としたドレス。


 長い銀髪。


 静かに階段を降りてくる。


 その瞬間。


 だれもがマリーナの姿に心を奪われる。


 ホールの空気が変わった。


「……マリーナ様ってあんなにお美しかったか?」


「しかもモルガン湖を凍らせらしい……」


「ロータス子爵の魔法師団を一人で壊滅させたらしい」


「噂では氷姫と……」


「無能ではなかったのか……?」


 小さなざわめきが広がる。


 畏怖。


 驚き。


 そして賞賛。


 以前とは全く違う視線だった。


 マリーナは少しだけ緊張したように肩を縮める。


 その横で、ルシェリアとマリアベルはニコニコしていた。


 アルベルトは真っ直ぐ前を向いたまま歩いている。


 だが。


 その表情はどこか誇らしげだった。


 やがて階段を降り切る。


 アルベルトがホール全体を見渡した。


「焚火の旅団、並びに黒狼の牙、風見鷹、そして冒険者ギルドの皆様」


 低く響く声。


「此度の奴隷商壊滅、大義であった」


 一拍。


「本日は、ゆっくり羽を伸ばしてくれ」


 拍手が響く。


 宴が始まった。



---


 宴が始まる少し前。


 バイザック侯爵家の屋敷、その一室。


 コンコン——。


 小さなノックの音が響く。


「どうぞ〜」


 中から聞こえてきたのは、どこか楽しそうな声。


 マリーナがそっと扉を開けた。


 部屋の中には次女のマリアベルがいた。


 鏡台の前で髪を整えている。


 マリアベルが振り向いた。


「あら?」


「どうしたの、マリーナ?」


 マリーナは少しだけ視線を逸らす。


 落ち着かない様子。


「お姉様……」


「私のドレス、変じゃないですか?」


 一瞬。


 マリアベルがきょとんとした顔になる。


「……え?」


 マリーナはさらに続けた。


「メイクとか……大丈夫ですか?」


 その瞬間。


 マリアベルの肩が小さく震えた。


「……ふふっ」


 笑いを堪える声。


 そして。


「あはははっ!」


「お、お姉様!?」


 マリーナが顔を赤くする。


 マリアベルは涙を浮かべながら笑っていた。


「だって……!」


「あなたがそんな事を気にする日が来るなんて思わなかったんだもの!」


 以前のマリーナなら。


 ドレスも。


 化粧も。


 社交界も。


 全て“義務”だった。


 でも今は違う。


 マリアベルはすぐに優しい笑みに変わる。


「可愛いわね、マリーナ」


 マリーナがさらに顔を赤くした。


「からかわないでくださいませ……」


 マリアベルは立ち上がる。


「ほら、中にいらっしゃい」


 マリーナの手を引く。


「今日はお姉ちゃんが、とびっきり可愛くしてあげるわ」


 その言葉に、マリーナが少しだけ嬉しそうに笑った。


 しばらくして。


 部屋の中では、姉妹の賑やかな声が続いていた。


「お姉様、引っ張りすぎです!」


「じっとしてなさい」


「この髪飾りの方がいいわね〜」


「そ、それは派手すぎません!?」


 廊下を通ったメイドたちが、小さく笑う。


 以前では考えられない光景だった。


 やがて。


 準備を終えたマリーナが鏡を見る。


 そこに映っていたのは。


 “出来損ない”と呼ばれていた少女ではない。


 前を向く、一人の令嬢だった。




---


 賑やかな音楽がホールへ響いていた。


 貴族たちの談笑。


 料理を運ぶメイドたち。


 笑い声。


 豪華な宴は最高潮へ向かっている。


 その中で、焚火の旅団は少し居心地悪そうだった。


 特にレオン。


 次々と貴族に話しかけられている。


「ぜひ今後は良い関係を——」


「私の領地で活動する予定は?」


「娘の護衛依頼なども——」


 完全に囲まれていた。


 レオンは困ったように視線を逸らす。


 その横で、リーナがニヤニヤしている。


「人気者じゃない」


「助けろ」


「やだ」


