第72話 闇奴隷商討伐会議
バルディアの冒険者ギルド。
日が沈みかけて来た頃。
ギルドの扉が開く。
ギィィ——
中に入ってきたのは、三人。
先頭に立つのは、レオン。
その後ろに、リーナ。
そして。
大きな体の熊獣人——アステア。
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一瞬。
ギルド内の視線が集まる。
そして——
「おっ、焚火の旅団だ!」
誰かが声を上げる。
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「今日も依頼の帰りか!」
「お疲れ!」
「また稼いできたんだろ!」
あちこちから声が飛ぶ。
以前とは違う。
警戒も、敵意もない。
ただの——仲間としての声。
レオンは軽く手を上げる。
「おう」
短い返事。
リーナは少し笑って、軽く会釈する。
アステアは——
少しだけ戸惑いながらも。
小さく頷いた。
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(……この街にも慣れてきたな)
レオンは内心でそう思う。
バルディアに来て、数ヶ月。
そして。
アステアが加わってから、二週間ほどたった。
パーティーとしての動きも、形になってきた。
前衛——レオン。
盾——アステア。
後衛——リーナ。
戦いは安定し。
依頼も、確実にこなしている。
三人は受付へ向かう。
「お疲れ様でした」
サラが笑顔で迎える。
「依頼内容を確認します」
……
「確認できました…こちら、報酬になります」
袋が差し出される。
レオンが受け取る。
ずっしりとした重み。
「ありがとう」
軽く言う。
サラは少しだけ嬉しそうに笑う。
「最近、本当に安定してますね」
ちらりと三人を見る。
「“焚火の旅団”、評判いいですよ」
その言葉に。
リーナが少し肩をすくめる。
「変わった集団ではあるけどね」
レオンが言う。
「覚えやすいだろ」
アステアは少しだけ考えて。
「……悪くない」
ぽつりと呟く。
その言葉に。
リーナがくすっと笑った。
ギルドの空気は、穏やかだった。
依頼の後とは思えないほどに。
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だが。
この平穏は——
長くは続かない。
まだ。
誰も知らない。
これから踏み込むことになる——
“闇”の深さを。
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夜。
バルディアの一角。
暖かな灯りが揺れる店。
《炉端の風見鶏》
その奥。
個室。
三人は、静かに席についた。
料理が並ぶ。
香ばしい肉。
焼き野菜。
温かいスープ。
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だが。
いつもと違う。
「珍しいな」
レオンが口を開く。
「個室なんて」
リーナは軽く肩をすくめる。
「アステアが入ってから、少し経ったでしょ」
一拍。
「だから、共有しておきたいことがあるの」
その言葉で。
空気が少し変わる。
アステアも、姿勢を正す。
「……なんだ」
リーナは一度、扉と周囲を確認する。
誰もいない。
そして。
「私たちは、ギルド長からもうじき直接依頼を受けることになってるの」
静かに言う。
「……ギルド長からの依頼か」
アステアが呟く。
リーナが頷く。
「ええ」
「それも秘匿依頼よ」
一言。
「内容は外部に漏らせない」
「記録にも残らない場合がある」
重さがある。
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レオンは黙って聞いている。
アステアも、目を細める。
「……それが、個室を選んだ理由か」
リーナはゆっくり頷く。
「闇奴隷商の壊滅」
その言葉で。
空気が変わる。
軽さが消える。
「人や子供、エルフ、獣人、何でも攫って売る連中よ」
「特に——」
一拍。
「エルフと獣人が狙われてる」
静かに告げる。
アステアの手が、わずかに止まる。
視線が落ちる。
「……そうか」
低く。
「俺たち獣人も奴隷として商品にしやすいからな」
その言葉には。
感情が滲んでいた。
怒り。
諦め。
リーナは続ける。
「しかも、ただの犯罪者じゃない」
「教会と貴族が関わってる可能性がある」
沈黙。
レオンが口を開く。
「ほぼ確定で黒だけどな」
淡々と。
アステアがゆっくりと顔を上げる。
「……それを、潰すのか」
確認。
リーナは頷く。
「そのための秘匿依頼よ」
一瞬の静寂。
そして。
「……俺もやる」
アステアの声。
迷いはない。
「俺たち獣人は——」
一拍。
「売られる側だ」
低い言葉。
視線が交わる。
リーナが小さく息を吐く。
「じゃあ、決まりね」
それだけ言う。
