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食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


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第93話 帰還への旅路

 魔法師団との戦いから二日後。


 周辺は慌ただしく動いていた。


 地下牢にはロータス子爵を始め、使用人、兵士や魔法師団の生き残りたちが収容されている。


 逃亡者はなし。


 完全制圧を維持していた。


 その日の昼前。


 遠くから馬車の音が聞こえてくる。


 列をなして進んでくる護送馬車だった。


 先頭を歩いているのは風見鷹。


 隣町まで向かっていたパーティーが戻ってきたのだ。


 風見鷹のリーダーが大きく手を振る。


「連れてきたぞー!」


 後ろには複数の馬車。


 さらに護送用の兵士と見張り役の冒険者たち。


 レオンが確認しながら頷いた。


「十分だな」


 これなら三十人近い罪人を安全に運べる。


 後から来た冒険者たちも周囲を見て息を呑む。


 凍った湖。


 大地に残る氷。


 そして。


 未だ解けないヴァルツ・ロータスの氷像。


「……なんだこれ」


「本当に氷漬けになってる……」


 ざわめきが広がる。


 その視線が自然と一人へ向いた。


 マリーナ。


 本人は居心地悪そうに目を逸らす。


 黒狼の牙のリーダーがニヤニヤ笑う。


「よかったな、お嬢」


「やめてくださいまし……」


 マリーナが小さく抗議する。


 だが。


 護送隊の人員たちは完全に信じきれていない顔だった。


 本当にこの貴族令嬢が、あの戦場を凍らせたのかと。


 「そろそろ、罪人を運び出すから手伝ってくれ」


 アステアが声をかけ、護送隊が頷きながら別邸の中に入っていく。



---


 地下牢の扉が開く。


 ロータス子爵たちが連れ出されてくる。


 全員拘束済み。


 武器なし。


 抵抗もない。


 ロータス子爵は少しやつれて見えた。


 ヴァルツの氷像を見ても、もう何も言わない。


 ただ静かに馬車へ乗り込んでいく。




---


 護送馬車に人と証拠品を積み終わる。


 レオンが全体を見回した。


「よし、帰還するぞ」


 その言葉で空気が少し緩む。


 長かった遠征。


 ようやく終わりが見えてきていた。


 護送隊を加えた一行は、バルディアへ向けて帰還を始めていた。


 街道には複数の馬車が並ぶ。


 中央には罪人を乗せた護送馬車。


 周囲を冒険者たちと見張りの馬車で囲みながら進んでいた。


 レオンたちはいつもの馬車へ乗っている。


 御者席にはレオンとアステア。


 後ろにはリーナ、セレナ、マリーナが座っていた。


 レオンは空を見つめていた。


(やっと……奴隷事件が終わった)


