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食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


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第92話 氷姫の魔女

 静かだった。


 さっきまで魔法が飛び交っていた戦場とは思えない。


 モルガン湖から吹く風だけが、白く凍った大地を抜けていく。


 湖も凍結していた。


 白く。


 広く。


 そして、無数の氷像。


 魔法師団。


 ヴァルツ・ロータス。


 誰も動かない。


 冒険者たちも言葉を失っていた。


 黒狼の牙のリーダーが凍った湖を見る。


「……なんだよ、これ」


 風見鷹の男も呆然としていた。


「本当に人間か……?」


 セレナは胸へ手を当て、小さく息を吐く。


 助かった。


 そう実感していた。


 リーナは静かにマリーナを見る。


 いつもの高飛車な貴族じゃない。


 今、目の前にいるのは。


 戦場を凍らせた存在。


 その時だった。


 カラン——。


 金属音。


 生き残っていた魔法師の一人が杖を落とした。


 そのまま地面に崩れ落ちる。


 震える手。


 顔は青ざめている。


 そして。


 一人。


 また一人。


 武器を地面へ落としていく。


 剣。


 杖。


 槍。


 誰も戦おうとしない。


 完全に戦意を失っていた。


 兵士たちも同じだった。


 静かに武器を手放していく。


 レオンはその様子を見ながら、ゆっくり二刀を収めた。


「終わったな」


 短く呟く。


 レオンは振り返りマリーナに向かって歩き出す。


 マリーナはこちらに歩いてくるレオンを見つめている。


 一瞬、マリーナの意識がふらついた。


「っ……」


 魔力消耗。


 精神疲労。


 一気に押し寄せる。


 倒れそうになる身体を間一髪、レオンが支えた。


 マリーナが少し驚いた顔をする。


 レオンは何も言わない。


 マリーナが小さく息を吐いた。


「……私、ちゃんと戦えましたか?」


 不安そうな声。


 レオンは短く答える。


「ああ」


 それだけだった。


 だが。


 マリーナは少しだけ目を見開く。


 そして。


 小さく笑った。


 その時。


 ギギギギ……。


 重い音が響く。


 全員の視線が別荘へ向く。


 巨大な門が、ゆっくりと開き始めていた。



---


 巨大な門がゆっくり開いていく。


 凍った平原へ、冷たい風が吹き抜けた。


 門の奥から現れたのは、数人の兵士。


 そして中央。


 一人の男。


 ロータス子爵だった。


 豪華な外套。


 だがその顔は青白い。


 疲れ切っていた。


 その後ろにいた護衛たちも武器を持っている。


 だが。


 戦う目ではない。


 レオンたちが武器を構える。


 アステアが前へ出る。


 リーナも弓を引いた。


 緊張が走る。


 ロータス子爵はゆっくり歩き出した。


 凍った大地を踏みしめながら。


 そして。


 足が止まる。


 目の前。


 息子のヴァルツ・ロータスの氷像である。


 驚愕した表情のまま凍りついている。


 ロータス子爵の目が揺れた。


「ヴァ……ルツ……」


 震える声。


 ゆっくり近づく。


 氷像へ触れる。


 冷たい。


 本物だった。


 周囲を見渡す。


 氷像となった魔法師団。


 凍った湖。


 完全敗北。


 理解した。


 もう終わったのだと。


 ロータス子爵はゆっくり腰の剣を抜いた。


 レオンたちの空気が変わる。


 だが。


 子爵はその剣を地面へ投げ捨てた。


 カラン——。


 乾いた音が響く。


 後ろの護衛たちも次々と武器を落としていく。


 槍。


 剣。


 全て地面へ。


 そして。


 ロータス子爵が膝をついた。


「……降伏する」


 静かな声。


「もう……終わりだ」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。


「おおおおおおお!!」


 冒険者たちの勝ち鬨が響き渡った。


 黒狼の牙。


 風見鷹。


 焚火の旅団。


 全員が武器を掲げる。


 長かった戦い。


 その勝利だった。


 その中で。


 マリーナだけは静かにヴァルツの氷像を見ていた。


 風が吹く。


 青白い氷が、静かに陽の光を反射していた。



---


 戦闘は終わった。


 もう抵抗する者はいない。


 ロータス子爵は静かに立ち上がると、別荘の中へ案内を始めた。


 兵士たちも従う。


 完全に戦意を失っていた。


 レオンたちは警戒を解かず、その後を進む。


 別荘の中は豪華だった。


