表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
88/100

第88話 星空の下で

 バルディアを出て三日。


 一行は平原で野営していた。


 周囲に森は少ない。


 見渡しが良い。


 夜襲を受けても対応しやすい場所。


 焚き火の火が静かに揺れている。


 他の冒険者たちは交代で休息を取っていた。


 黒狼の牙はテントの近く。


 風見鷹は少し離れた位置で見張り。


 静かな夜だった。


 見張りはレオンとアステア。


 二人は馬車の近くで周囲を警戒している。


 夜風が草を揺らす。


 空には星。


 雲一つない。


 アステアが周囲を見回す。


「静かだな」


 レオンも視線を遠くへ向けたまま頷く。


「ああ」


 短い返事。


 その時。


 馬車の扉がゆっくり開く。


 マリーナだった。


 薄い毛布を肩にかけている。


 眠れなかったのか、少しだけ目が覚めているようだった。


 レオンが視線を向ける。


「どうした」


 マリーナは少し迷うように周囲を見た後、小さく口を開く。


「……少し歩いてもよろしいですか?」


 アステアが周囲を見る。


 敵影はない。


 レオンは馬車の横に置いてあったランタンを手に取った。


 火を灯し、マリーナへ渡す。


「遠くへ行くな」


 それだけ言う。


 マリーナは少し驚いたように目を瞬かせた。


 そして。


「……ありがとうございます」


 小さく頭を下げる。


 そのまま、静かに平原の方へ歩いていった。


 揺れるランタンの灯りが少しずつ遠ざかっていく。


 アステアがその背中を見ながら呟く。


「変わったな」


 レオンは何も答えない。


 ただ、揺れる小さな灯りを静かに見ていた。



---


 時間が過ぎる。


 焚き火の音だけが静かに響いていた。


 レオンは空を見上げる。


 星。


 風も弱い。


 静かな夜。


 だが。


 ランタンの灯りが戻ってこない。


 アステアも気づいていた。


「少し遅いな」


 レオンが立ち上がる。


「見てくる」


 アステアが頷いた。


 レオンは平原を歩き出す。


 草を踏む音。


 静かな夜道。


 やがて。


 遠くに小さな灯りが見えた。


 ランタン。


 その光へ向かって歩く。


 少し高くなった岩場。


 その上に、マリーナが座っていた。


 ランタンを横に置き。


 空を見上げている。


 その手の上には、小さな銀色のペンダント。


 月明かりを受けて静かに揺れていた。


 レオンが近づく。


「どうした」


 マリーナは驚かなかった。


 ただ空を見たまま、小さく答える。


「星を見ていましたの」


 一拍。


「……星空って、こんなに綺麗だったのですね」


 夜空いっぱいに星が広がっている。


 見渡す限り。


 光。


 静寂。


 マリーナが小さく息を吐く。


「夜に外へ出ることなんて、ほとんどありませんでしたもの」


 レオンの視線がペンダントへ向く。


「それは?」


 マリーナが少しだけ目を細めた。


「亡くなったお母様の形見ですわ」


 指先でそっと撫でる。


「お母様は、国内でも指折りの魔法師だったの」


 一拍。


 そして。


 少しだけ自嘲するように笑った。


「そんな娘が初級魔法しか使えない出来損ないですから……笑ってしまいますわね」


 夜風が吹く。


 レオンは何も言わない。


 ただ静かに隣へ立つ。


 しばらく沈黙。


 風だけが流れる。


 そして。


 レオンが静かに口を開く。


「ずっとそのままなのか?」


 短い言葉。


 マリーナは少しだけ目を伏せる。


「……分かりませんわ」


 迷いのある声。


「お父様の言葉が、私の全てでしたもの」


 一拍。


「私はバイザック侯爵家の人間として、貴族を真っ当しますわ」


 それは本音だった。


 そう生きるよう育てられてきた。


 それ以外を知らない。


 だが。


 マリーナは少しだけ空を見上げる。


 星が瞳に映る。


「でも……」