 色々と開放された気分で少し清々しい気持ちでいた。


「ふっ、さすがに今回はキツかったな」 


 横からアステアがレオンを見ながら声をかけてくる。


「あぁ、でもマリーナのおかげで勝てた」


 アステアも頷き、馬車を走らせる。




---


 夕方、少し早いが一日目の野営の準備を始めていた。


 かなりの人数がいるので早めに、馬車を停めれる場所と見晴らしがいい所で野営の準備を始める。


 他の冒険者たちの視線が時折マリーナへ向く。


 以前とは違う。


 完全に“見る目”が変わっていた。


 風見鷹の弓兵が小声で呟く。


「しかし本当に凄かったな……」


 黒狼の牙の男も頷く。


「湖まで凍らせるとか意味分からんよな」


 別の冒険者が笑う。


「もう、二つ名は氷姫でいいだろ」


「確かに」


 そんな会話が聞こえてくる。


 マリーナは困ったように肩を縮めた。


「や、やめてくださいまし……」


 リーナがニヤニヤしながら横を見る。


「いいじゃない、氷姫」


「似合ってるわよ?」


 マリーナが顔を赤くする。


「リーナさんまで……!」


 セレナも小さく笑っていた。


 以前のような重苦しい空気はもうない。


 その時。


 野営の準備をしていた黒狼の牙の男が振り返る。


「でもよぉ」


 一拍。


「最初、初級魔法しか使えないって聞いた時は、正直どうなるかと思ったぜ」


 周囲の冒険者たちも苦笑する。


「分かる」


「完全にお飾り貴族だと思ってた」


 マリーナが少し目を伏せた。


 だが。


 黒狼の牙の男は続ける。


「けど、俺たちは命を救われた」


 風見鷹の男も頷く。


「むしろ感謝しきれないぐらいだ」


 マリーナは静かに胸元へ触れる。


 もうペンダントはない。


 だが。


 母の想いは、ちゃんと残っていた。


 その時。


 アステアが前を向いたまま呟く。


「まぁ、強くなっても中身はそのままだがな」


 リーナが吹き出す。


「確かに」


 マリーナが頬を膨らませた。


「なんですのそれは!」


 野営の空気は、以前よりずっと柔らかくなっていた。



---


 帰還を始めて数日。


 その日の夜も、一行は街道脇で野営をしていた。


 護送用の馬車は輪になるように止められ、周囲には見張りが配置されている。


 中央では焚き火が揺れていた。


 レオンはいつものように料理をしている。


 鍋から湯気が立ち上る。


 焼ける肉の音。


 香草の匂い。


 周囲へ食欲を刺激する香りが広がっていった。


 その横では、護送隊の人員たちが別の食事を準備している。


 硬いパン。


 干し肉。


 そして豆のスープ。


 簡素な遠征食だった。


 セレナがそちらを見て首を傾げる。


「そちらは……?」


 護送隊の男が苦笑した。


「普通の遠征飯ですよ」


 マリーナも目を瞬かせる。


「普通……?」


 その時。


 レオンが料理をお皿に盛り付けていた。


「できたぞ」


 セレナとマリーナが料理を見る。


 焼いた肉。


 温かいスープ。


 香草を使った炒め物。


 野営とは思えない食事だった。


 二人が口へ運ぶ。


 そして。


 固まった。


「……お、美味しい……!」


 セレナが目を丸くする。


 マリーナも驚きを隠せない。


「また、こんな料理を野営で作ったんですか!?」


 周囲の冒険者たちが笑った。


 黒狼の牙のリーダーが肩を竦める。


「ホントに、こんなの焚火の旅団だけだぞ」


 風見鷹のリーダーも頷く。


「普通はあっちな」


 護送隊の食事を指差す。


 硬いパン。


 干し肉。


 豆。


 セレナがそちらを見る。


「あれを……毎日ですか?」


 護送隊の男が苦笑する。


「朝昼晩、遠征は基本これですね」


 マリーナが静かに護送隊の食事を見る。


 そしてレオンの料理を見る。


「でしたら、なぜ皆さんこちらを食べませんの?」


 一瞬静かになる。


 次の瞬間。


 黒狼の牙のリーダーが吹き出した。


「そりゃ無理だ」


 風見鷹も笑う。


「バルディアの冒険者じゃねぇからな」


「レオンの飯覚えたら戻れなくなる」


 周囲が爆笑した。


 アステアが頷く。


「もう普通の遠征飯には戻れん」


 セレナが小さく笑う。


 マリーナも思わず吹き出した。


 その時。


 護送隊の男が静かに言う。


「でも実際、食事は大事なんですよ」


 空気が少し変わる。


「長旅だと、食えないだけで動けなくなる」


「疲れも抜けない」


「戦えなくなる」


 冒険者たちが静かに頷いた。


 レオンは何も言わず鍋をかき混ぜている。


 マリーナはその背中を見ていた。


 戦いだけじゃない。


 こういう所でも、皆を支えている。


 初めて知る冒険者の世界だった。



---


「すみません、少しだけ頂いてもよろしいですか?」


 マリーナは護送隊の男に尋ねた。


「いいですが、本当に大丈夫ですか?」


 男も少しためらいながらも聞き返した。


「すみません、私も頂いてもよろしいでしょうか?」


 セレナも興味があったようで、小さく手を挙げながらお願いをする。


「では、少し食べやすい大きさにします」


 護送隊の男がパンと干し肉を、食べやすい大きさに切ってくれた。


「ではこちらをどうぞ、食べる際は気を付けてくださいね」


 男はパンと干し肉と豆を、二人に渡しながらそう言った。


 二人は首をかしげながら食べ始める。


「まずは豆からね…………味がしないわ」


 マリーナが驚いた表情を見せる。


「では私は、干し肉を頂きますね」


 セレナが干し肉を口に入れる。


「…もぐ…もぐ…もぐ…もぐ……」


 水を口に含む。


「もぐ…もぐ…もぐ……」


 コクンッと喉が鳴った。


「凄く塩辛くて、硬くて食べづらいですね」


「じゃあ後はパンですわね」


 一口サイズのパンを二人とも口に入れる。


「…………」


 二人とも動きが止まる。


「噛めない……」


 マリーナが声を発した瞬間、ドッと笑い声が上がった。


「分かる、分かる、一番最初に冒険者が皆やる」


「かじりついて歯が欠けたやつもいたな」


 冒険者達は笑いながら話している。


「全く、だから気を付けてって言われたのよ、口に含んで唾液で柔らかくするのよ」


 リーナがやれやれと思いながら教えてあげる。


 マリーナとセレナは口の中でモゴモゴし、コクンッと喉が鳴った。


「……これを毎食なのですか?」


 セレナが尋ねる。


 周りの冒険者が全員、頷く。


 マリーナとセレナがレオンを見る。


「これは確かに戻れなくなりますわね」


 マリーナが引きつる顔でレオンに問いかける。


「美味いだろ、俺の飯」


 マリーナとセレナが顔を見合わせて、レオンに振り向きながら答えた。


「「もう戻れなくなりました!」」


 周りから笑い声が上がり、ゆらゆらと焚火が炎がゆらめいていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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次回もお楽しみに。

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