 だが。


 空気は重い。


 やがて大広間へ到着すると、ロータス子爵が口を開いた。


「証拠品は全て出す……」


 疲れ切った声だった。


 帳簿。


 契約書。


 隣国との取引記録。


 奴隷売買の資料。


 次々と机へ並べられていく。


 レオンが確認しながら頷いた。


「全部揃ってるな……」


 アステアも顔をしかめる。


「凄い量だな」


 さらに。


 ロータス子爵が地下への扉を指差した。


「地下牢だ……」


「そこへ全員を入れてくれ」


 レオンたちは地下へ向かった。


 石造りの牢屋。


 広い。


 そこへ兵士、魔法師団、生き残りの関係者たちを次々と入れていく。


 合計三十人ほど。


 武器は全て没収。


 牢の扉が閉まる。


 ガシャン——。


 ようやく完全制圧だった。


 地上へ戻ると、三つのパーティーが集まる。


 黒狼の牙。


 風見鷹。


 焚火の旅団。


「問題はここからだな」


 バルディアまで距離がある。


 三十人を連れて帰るのは現実的じゃない。


 しかも証拠品まである。


 風見鷹の男がため息を吐く。


「この人数を護送しながら戻るのは無理だぞ」


 黒狼の牙も頷いた。


「途中で逃げられても困るしな」


 その時。


 マリーナが前へ出た。


 まだ少し顔色は悪い。


 だが。


 声は落ち着いていた。


「ここから馬車で一日の距離に町がありますわ」


 全員の視線が向く。


 マリーナは続けた。


「黒狼の牙、もしくは風見鷹のどちらかに向かっていただきたいですわ」


「護送用の馬車と人員の確保をお願いします」


「バイザック侯爵家の依頼として、名前を使って下さい」


 自然だった。


 貴族として。


 状況を整理し、指示を出している。


 黒狼の牙のリーダーが少し驚いた顔をする。


 風見鷹のリーダーも目を丸くした。


 そして。


 黒狼の牙のリーダーがニヤッと笑う。


「了解だ、お嬢」


 風見鷹のリーダーも頷いた。


「町までは俺達、風見鷹が行ってくる」


 風見鷹のリーダーがパーティーの所に走っていく。


 その時だった。


 後ろで小さな声が聞こえる。


「まるで、氷姫の魔女だったな」


 別の冒険者が頷く。


「初級魔法しか使えないって話、嘘だったんじゃねぇのか……?」


 マリーナが少しだけ目を伏せた。


 まだ実感が追いついていない。


 まるで夢の中にいるようだった。



---


 風見鷹が出発するのを見送り、門の前で野営の支度を始める一行。


 夜。


 門の前で焚き火が揺れていた。


 地下牢も問題なし。


 張り詰めた空気が少しだけ緩んでいた。


 焚き火の周りにはレオンたちと黒狼の牙が座っている。


 戦闘の疲れは大きい。


 だが。


 誰も眠る気にはなれなかった。


 今日の戦いが、それほど異常だった。


 各々、焚き火を見ながら呟く。


「いやぁ……」


「マジで死ぬかと思ったわ」


「途中までは完全に負け戦だったしな」


 アステアが砕けた盾を横へ置きながら言う。


「盾が壊れた……」


 リーナも頷く。


「ほんと魔法使いの相手はしんどいわ」


 そして。


 全員の視線が自然と一人へ向く。


 マリーナ。


 本人は少し居心地悪そうに肩を縮めた。


「な、なんですの……?」


 黒狼の牙のリーダーが笑う。


「なんですのじゃねぇよ」


「お嬢は、氷姫の魔女とか呼ばれ始めてんぞ」


 マリーナが困ったように視線を逸らす。


「わ、私も何が起きたのか……まだ……」


 その時。


 リーナが焚き火を見ながらボソッと言った。


「……でも、まあ」


「カッコよかったわよ」


 マリーナが目を丸くする。


 リーナは顔を背けたまま続けた。


「うちの仲間を馬鹿にされた時、腹立ったし」


「だから、あんたがぶっ飛ばしてくれてスッキリした」


 少し照れ臭そうだった。


 マリーナはしばらく呆然としていた。


 そして。


 ふっと小さく笑う。


「……ありがとうございます」


 その横。


 レオンは静かに焚き火を見ていた。


 マリーナがそっと視線を向ける。


「レオン様も……」


 一瞬迷う。


「助けてくださって、ありがとうございました」


 レオンは短く答えた。


「仲間だからな」


 たったそれだけ。


 だが。


 マリーナの表情が少しだけ柔らかくなった。


 モルガン湖から夜風が吹く。


 焚き火が静かに揺れた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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次回もお楽しみに。

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