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食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


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71話 アステア

 渓谷を抜ける道。


 日が傾き始めていた。


 赤い光が岩肌を照らす。

 

 風は少し冷たい。


 レオンたちは、ゆっくりと歩いていた。


 アステアの仲間は簡易の担架に乗せている。


 リーナが先頭。


 道を確認しながら進む。


 レオンは後方。


 周囲を警戒している。


 その間に——


 アステアがいた。


 黙って、担架を支えている。


 だが。


 足取りは重い。


 しばらく、誰も話さない。


 足音だけが響く。


 やがて。


 アステアが口を開いた。


「……何故、助けた」


 唐突な問い。


 レオンは前を見たまま答える。


「目の前にいたからだ」


 それだけ。


 アステアは黙る。


 だが。


「……あのままだったら全滅だった」


 言葉を探す。


「俺は、どうすればいいのだろうか」


 レオンが少しだけ目を細める。


「戦うしかないだろ」


 一刀両断。


 アステアの足が、わずかに止まる。


 だが。


 すぐに歩き出す。


「……そうだな」


 低く言う。


 レオンは何も言わない。


 少し歩いて。


「……いつからだ」


 レオンが短く聞く。


 アステアが顔を上げる。


「何がだ」


「戦うのを怖がって、守るだけになったのは」


 一瞬。


 空気が止まる。


 風の音だけが通り抜ける。


 アステアは、すぐに答えない。


 視線を前に戻す。


 そして。


 ぽつりと。


「……昔だ」


 短い。


 それ以上は言わない。


 言えない。


 レオンもそれ以上踏み込まない。


 軽いものじゃない。


 だから。


 今も縛られている。


 その時。


「もうすぐ渓谷を抜けるわ」


 リーナの声。


 視界が開ける。


 渓谷の出口。


 遠くに、街へ続く道が見える。


 だが、夕焼けが広がる。



---


 渓谷を抜けた先。


 少し開けた平原、街道までまだかなりの距離がある。


 だんだんと日が落ちてきている。


 レオンが足を止めた。


「ここでいい」


 短く言う。


 荷を下ろす。


 リーナもすぐに動く。


 周囲を確認し、薪を集める。


「何をしている?」


 低い声。


 アステアだ。


 担架を支えたまま、こちらを見る。


「夜通し歩けば、朝には街に着けるぞ」


 アステアは焦りが滲んでいる。


「こいつらは大怪我している」


「一刻も早く街に戻るべきだ」


 レオンは野営の準備をすすめる。


 淡々と答える。


「無理だな」


 即答。


 アステアの眉が動く。


「……何を言っている」


 一歩踏み出す。


「ヒーラーもいない」


「回復手段もない」


「動かす方が危険だ」


 正論。


 だが——


 レオンは薪を組みながら言う。


「だからだ」


 火打石を鳴らす。


 火がつく。


「まずは回復が最優先だ」


 焚火が灯る。


 アステアの目がわずかに揺れる。


「……回復だと?」


「どうやってだ」


 苛立ち。


 焦り。


「今は野営と食事の準備だ」


 レオンが言い切る。


 一瞬の沈黙。


「……正気か?」


 アステアの声が低くなる。


「食事でどうにかなる傷じゃない」


 当然の反応。


 レオンは立ち上がる。


「なる」


 短く。


 その言葉に、迷いはない。


 アステアは言葉を失う。


「お前は…何を言っているんだ」


 レオンの言葉が理解できない。


 だが。


 その空気が——


 ただの強がりじゃないと告げている。


 リーナが横で小さく笑う。


