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食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


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第94話 凱旋

 バルディアの城門が見えてきた。


 長かった遠征。


 ようやく帰ってきた。


 先頭を進む、焚火の旅団の馬車。


 その後ろには複数の馬車が続いている。


 さらに周囲を囲む冒険者たち。


 いつもの帰還とは明らかに違う光景だった。


 城門の衛兵たちが騒ぎ始める。


「お、おい……なんだあの数」


「護送馬車か?」


 さらに。


 後方にいる拘束された兵士たちと魔法師団。


 ただ事ではない。


 門が慌ただしく開かれる。


 一行はそのままバルディアの街へ入っていった。


 街の人々も足を止める。


「何があったんだ?」


「また大規模依頼か……?」


「すごい馬車の数だぞ」


 ざわめきが広がる。


 だが。


 まだ詳細を知る者はいない。


 マリーナも静かに周囲を見ていた。


 ほんの少し前まで。


 自分は馬車の窓からしか、この街を見ていなかった。


 今は違う。


 同じ景色なのに、どこか新鮮に見えた。


 やがて。


 一行はギルドへ到着する。


 馬車が止まった。


 レオンが先に降りる。


「各リーダーの2人も来てくれ」


 黒狼の牙のリーダーと風見鷹のリーダーを呼ぶ。


 そのままギルドの扉を開け、中へ入った。


 受付の女性が顔を上げる。


 そして。


 目を見開いた。


「レオンさん!?」


 レオンは短く告げる。


「緊急依頼の報告を頼む」


 一瞬静まり返る。


 だが次の瞬間。


 ギルド内が一気に慌ただしくなった。


「ギルド長を呼べ!」


「会議室を空けろ!」


「至急だ!!」


 職員たちが走り回る。


 ギルド内の冒険者たちもざわつき始めていた。


 受付嬢が慌てて頭を下げる。


「レオンさん、ギルド長の部屋までお願いします!」


 レオンは頷く。


 後ろを見る。


 黒狼の牙のリーダー。


 風見鷹のリーダー。


 二人も無言で頷いた。


 三人はそのままギルド長の部屋へ向かう。


 長い廊下。


 重い扉の前へ到着する。


 職員が扉を開けた。


「お入りください」


 三人は静かに部屋へ足を踏み入れた。


 ギルド長の部屋。


 重い扉が閉まる。


 中にはギンがいた。


 ギンが三人を見る。


 レオン。


 黒狼の牙のリーダー。


 風見鷹のリーダー。


 そして静かに口を開いた。


「……ご苦労だった」


 短い言葉。


 だが本心だった。


 レオンたちは椅子へ座る。


 すぐに報告が始まった。


 ロータス子爵。


 奴隷売買。


 証拠品。


 地下牢。


 魔法師団。


 モルガン湖での戦闘。


 全てを順番に説明していく。


 机の上に証拠品が運ばれてくる。


 帳簿が並べられる。


 契約書。


 売買記録。


 ギンが一枚一枚確認していく。


 その表情が徐々に険しくなった。


「……想像以上だな」


 風見鷹のリーダーが苦笑する。


「正直、途中までは負けてましたよ」


 黒狼の牙のリーダーも頷いた。


「完全に防衛側有利だった」


 モルガン湖。


 平原。


 城壁。


 魔法師団。


 まともに攻めれば死ぬ戦場だった。


 ギンがレオンを見る。


「どうやって突破した?」


 一瞬、部屋が静かになる。


 レオンは短く答えた。


「マリーナのおかげだ」


 黒狼の牙のリーダーが笑う。


「本当に助かった」


 風見鷹のリーダーも頷いた。


「最後のあれが無かったら全滅してたな」


 ギンが小さく息を吐く。


 報告書へ視線を落とす。


「功績は十分だ」


「正式に今回の緊急依頼成功として処理する」


 三人が頷く。


 そしてギンが続けた。


 視線が鋭くなる。


「これで奴隷商関連は終わりだ」


 全員理解していた。


 ここから先はギルドと貴族側の仕事になる。


 レオンが立ち上がる。


 報告は終わった。


 ギンが椅子へ深く座り直す。


「お前らは解散でいい」


「後は俺たちがやる」


 一拍。


「もう休め」


 少しだけ優しい声だった。


「後日、改めて連絡する」


 三人は頷き、部屋を後にする。


 ギルドの外。


 馬車の前では皆が待っていた。


 レオンが全員を見る。


「今日はこれで解散だ」


「後日、ギルドから呼び出しがあるそうだ」


 冒険者たちが頷く。


 その時。


 マリーナが一歩前へ出た。


 静かに全員を見渡す。


「今回の一件、お疲れ様でした」


 深く頭を下げる。


「バイザック侯爵家を代表しまして、お礼を申し上げます」


 一瞬静まり返る。


 黒狼の牙のリーダーが苦笑した。


「いやいや、お嬢のおかげだ」


 風見鷹のリーダーも笑う。


「本当に助かった」


 その横で、黒狼の牙の男がニヤッと笑う。


「氷姫様様だな」


 周囲が小さく笑った。


 マリーナが少し困ったように目を伏せる。


「や、やめてくださいまし……」


 だがその表情は、以前よりずっと柔らかかった。


 そしてマリーナはもう一度頭を下げる。


「後日、侯爵家からもお礼があると思いますので、ご連絡いたします」


 冒険者たちが手を振る。


「おう!」


「またな!」


「今度はもっと楽な依頼で頼む!」


 笑い声。


 そして。


 それぞれが帰路につき始める。


 長かった遠征が、ようやく終わった。



---


 夕暮れのバルディア。


 人通りの多い街道を、マリーナは一人で歩いていた。


 石畳。


 並ぶ店。


 行き交う人々。


 見慣れているはずの景色。


 だが。


 不思議と全てが新鮮に見えた。