 ほんの小さく。


「今は少しだけ、この旅が楽しいと思っていますの」


 初めてだった。


 マリーナが、自分の感情を口にしたのは。


 レオンは何も言わない。


 ただ静かに夜空を見上げていた。


 遠くで焚き火の音が揺れている。


 静かな夜だった。



---


 翌日。


 四日目の夕方。


 一行は再び平原で野営の準備を進めていた。


 長距離移動にも慣れてきたのか、全員の動きが早い。


 黒狼の牙が周囲警戒。


 風見鷹が見張り位置の確認。


 テントが張られ、焚き火の準備が進んでいく。


 その中で。


 マリーナが少しだけ周囲を見回していた。


 何かを探すように。


 そして。


 レオンたちの方へ歩いてくる。


「……何か手伝えることはありますか?」


 リーナが少し驚いた顔をする。


 昨日までなら、自分から聞かなかった。


「じゃあ食器並べてくれる?」


「わかりましたわ」


 マリーナは素直に頷く。


 そのまま食器を並べ始めた。


 ぎこちない。


 だが真面目だった。


 セレナも隣で手伝っている。


 レオンは鍋をかき混ぜながら火加減を調整。


 アステアは薪を運んでいた。


 やがて料理の匂いが広がる。


 それにつられるように、黒狼の牙と風見鷹の冒険者たちも集まってきた。


 マリーナが周囲を見る。


 誰も偉そうに命令しない。


 それぞれ自然に動いている。


 少し不思議そうに呟いた。


「皆さん、毎回こんな食事を?」


 すると。


 黒狼の牙の男が吹き出した。


「いやいや、こんなの焚火の旅団だけだぞ」


 風見鷹の弓使いも苦笑する。


「普通は硬いパンと干し肉と豆だからね」


 別の冒険者も笑いながら頷く。


「本当にレオンなしの冒険ができなくなっちまうよ」


 周囲から笑いが起きる。


 リーナが腕を組みながら大きく頷いた。


「私はもう戻れないわ」


 真顔だった。


 マリーナが思わず吹き出す。


「そこまでですの?」


 アステアが即答する。


「ああ」


 セレナも小さく笑っていた。


 焚き火の周囲。


 笑い声。


 温かい匂い。


 マリーナはその空気を静かに見つめる。


 貴族の食卓とは違う。


 格式もない。


 礼儀も崩れている。


 だが。


 なぜか居心地が良かった。




---


 五日目。


 一行は朝から街道を進んでいた。


 空気が変わっていく。


 風が冷たい。


 湿った匂い。


 昼を過ぎた頃。


 前方を進んでいた風見鷹の偵察役が手を上げた。


「見えた!」


 全員の視線が前へ向く。


 馬車がゆっくり止まる。


 レオンたちも荷台から前方を見る。


 そこには——。


 巨大な湖。


 静かな水面。


 薄い霧。


 空を映したような青。


 その湖畔。


 壁に囲まれるように建っている巨大な屋敷。


 別荘。


 だが。


 普通ではない。


 高い外壁。


 見張り塔。


 巡回している兵。


 完全に要塞だった。


 黒狼の牙の男が低く呟く。


「……貴族の別荘ってレベルじゃねぇぞ」


 風見鷹の弓使いも顔をしかめる。


「戦争でもする気かよ」


 空気が張り詰める。


 ここまでの旅の空気が消える。


 戦場の空気。


 レオンが静かに屋敷を見る。


 入口。


 見張りの塔。


 進路。 


 頭の中へ落とし込む。


 その横。


 マリーナがゆっくり前へ出る。


 湖畔の別荘を見つめる。


 その表情から、いつもの柔らかさが消えていた。


「……さすがにあれはやりすぎです」


「あんな屋敷を見過ごしていたなんて、貴族として恥ずかしいですわ」


 静かな声。


 貴族としての顔。


 空気が変わる。


 旅は終わった。


 ここから先は——戦場だった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。

評価や感想もとても励みになります!


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