 アステアが笑いを堪えていた。


 その時だった。


 ホール入口側からざわめきが広がる。


 全員の視線が自然と向く。


 そこには。


 マリーナが立っていた。


 薄青のドレス。


 銀髪をまとめた髪飾り。


 以前より柔らかな表情。


 一瞬、ホールの空気が止まる。


「……綺麗」


 誰かが思わず呟いた。


「マリーナ様、お美しい……」


「まるで氷の妖精みたい……」


 声が広がっていく。


 マリーナは少し気恥ずかしそうに視線を逸らした。


 その後ろでは、ルシェリアとマリアベルがニコニコしている。


 完全に楽しんでいた。


 マリーナはそのまま焚火の旅団の元へ歩いてくる。


 リーナが真っ先に反応した。


「うわ、めちゃくちゃ綺麗じゃない」


 セレナも嬉しそうに頷く。


「本当に素敵です!」


 マリーナが少し照れながら礼をする。


「ありがとうございます」


 そして。


 ゆっくりレオンを見る。


 一瞬だけ視線が合った。


 マリーナが少し不安そうに口を開く。


「……レオン様、どうですか?」


 周囲が少し静かになる。


 リーナがニヤニヤしている。


 アステアは面白そうに見ていた。


 レオンはマリーナを見て、短く答える。


「凄く綺麗だ」


 一瞬。


 マリーナが目を見開く。


 そして。


 頬を赤く染めながら、小さく笑った。


「……ありがとうございます」


 その笑顔は、今までで一番自然だった。



---


 宴も終盤へ差しかかった頃。


 アルベルトが再びホール中央へ姿を見せた。


 自然と周囲が静まる。


 アルベルトは焚火の旅団へ視線を向けた。


「レオン君、少しいいかな」


 レオンたちが前へ出る。


 黒狼の牙と風見鷹も興味深そうに見ていた。


 アルベルトは静かに続ける。


「今回の件、バイザック侯爵家として正式に各、パーティーに礼をしたい」


 一人の執事が前へ出る。


 手には小さな箱。


 アルベルトがそれを受け取り、レオンへ差し出した。


「まず、焚火の旅団への報酬だ」


 レオンが箱を開ける。


 中には一本の鍵。


 そして一枚の書類。


 リーナが首を傾げる。


「……鍵?」


 アルベルトが説明する。


「西区にある旧別宅だ」


「元々は侯爵家関係者が使用していた建物でな」


「今は空き家になっている」


 一拍。


「焚火の旅団へ譲渡する」


 一瞬静まり返る。


 リーナが固まった。


「……え?」


 アステアも目を丸くする。


「拠点ってことか?」


 アルベルトが頷いた。


「馬車も置ける」


「庭もある」


「好きに使ってくれて構わない」


 リーナが鍵を見ながら呆然と呟く。


「……マジ?」


 黒狼の牙のリーダーが吹き出した。


「すげぇ報酬だなおい」


 風見鷹のリーダーも笑う。


「完全に一流冒険者扱いじゃねぇか」


 アステアがレオンを見る。


「楽しみだな」


 リーナが笑う。


「まず家を見に行きましょう」


 周囲からも笑い声が漏れた。


 その時。


 マリーナが少し遠慮がちに口を開く。


「……あの」


 全員が視線を向ける。


 マリーナは少しだけ照れながら言った。


「遊びに行っても……よろしいですか?」


 一瞬静かになる。


 そして。


 リーナがニヤッと笑った。


「いつでも来なさいよ、氷姫」


「も、もうその呼び方やめてください!」


 ホールに笑い声が広がった。


 レオンは静かに鍵を見る。


 宿ではない。


 借り部屋でもない。


 自分たちの場所。


 焚火の旅団は、また一歩前へ進んだのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。

評価や感想もとても励みになります!


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