 普段なら馬車に乗って通り過ぎる道。


 こうして歩くことなど、ほとんど無かった。


 子供たちの笑い声。


 店先から漂う焼き菓子の匂い。


 鍛冶屋の金属音。


 全部が耳へ入ってくる。


「……初めて歩いた気がしますわね」


 小さく呟く。


 少しだけ笑みが零れた。


 ただ町を歩いているだけで新しい発見がある。


 静かな北側の貴族通りを歩いていく。


 やがて、巨大な門が見えてくる。


 バイザック侯爵家。


 門番がマリーナへ気付いた。


「マリーナ様!?」


 慌てて姿勢を正す。


「お帰りなさいませ!」


 そしてすぐに続けた。


「ただいま馬車を——」


「大丈夫ですわ」


 マリーナが柔らかく遮る。


「このまま歩いていきますので」


 一瞬。


 門番が固まった。


 今まで。


 マリーナから直接声をかけられたことなど、一度も無かった。


 いつも馬車。


 いつも遠い存在。


 だが今は違う。


 マリーナは小さく微笑む。


「ご苦労さまです」


 門番の目が少し見開かれる。


 そして慌てて頭を下げた。


「か、かしこまりました!」


 横にいたもう一人の門番へ声を飛ばす。


「先に行って屋敷へ伝えろ!」


「マリーナ様がお戻りだ!」


 門が開く。


 マリーナは静かに屋敷への道を歩き始めた。


 夕陽が庭を赤く照らしている。


 懐かしい景色。


 だが。


 以前とは違って見えた。


 やがて屋敷へ到着する。


 入口では執事長を始め、複数のメイドたちが並んでいた。


「お帰りなさいませ、マリーナ様」


 綺麗に頭が下がる。


 マリーナも静かに頷いた。


「ただいま戻りました」


 一拍。


「お父様はどちらに?」


 執事長が少し驚いた表情を見せる。


 雰囲気が違う。


 以前のマリーナとは、まるで別人だった。


 その時。


 執事長の視線がマリーナの手へ止まる。


 握られている杖。


 青白い装飾。


 美しい杖。


 執事長の目が大きく見開かれた。


「……あれは」


 奥様の杖。


 懐かしい記憶が蘇る。


 マリーナが首を傾げた。


「どうかしましたか?」


 執事長はすぐに姿勢を正した。


「いえ……失礼いたしました」


「アルベルト様は自室におります」


 マリーナが頷く。


「では、身なりを整えたら向かうとお伝えください」


「かしこまりました」


 マリーナが屋敷の奥へ歩いていく。


 その後ろ姿を、執事長は静かに見送っていた。


 以前の少女ではない。


 今回の旅で、大きく成長した。


 執事長は小さく目を細める。


「……奥様」


 どこか嬉しそうに呟いた。



---


 コンコン——。


 静かなノックの音が響く。


 バイザック侯爵家当主、アルベルトの部屋。


 中から低い声が返ってきた。


「入れ」


 マリーナが扉を開ける。


 部屋の中へ静かに足を踏み入れた。


 アルベルトは机へ向かったまま書類を見ていた。


 だが。


 マリーナが入ってきた瞬間、その手が止まる。


「ロータス子爵、捕縛しました」


 静かな報告。


 アルベルトがゆっくり顔を上げる。


 そして。


 マリーナの姿を見る。


 以前とは違う空気。


 真っ直ぐな瞳。


 そして。


 その手に握られている杖。


 アルベルトの目が大きく見開かれた。


「……その杖は」


 立ち上がる。


 ゆっくりとマリーナの元へ歩いていく。


 そして。


 次の瞬間。


 強く抱きしめた。


「お、お父様!?」


 突然のことにマリーナが目を丸くする。


 アルベルトの身体は小さく震えていた。


「……すまなかった」


 低い声。


「お前には、辛い思いをさせていた」


 マリーナは一瞬驚いた顔をする。


 だが。


 すぐに柔らかく微笑んだ。


「いえ」


「ありがとうございました、お父様」


 アルベルトが目を見開く。


 マリーナは続ける。


「お父様とお母様のおかげで、私は今ここにいられます」


 一拍。


 アルベルトがゆっくりマリーナを見る。


 その目には涙が浮かんでいた。


「……そうか」


 声が少し震える。


「この短期間で、本当に成長したな」


 マリーナが嬉しそうに笑った。


「焚火の旅団のおかげです」


「この短期間で、沢山の事を知ることができました」


 一瞬、レオンたちとの旅を思い出す。


 野営。


 冒険者飯。


 戦い。


 笑い声。


 全部が温かかった。


「……とても楽しかったです」


 その笑顔を見た瞬間。


 アルベルトも小さく微笑む。


 今まで見せたことのない、優しい表情だった。


「……ずっと怖かった」


 マリーナが目を瞬かせる。


 アルベルトは小さく息を吐いた。


「お前を失うのが」


 短い言葉。


 だが。


 そこには父親としての想いが全て詰まっていた。


 マリーナは静かにアルベルトを見つめる。


 そして。


 小さく頷いた。


「マリーナはもう大丈夫ですわ」


 アルベルトがゆっくり身体を離す。


 アルベルトの目に涙が光る。


「では、夕食の時にゆっくり話を聞かせてくれ」


「はい」


 マリーナが嬉しそうに答える。


 やっと。


 本当の意味で。


 親子に戻れた気がした。


 部屋を出た後。


 アルベルトは静かに机へ視線を向けた。


 そこには一枚の肖像画。


 優しく微笑む妻の姿。


 アルベルトは小さく目を閉じる。


「……約束を守れたよ」


 静かな部屋に、その声だけが残った。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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次回もお楽しみに。

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