空気が少しだけ緩む。
「とりあえず——」
リーナが料理を指す。
「冷める前に食べましょう」
レオンが肉を取る。
「だな」
アステアも、静かに頷く。
三人はまた食べ始める。
会話は少ない。
さっきまでとは違う。
“同じ方向を向いた沈黙”だった。
焚火の旅団。
次の目的が—―
ひとつ、決まった。
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数日後の朝。
バルディアの空は澄んでいた。
ギルド前。
三人の姿が集まる。
レオン、リーナ、アステア。
いつもの待ち合わせ場所。
「さて」
レオンが軽く伸びをする。
「今日はどうする」
リーナが腕を組む。
「討伐もいいけど」
「たまには採集でもいいんじゃない?」
アステアが静かに言う。
「どちらでも構わない」
短い返事。
「相変わらずだな」
レオンが少し笑う。
「無駄がないのよ」
リーナも軽く返す。
そんな軽いやり取り。
今日も、いつもと同じ一日だと思っている。
「とりあえず中入るか」
「ああ」
三人はギルドの扉を押す。
ギィィ——
中に入る。
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朝のギルド内。
すでに何人もの冒険者が動いている。
「お、焚火の旅団だ」
「今日も依頼行くのか?」
軽く声が飛ぶ。
レオンが軽く手を上げる。
「まぁな」
三人はそのまま掲示板へ向かう。
依頼を確認しようとした——
「焚火の旅団のみなさん」
横から声。
サラだ。
笑顔。
いつも通りの柔らかい雰囲気。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
レオンが軽く返す。
リーナも軽く手を振る。
「どうしたの?」
サラは少しだけ周囲を見て。
ほんの少しだけ声を落とす。
「ギルド長がお呼びです」
「ギルド長のお部屋までお願いします」
軽い口調。
だが。
内容は軽くない。
一瞬だけ。
三人の空気が変わる。
レオンとアステアが視線を交わす。
無言。
リーナが小さく息を吐く。
「……来たわね」
軽く言う。
そして。
「わかった、今行くわ」
いつもの調子で返す。
サラは頷く。
「今は、二階のギルド長の部屋にいらっしゃいます」
三人は同時に頷く。
迷いはない。
そのまま。
ギルドの二階へと歩き出す。
軽い足取りのまま。
その先にあるのは——
もう、日常ではない。
---
ギルドの二階の一室。
重厚な扉の前。
三人は足を止める。
コンコン。
「入れ」
低い声。
ガチャリ……。
レオンが扉を押す。
部屋の中。
書類の山。
地図。
そして——
机の奥に座る男。
ギルド長、ギン。
「焚火の旅団到着しました」
レオンが話す。
「来たか」
短く言う。
三人は中へ入る。
「ちょうど使いをだそうと思ってた」
ギンが腕を組む。
「朝からギルドに来てくれて助かる」
レオンが軽く肩をすくめる。
「たまたまだ」
リーナはすぐ本題に入る。
「それで?」
ギンの表情が少しだけ変わる。
「……本題だ」
机の上に一枚の紙を置く。
「闇奴隷商を潰す」
一言。
部屋の空気が締まる。
「最近、また動きが活発になってる」
「特に——バルディア周辺だ」
アステアの視線が鋭くなる。
「裏には子爵がいる」
「ほぼ確定だ」
一拍。
「だが、証拠がない」
拳で机を軽く叩く。
レオンが口を開く。
「だから貴族が必要か」
ギンがニヤリとする。
「話が早ぇな」
その時。
コンコン。
扉が叩かれる。
「サラです」
「お二人共、お連れしました」
ギンが短く言う。
「通せ」
扉が開く。
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最初に入ってきたのは——
一人の女性。
白を基調とした装い。
柔らかな雰囲気。
「……失礼します」
穏やかな声。
そして、その後ろから。
もう一人。
ゆっくりと入ってくる。
整った容姿。
気品のある立ち振る舞い。
ギルドには似つかわしくない真っ赤なドレス。
どこか鼻にかかるような声音で言う。
「……こんな場所に呼び出すなんて」
「ずいぶんと雑な扱いですわね」
高飛車な態度。
部屋の空気が、わずかに揺れる。
リーナが目を細める。
アステアは静かに観察する。
レオンは——
(……こいつは)
(めんどくさそうな貴族だな)
そんな感覚。
ギンが口を開く。
「紹介する」
「この2人が今回の協力者だ」
一拍。
「まず聖女、セレナ」
「それと——」
貴族の女性を見る。
「バイザック侯爵家三女、マリーナだ」
その言葉で。
すべてが繋がる。
冒険者。
教会。
貴族。
三つの立場が——
ここに揃った。
闇奴隷商を潰すための。
“戦い”が、ついに始まる。
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