「まぁ見てなさい」


 軽い口調。


「この人の料理、ちょっとおかしいから」


「……料理だと?」


 アステアの常識が追いつかない。


 その間にも。


 レオンは動く。


 レオンはナイトオークとサラマンダーの肉を荷物から下ろす。


 先程の戦闘の後に食事用に食べる分を切り出しておいたのだ。


 その肉塊に迷いなく、刃を入れる。


 肉を切り分けていく。


 無駄がない。


 戦闘の延長のような動き。


「……それを、どうする」


 アステアが低く問う。


「食べる」


 短く答える。


 肉を細かく刻む。


 さらに細かく。


 ほとんど形が残らないほどに。


 鍋に刻んだ肉を入れる。


 水。


 野草。


 豆。


 そして、バルディアで手に入れた"お米"。


 遠征にお米があると主食なるので助かる。


 この世界でごく一部の人達しか食べないらしいのでバルディアに来るまであるとは思わなかった。


 鍋を火にかける。


 蓋をしてコトコトと音がする。


 薪を崩して火の火力を下げ、鍋の状態を見つめている。



---


 30分ほどして、レオンが鍋の蓋を空ける。


 肉と香草の香りが辺りに広がる。


 とろみのついた粥のような状態に仕上がっている。


「それは何だ?……それで本当に回復するのか」


 疑いの声。


 レオンは答えない。


 器に移す。


 怪我をしている冒険者の元へ。



---


「起きろ」


 軽く肩を叩く。


 うっすらと目を開ける。


「……食えるか?」


 弱く頷く。


 レオンは身体を支える。


 おかゆをゆっくりと口へ運ぶ。


 一口。


 次の瞬間。


 男の目がわずかに見開かれる。


「……っ」


 飲み込む。


 もう一口。


 自然と口が動く。


 身体が“欲している”。


 他の大怪我をしている冒険者にも介助しながらおかゆを食べさせる。


 そして全員が、同じ反応を見せる。


 しばらくして。


 最初の男が呟く。


「身体の痛みが減って、回復していく……」


 別の者も。


「痛みが……引いてる」


 先程まで横になっていた者たちに明らかな変化が見える。


 アステアの目が見開かれる。


「お前は……何をした」


 信じられないという顔。


 レオンは淡々と答える。


「食わせただけだ」


 それだけ。


 アステアは言葉を失う。


 もう意味が分からない。


 だが。


 目の前で起きている事実。


 “回復している”。


 ヒーラーもいないのに。



--- 


 レオンは再び火に向かう。


 今度は——


 大きめに切り分けた肉。


 ナイトオークの肉を焼く。


 ジュウッ——


 脂が弾ける。


 香ばしい匂いが広がる。


 先ほどとは違う。


 力強い香りだ。


 両面を香ばしく焼き上げ、切り分けていく。


 リーナはお皿を取り出して、盛り付けの準備をする。



---


「食え」


 アステアに差し出す。


 アステアは、無言で受け取る。


 一口。


 噛む。


 その瞬間。


「……!」


 目が見開かれる。


 旨い。


 それだけじゃない。


 身体の奥。


 力が満ちてくる。


 疲労が抜ける。


 さっきまでの消耗が、嘘のように軽くなっていく。


「……なんだ、これは」


 思わず漏れる。


 レオンは焚火の前で座る。


「ただの飯だ」


 それだけ言う。


 アステアは、その背中を見る。


 理解が、追いつかない。


 だが。


 ひとつだけ分かる。


 この男は——


 “普通じゃない”。


 レオンも焚火を前にナイトオークの肉にかぶりつく。


 そして……捕食者Lv3効果発動。


体力回復(微)


疲労軽減(微)


精神安定(微)


俊敏性(微)


気配隠蔽(微)


状態異常軽減(微)


 身体の疲れが取れていくのが分かる。


 そして……。


[スキルを獲得しました]


[スキル 斬れ味増加(シャープネスエッジ)]


 剣に魔力を込めると斬れ味増加。


 レオンは、また一つ強くなれた。



---


 夜。


 焚火の火が、静かに揺れる。


 パチ、パチと薪が弾ける音


 空には星。


 渓谷を抜けた静かな平地。


 大怪我をしていた冒険者たちは、眠っていた。


 先ほどまで苦しんでいたとは思えないほど、穏やかな寝息。


 呼吸も安定している。


 もう命に別条はない。


 少し離れた場所。


 焚火の前に、二人。


 レオンとアステアだ。


 しばらく、無言。


 火を見つめる時間。


 やがて。


 アステアが口を開いた。


「……あれは、何だ」


 視線は火のまま。


「俺の料理スキル」


 レオンの短い返答。


「……あれがスキルだって言うのか?」


 アステアは首を振る。


「あれは、ただの食事じゃない」


 一拍。


「異常だ」


 その言葉に、重みがある。


 レオンは少しだけ薪を足す。


「ふっ、そういうもんだ」


 淡々と。


 アステアは、それ以上は聞けない。


 代わりに。


 少しだけ迷って。


「ありがとう、全員助かった」


 レオンは少し考えて。


「冒険者だからな、気にするな」


 それだけ答える。


 アステアは、小さく息を吐く。


「……そうか」


 納得したわけじゃない。


 だが。


 それでいいと思った。


 再び、沈黙。


 火の音だけが響く。


 そして。


「……昔」


 アステアが、ぽつりと呟く。


「駆け出しの頃、パーティーを組んでいた」


 レオンは何も言わない。


 ただ、聞く。


「今より、人数も多かった」


 火が揺れる。


「俺は、前に出て戦っていた」


 一瞬、言葉が止まる。


「……だが」


 拳が、わずかに握られる。


「守れなかった」


 低く。


「後ろにいたやつらが、先にやられた」


 焚火の火が、揺れる。


「気づいた時には、もう遅かった」


 一拍。


「……全員、死んだ」


 静かな言葉。


 だが。


 重い。


 レオンは、視線を火に落とす。


 アステアは続ける。


「俺だけが、生き残った」


 その事実。


「それからだ」


 ゆっくりと。


「前に出るのが怖くなった」


「守ることだけを考えるようになった」


 火を見つめる目が、わずかに揺れる。


「同じことを、繰り返さないために」


 その言葉。


 すべての理由。


 レオンは、静かに聞いていた。


 そして。


「……それで、また同じような過ちを繰り返してる」


 短く言い、アステアの顔が下を向いた。


「大盾使いが、命を掛けて守る事は間違ってない」


「だが、それだけじゃ足りない」


 レオンは焚き火に薪を追加しながら言う。


 アステアは、その言葉を受け止める。


 今まで、考えなかったこと。


 いや。


 考えないようにしていたこと。


 ゆっくりと。


「……怖いんだ」


 ぽつりと漏れる。


「また、失うのが」


 本音。


 レオンは少しだけ目を細める。


「なら、背中を預けれる仲間を見つけろ」


 簡単に言う。


 だが。


 答えだった。


 アステアは火を見つめる。


 揺れる炎。


 その中に。


 何かが変わり始めていた。


 守るだけの盾から——


 “戦う盾”へ。



---


 夜明け前。


 空が、わずかに白み始めていた。


 焚火は小さくなり。


 静かな時間が流れている。


 レオンは少し離れた場所で、周囲を見ている。


 その背中。


 アステアは、じっと見ていた。


 考えている。


 昨夜の言葉。


 守るだけでは足りない


 失わない形を作れ。


 頭の中で、何度も繰り返す。


「……」


 答えは、まだ出ない。


 その時。


「ん〜……」


 間の抜けた声。


 リーナが起き上がる。


 寝癖のついた髪を軽く押さえながら、周囲を見る。


「……あれ?」


 アステアと目が合う。


「えっ……顔くらっ!?」


 一瞬、驚く。


「どうしたの、そんな顔して」


 まだ少し寝ぼけている。


 アステアは少し言葉を迷って。


「……考えていた」


 リーナは首をかしげる。


「何を?」


 一瞬の沈黙。


「……自分の、戦い方を」


 その答えに。


 リーナの目が少しだけ変わる。


「そう」


 完全に目が覚める。


 ゆっくりと立ち上がる。


 アステアの前へ。


 真っ直ぐに見る。


「じゃあ、聞くわ」


 一歩、近づく。


「アステア」


 名前を呼ぶ。


「何のために冒険者をやってるの?」


 真っ直ぐな問い。


 逃げ場はない。


 アステアは少しだけ目を伏せる。


 そして。


「……贖罪だ」


 短く答える。


 一瞬の静寂。


 その次の瞬間。


「なら冒険者をやめなさい」


 即答。


 アステアの目が見開かれる。


「……何?」


 リーナは一歩も引かない。


「死んだ人を思うのは間違ってない」


「忘れないことも大事」


 一拍。


「でも、それを理由にするのは違う」


 はっきりと言い切る。


 アステアは言葉を失う。


「昨日の戦い方」


 リーナが続ける。


「正直に言うわ」


 一瞬だけ間を置く。


「Dランクがギリギリよ」


 重い言葉。


「むしろ」


「昨日は死人が出てもおかしくなかった」


 突きつける現実。


 アステアの拳が握られる。


 何も言い返せない。


 事実だからだ。


 リーナはさらに一歩踏み込む。


「だからもう一度聞くわ」


 逃がさない。


「どうして冒険者をしているの?」



---


 静かに。


 だが、強く。


 アステアは、言葉を探す。


 贖罪。


 その言葉が、頭に浮かぶ。


 だが——


(……違う)


 昨日。


 守った仲間。


 助けられた命。


 そして。


 目の前の二人。


 あの戦い。


 胸の奥に、何かが残っている。


 ゆっくりと。


「……俺は」


 顔を上げる。


「守りたい」


 はっきりと言う


「今、目の前にいるやつらを」


 リーナの目がわずかに緩む。


「なら」


 一歩下がる。


「そのための戦い方をしなさい」


 リーナはそれだけ伝える。



---


 背中を押してもらった。


 アステアは、深く息を吐く。


 そして。


 立ち上がる。


 レオンの方を見る。


 少し離れた場所。


 変わらず、周囲を見ている背中。


 一歩、また一歩。


 レオンに近づく。


「……レオン」


 名前を呼ぶ。


 レオンが振り返る。


 アステアは、その目を見て。


「俺を、使ってくれ」


 一瞬の静寂。


「盾として」


「……戦う盾として」


 言い切る。


 レオンは少しだけ見る。


 そして。


「いいぞ」


 短く答える。


「俺の背中はお前に預けるぞ」


 その一言。


 アステアの目が変わる。


「……ああ」


 頷く。


「背中は任せろ」


 その言葉は。


 もう、以前とは違う。


 “守るだけの盾”ではない。


 “戦う盾”の言葉だった。


 朝日が昇る。


 新しい一日。


 そして——


 新しい仲間が。


 アステアが、焚火の旅団に加わった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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次回もお楽しみに。

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一応助かったパーティーメンバーいるのに、相談もせずに抜けるのか… パーティーメンバーじゃなく、ただの野良パーティーだったのかな?
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